2009年08月20日

富国強兵と加工貿易と

国家として、そのフレーズを正式に採用したかどうかは別として、富国強兵は明治維新以降の国家基本戦略。がんばって稼いで、軍備を増強し、その軍事力を伴って海外に進出する、あるいは欧米の列強と対峙する。当時の情勢を考えれば納得できる選択であったと思う。


戦略は順調に実を結び、日本は近代国家に転身できたが、太平洋戦争に負けたことで「強兵」路線は終わる。その後は、アメリカの庇護の元で平和国家?に転換する。


「強兵」を支えた「富国」は、昔に教科書で習った「加工貿易」。国内で資源はほとんど産出されないので、それを輸入し、加工し製品に仕上げ、つまり付加価値を高めて輸出する=それで稼ぐ。「強兵」路線が終わったあとも、これは続いている。イマ風に表現すれば日本のビジネスモデル。加工貿易というと貿易のほうを連想しがちになるが、もちろん本質は製造業にある。航空機など一部分野で例外はあるものの、日本はモノづくり大国である。


  さて
  しかし


1)
産業別のGDPにおいて、製造業が占める割合(平たくいえば日本全体の稼ぎに占める割合)は21%で、サービス業の22%より少ない。30年前には製造業28%、サービス業14%であった。

この国の産業構造は代わりつつある。
現実はモノづくり一辺倒国家ではない。


2)
リーマンショックのおかげで?各種天然資源の価格は落ち着いているものの、少し前のガソリンのようにいずれ高騰する。世界人口の4割を占める中国とインドが、たとえば日本と同じような生活水準になるまでに、猛烈な勢いで資源を消費する。もちろん他の途上国だって発展する。

資源価格=材料費が上昇した分、製品価格に転嫁できるか? たぶんできない。ガソリンは今125円くらいである。近いうちにまた200円に、つまり6割ほど上昇すると予測してもそう反論されないだろう。でも近いうちに年収が6割増えると思う人はそういないはず。だからストレートに価格転嫁したら売れない。※ちょっと例が単純で強引なことは承知の上で書いている。

つまり、製造業が今よりは儲からない産業になるということである。


3)
より付加価値の高いモノにシフトしなければいけませんと評論家はよく言う。あなたがビジネスマンであるなら、それがどれだけ難しいか知っている(^^ゞ

もちろん高付加価値化は方向としては間違っていない。でも、ちょっと周りを見回して欲しい。「モノ」がよければ、3割4割高くても喜んで買うという商品がどれだけある?

高付加価値化(かつ高価格化)が適用できる商品は、実はそれほど多くない。事例が少ないから成功例がもてはやされる。高付加価値で夢を語るコンサルタントを信じてはいけません。もちろん私はクライアントのレベルに応じて、慎重に言葉を選んでいる(^^ゞ


4)
日本の製造業の代表は自動車産業である。ところで以前、1989年に日本のクルマは世界に並んだと書いた。日本のメーカーが実用的なクルマを売り出したのは1960年くらいからである。つまり約30年で一流になった。

中国の自動車メーカーは、今は日本やヨーロッパのパクリみたいなクルマしか作っていないけれど、間違いなく20年以内に世界水準に並ぶクルマを作ってくる。クルマだけでなく、製造業のあらゆる分野でこういうことが起こる。


加工貿易というのは、一握りの先進国と多数の途上国という状況で成り立つビジネスモデルだと考えている(国の数じゃなくて、人口で考えてね)。そして20年なんて=成り立たなくなるまで、あっというまである。



  さて
  さて


選挙では自民党と民主党が、お互いに経済成長戦略がないと非難しあっている。ないのも当然で、国家百年の計とまでいわなくても、20年後30年後の日本の経営戦略ですら専門家の間でもそんなに議論されていない。読んだり聞いたりできる専門家の議論というのは、それを職業としている人たちによるわけで、金にならない=需要がない=世間の関心の薄い超長期の議論が盛り上がらないのも、これまた当然である。


ところで
製造業が日本経済を支えてきた時代が長く続いたせいか、不況脱出のシナリオとして「モノづくり国家の復権」なんてタイトルは受けがいい。また不景気になれば東京の大田区や東大阪の町工場を取材して「がんばっている人たちをなんとかしなければいけません」なんてワンパターンの報道ばっかりである。

要するに経済や産業という言葉を聞いたときの発想が製造業に偏りすぎている。製造業を大事にするなとは、もちろんいわない。しかし、それに頼れる時代は過ぎようとしている。町工場の経営がうまくいっても、日本の将来は開けない。少し前、金融機関以外に公的資金を資本注入することが決まったが、見事に製造業重視である。これは経済「対策」であっても成長戦略ではない。まあ破綻の先送りくらいしか機能しない。


選挙では「今、そこにある票田」が大事だから、こんなことにかまってられないのはわかる。しかし、どっちの党でもいいから政権を獲得したら、真の意味での成長戦略をしっかりと考えて欲しい。自分たち自身で議論できる能力がないとしても、議論の仕掛け・仕組み作りに汗をかいてもらいたい。バブルがはじけて、失われた10年が流れて、さらに5年ほどたった。予想よりちょっと早く、GDPでいよいよ中国に抜かれそうである。そろそろ国家経営を改革し、リストラ(首切りじゃなくて再構築ね)を進めないとヤバイ。

オバマは「チェンジ!」で躍り出たけれど、その前に必要なのは「シフト!」である。医療に福祉に年金に、これから膨大な金が必要となる。国は借金で首が回らないしお先真っ暗と思われている。しかし、もっと稼げる国になれば、別にヘッチャラはず! そこに知恵を絞り、有望分野に投資配分を高めるのが政治である。



ついでに余力があれば、
そろそろ「強兵」に代わる国家の目標も必要かな。
目標がないと、やる気も起きないもんね。

wassho at 23:30│Comments(0) 社会、政治、経済 

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