2011年08月20日

レオナール・フジタ 私のパリ、私のアトリエ展

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一度見たら忘れられない、終戦後の漫才師のようなこの風貌の画家のことを知ったのは中学生の頃だったか。明治生まれの日本人で、パリで活躍しとても人気があったと知って、何となく誇らしげな気持ちになったことを覚えている。オシャレだし、なぜかそのヘアスタイルは反骨精神のあらわれだと勝手に解釈して、親近感をいだいたというか「カッコええオッサンやな〜」とも思った。

藤田嗣治(つぐはる)は、たぶん映画の黒沢監督が活躍するまで、フランスでもっとも有名な日本人だったと思われる。話はそれるがフランス人はなぜか黒沢作品が好きで、作品を何本も見て詳しい人が多い。いい映画が多いと思うが、あんな古い映画をなぜ好んでみるのかよくわからない。「黒沢の映画? 何本かは観たけど、具体的には覚えていないなあ」とかフランス人に言うと、残念そうな顔をされるので困る。


まあとにかく、このおかっぱ頭のオッサンは第1次世界大戦後の1920年代のパリで大活躍した画家である。エコール・ド・パリと呼ばれた当時の画壇の中心人物でもあり、フランス政府から一番位の高い勲章まで授けられている。ちなみに狩野派とかは師匠がいて、作品に一定の特徴がある「流派」である。印象派は画家によって絵のスタイルは全く違うけれど、もっと自由に感じたままに絵を描こうぜというコンセプトに共鳴した画家の集団。エコール・ド・パリはシャガールやモディリアーニ、ルソーなどが有力メンバーとされるが、作品に共通点や主義主張があったわけではない。1920年代にパリで活躍した画家の一部をまとめてこう呼ぶ。いってみれば「エンタの神様に出演していた芸人」みたいなくくり方。 

ちなみにエコールとは「学校/学派・流派」とかいう意味でエコール・ド・パリを直訳すればパリ派となる。ついでにレオナールというのは晩年彼がフランスに帰化して改名した名前。Leonardだから英語読みすればレオナルド。もひとつついでに、芸術家であのヘアスタイルだとカマっぽく思えるが、彼は5回も結婚している!



 「横たわる裸婦と猫」
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彼が描く女性は「素晴らしき乳白色」とか呼ばれる白い皮膚の色が特徴。絵の具にベビーパウダーを混ぜていたという説もある。別にどうってことはない絵なのだが、シーンと静寂で引き込まれていくような魅力は確かにある。猫は彼が猫好きだからと思うけれど、多くの作品に特に意味もなく描き込まれている彼のトレードマーク。手塚治虫のこれみたいなものか。ずっとブタ鼻とよんでいたがヒョウタンヅギという名前だと、さっき初めて知った。


 「ラ・フォンテーヌ頌(しょう)」
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なんとなく「赤ずきんちゃん」を思い出した作品。ざっと調べたらイソップ物語をフランス語に翻訳したのがジャン・ド・ラ・フォンテーヌという人らしい。頌(しょう)というのは「誉めたたえる」という意味で、フォンテーヌ氏に敬意を表してということかと思う。家康公みたいなものか。

意図のよくわからないヘンチクリンな絵である。あまり難しく考えないで、あのオカッパ頭がシャレで描いたものだと思うことにしよう。


 「少女と果物」
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何とも愛くるしい作品。彼の描く少女はほとんどがこの顔で、なぜかいつも鳥の物まねをするように、口をすぼめたような表情をしている。

ほとんどの作品がそうなのだが、画風は繊細で緻密。そして透き通るような色彩が藤田嗣治の特徴。絵のタッチは水彩画あるいは日本画のようで、油絵のイメージとはちょっと違う。このあたりが彼の魅力。

ただ立体感というか構築感というかそういうものは希薄。パット見は気楽なイラストに見えなくもない。そこは人によって評価が分かれるかとも思うが、私的にはちょっと残念。でもフランス人には彼らが大好きな浮世絵のイメージと重なったのかと思ったりもする。




全部で120点展示されているとのことだが、挿絵とかの作品が多く大作が少なかったので、少し物足りなかった。でも藤田と親交のあった画家ということで、ピカソやモディリアーニ、ローランサンなどの作品も展示されていたので何か得した気分。それと常設展示の部屋にはルノワールにゴッホにモネ、黒田清輝や岸田劉生と人気作家の作品がずらーっと並んでいる。ちょっとコレクションにポリシーがないような気もするが、入場料1800円の価値は充分にある。


さて、次はバイクでどこの美術館へ行こうか。

wassho at 19:16│Comments(0) 美術展 

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