2011年12月22日

泣くのが作法

金正日総書記が亡くなって、朝鮮半島情勢は何かと慌ただしい。
報道などを見ていて疑問に思ったことを3つ。

1)北朝鮮軍が軍事行動に出る

総大将が倒れたら撤退するのが古今東西の軍事的なセオリー。なぜなら精神的支柱がなくなった軍隊は弱くなるから。北朝鮮が常識の通じない国であるとしても、死亡をきっかけに攻勢に出ることは考えられない。韓国軍は直ちに非常警戒態勢に入ったが、それは一部部隊の暴走に備えてじゃないかな。あるいは政府の政治的パフォーマンスかもしれない。

若将軍様が権力誇示のために、今後に何かやらかすことはもちろん可能性としてある。けれどもそれは葬式を終えて、遺産(権力)相続のゴタゴタが片付いてから。日本的な感覚でいえば四十九日が過ぎてから。今すぐ何か起きるなんてテレビなどで言っている人は、注目を集める発言をするのが職業の人である。


2)金正日は暗殺された

大手マスコミには載っていないが、スポーツ新聞系のサイトには派手な見出しとともに、そんな記事が多数。今すぐ軍事行動に出ると同じで、騒ぎ立てて読ませようというマスコミの悲しいサガである。視察途中に突然なくなったという北朝鮮の発表は鵜呑みにできないとしても、その後の整然とした事態の推移を見ると、ワイドショーネタになるようなことは起こっていない気がする。


3)北朝鮮の人が泣いているのはヤラセだ

「私たちの将軍様が」と号泣している映像。北朝鮮国営テレビの配信だから、あれはきっとヤラセだ、困窮した生活を送っているから金正日は国民に嫌われていたに違いないーーーというような論調。

最大で半分正しく、半分間違っている。

いくつかの映像を見たが、不自然な集団が号泣していたものもあったからヤラセもあると思う。ただし号泣がヤラセの演出かというと、ちょっと事情が複雑なのである。

韓国のお葬式でも、日本じゃ考えられないほどの派手な号泣を見ることがある。同じ顔をしていても、日本人と較べて韓国人のほうが感情表現が大きいのかもしれないが、あれは作法のひとつでもある。

韓国のお葬式を紹介しているサイトから引用
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「哭」の儀式とは?
李氏朝鮮時代以降、儒教の流入により埋葬の儀式と共に、泣く事を形式化することを定めたらしい。本能的な自然の泣き方でない「アイゴー、アイゴー…」と言って大声をあげて泣く儀式で、故人が息を引き取った後から葬儀の期間中の朝夕にしなければならず、喪服を脱ぐ時まで続けられる。葬儀の期間が長いと喪主が大変なので、泣くのを代理でする代哭制もあったという。
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今でもお金持ちの葬式では「泣き屋」とか「泣き女」と呼ばれる職業の人を呼ぶらしい。通販番組のスタジオで、大げさに「え〜!安い!」とか叫んでいるおばちゃん達みたいな人と同じく雰囲気の演出(^^ゞ


だから、このCNNのレポートに出てくるアジア研究専門家とか、ミシガン大学の心理学教授のコメントはピントがずれているーーーというか滑稽ですらある。CNNももう少し正確なレポートを書いてくれないと。


話は変わるが日本人は感情表現をあまり表に出さない民族である。終戦の玉音放送を聞く日本人の模様をテレビなどで見たことがあると思うが、「すすり泣き」の日本人を見て、日本人は敗戦にあまりショックを受けていないと欧米では受け止めたという話を聞いたことがある。

所変われば〜ではないが、民族変われば何かと変わる。是非CNNには、玉音放送を聞く日本人についてもレポートを出して欲しいものだ。


※CNNの記事はいずれ読めなくなるので「続きを読む」に引用しておく。

http://www.cnn.co.jp/world/30005000.html

北朝鮮の人はなぜあれほど嘆き悲しむのか――専門家に聞く
2011.12.20 Tue posted at: 14:53 JST


(CNN) 国営テレビのアナウンサーが涙ながらに金正日(キム・ジョンイル)総書記死去の報を伝えた瞬間、会場に集まった人たちは息をのみ、そして全員が感情をあらわにして大声で泣き叫んだりすすり泣いたりし始めた。

口ぐちに「父よ!」と叫ぶ人、心痛でこぶしを胸に当てる女性。体を大きく揺らしたり、まっすぐ立っていられないほど激しい悲しみに暮れる人もいた。マイクを持つ朝鮮中央通信の記者も頭を深く垂れ、体を震わせた。

北朝鮮のメディアが伝えた国民の悲嘆ぶり。しかし外から見ると芝居がかって見える部分もあり、本当に悲しんでいるのかどうか疑問視する向きもある。

アジア研究専門家のサンユン・リー氏は北朝鮮について「厳格な統制社会で国民は幼少時から指導者を敬愛するよう指導されている」「指導者の死は適切に悲しむべきことというのが暗黙の了解であり、適切に悲しまなければ糾弾される。いつも監視の目が光っており、このニュースを嘆き悲しまなければまずいことになる」と指摘する。

国民は大げさに振る舞っている人もいれば心から悲しんでいる人もいるとリー氏は言い、「彼らはそうプログラミングされ、指導されている。適切な悲しみ方において家族や近隣をしのぐことへの動機付けがある」「北朝鮮の人たちにとって指導者は神のような存在であり、その死は感情的な反応をもたらす」と解説した。

中には感情がこみ上げて言葉にならない人もいたが、「有名人が死亡すると、誰もがその人物と知り合いだったかのような幻想にとらわれ、そして集団ヒステリー状態が発生する。これは非常に伝染しやすく、大人数の集団では山火事のように燃え広がる」と別の専門家は言う。

この悲しみぶりは、金総書記がどれほどの権力を握っていたかを物語るものだと解説するのは、ミシガン大学の心理学教授スコット・アトラン氏。

同氏によれば、独裁者の多くは人々の恐怖に付け込んで自分の地位を守っている。アジアの大国に占領された歴史を持つ北朝鮮は、チュチェ(主体思想)を根拠として国を閉ざすことを正当化してきた。そのため国民には別の角度から現実を見る術がなく、「この独裁者と感情的につながっている」(同氏)。その死を嘆き悲しむ気持ちに偽りはないと同氏は見る。

国営テレビに映った人たちは感情を高ぶらせ、「(金総書記は)私たちを本当に愛してくださった。それに報いることができない」「もうたくさんです、戻って来てください。私たちを置いていかないでください。ずっとあなたをお待ちしています」と泣き叫んでいた。

wassho at 18:55│Comments(0) 社会、政治、経済 

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