2013年06月20日
愛と哀しみのボレロ
最近DVDを借りてみた映画。
ここでいうボレロとは女性が着る丈の短い上着ではなく、ラベルという人が作曲したクラシック音楽のタイトル。もともとボレロはワルツやソナタと同じように曲の形式を表す言葉だが、ラベルの作曲したボレロがあまりに有名で、ボレロをいえばその曲を指す場合がほとんど。ボレロの名前は知らなくても、CMやドラマでもしょっちゅう使われているから、聴けば「ああ、これか」とわかるはず。
それで「愛と哀しみのボレロ」。
1981年公開だから30年以上前の映画。タイトルだけはずっと昔から知っていたように思う。もちろん観たのは初めて。映画は痛快アクション系が好みだけれど、そればかりじゃ芸がないから、たまに毛色の違うものも借りてくることを以前にも書いたかもしれない。監督はクロード・ルルーシュというフランス人で、あまりよく知らない。当然この映画はフランス映画。フランス映画がハリウッド映画と互角に張り合えていたのは、この頃までだったようなイメージをなんとなく持っている。
ブログに書くのだから、それなりに気に入ったということ。
でもかなり変わった映画である。
まず、この映画はセリフが極端に少ない。特に前半はほとんどセリフがない。映像というか情景描写だけで勝負したかったのだろうか。でも何の不満もなく話の内容はわかるから、この勝負は成功していると思う。セリフが少ないことによる説明不足、情報不足は感じなかった。よく考えたら小説でも登場人物は映画ほど喋らない。ひょっとしたら、本来はこれくらいが適正なセリフ量かもしれない。ハリウッド映画は必要のないセリフどころか、無駄な叫び声や効果音が多すぎるかもね。
基本的には第2次世界大戦前後の、何かといろいろ大変だった時代の生活や人生を描いている映画である。登場するのは次の有名な方々とその家族。
グレン・ミラー
グレン・ミラー楽団を率いたアメリカの有名ジャズミュージシャン
エディット・ピアフ
フランスの国民的女性歌手
カラヤン
クラシック音楽界では皇帝と呼ばれたドイツの指揮者
ヌレエフ
ロシアの男性バレエダンサー
私でも多少は知っているくらいのバレエのスーパースター
これらの人たちを史実として描いたのではなく、あくまでモデルとして題材に使っているだけでストーリーは全くの架空物語。たとえばナチスの進駐軍としてフランスに来ていた若き頃のカラヤンが、エディット・ピアフと不倫して子供を作ったことになっている。その他も全くの創作。
映画が公開された1981年にカラヤンとヌレエフはまだ存命で、今なら権利関係でかなりややこしいことになりそうだが、当時はそんなことはなかったのかな。それにしても日本で例えるなら、超大御所クラスの長嶋茂雄と吉永小百合の間に隠し子がいたというようなストーリーの映画を作るのだからおもしろい。
映画には有名人をモデルにしていない家族がもう一組登場して合計5組。そしてカラヤンをのぞけば、大戦中が親の世代、戦後は子供の世代が中心の話になる。そして何と親子は全員一人二役なのである。例えばグレン・ミラーを演じていた俳優はその息子も演じ、グレン・ミラーの妻を演じていた女優はその娘も演じている。ヌレエフの母親に至ってはヌレエフの娘、つまり母と孫という配役。こんなに一人二役が多い映画は初めて観た。映画は5組の家族の話がバラバラに進行する。だから顔を見るだけで「あっ、これはあの夫婦の子供の話ね」とわかりやすいといえばわかりやすいけれど。
さらにこの映画は3時間と長い。ラストシーンが圧巻であるが、それを効果的にするために多少ダラダラ話を進めた疑いもビミョーにあり。観ればわかるがニューヨークでグレン・ミラーの家の隣に住んでいた家族の話とか、有名人じゃない家族の息子の友達の苦労話とかは、あってもなくても映画には影響しなかったと思う。
逆に3時間もあるのに、ヌレエフや有名でない家族の両親が出会って結婚するまでの展開はビックリするくらい早い。出会って、見つめ合って、その次は結婚式のシーンになっているくらいのテンポ。口説いたりプロポーズさせたらセリフが長くなるから、それを嫌ったのかな?
さて、ラストシーンはヌレエフがボレロに合わせて踊るバレエ。門外漢なのでバレエには何となく優雅なイメージしかないが、このシーンはとても激しい踊りーーーというか舞踏と書いたほうがしっくりくるパフォーマンス。映画ではヌレエフが宮殿のサロンのようなところで踊るシーンも別にあって、そちらも素晴らしい。演じているのはジョルジュ・ドンという本物のバレエダンサー。もちろん彼はヌレエフの父親も一人二役で演じているが、役者じゃないから、残念ながらそっちはとってもダイコン。
ラストシーンがどれほど素晴らしいかは、文章力がないから表現できない(^^ゞ ぶっちゃけメンズのダンスなんかにまったく興味がない。それでも食い入るように画面を見ていたとだけ書いておく。ちなみにラストシーンは15分くらいある。
そのラストシーンは赤十字主催のチャリティコンサートという設定になっている。ヌレエフがボレロにあわせて踊り、ボレロを演奏するオーケストラを指揮するのはカラヤン。大物歌手になったという設定のグレン・ミラーの娘と、同じく歌手になった有名人じゃない家族の孫がデュエットで歌い、司会を勤めるのはテレビキャスターになったエディット・ピアフの娘。観客にはそれぞれの家族もいる。バラバラに話が進んできた登場人物達がここで偶然にも一堂に会したという、とてもとても無理がある設定。
しかし、それぞれの国で色々あったね、戦争がなければもっと違う人生があっただろうにーーーというネタ振りには一役買っているし、それを下敷きに観るからヌレエフのダンスはより一層鬼気迫る。登場する5組の家族はそれぞれアーティスト家系なので、戦争の哀しみを乗り越えての芸術賛歌というのが、この映画のテーマかもしれない。そういう意味では、あまり観ることのできない「純な」映画である。
3時間の暇があるなら観て損はしないと思う。
なお現在DVDは廃盤で、ツタヤのみ独自のレンタル版を扱っている模様。
ここでいうボレロとは女性が着る丈の短い上着ではなく、ラベルという人が作曲したクラシック音楽のタイトル。もともとボレロはワルツやソナタと同じように曲の形式を表す言葉だが、ラベルの作曲したボレロがあまりに有名で、ボレロをいえばその曲を指す場合がほとんど。ボレロの名前は知らなくても、CMやドラマでもしょっちゅう使われているから、聴けば「ああ、これか」とわかるはず。
それで「愛と哀しみのボレロ」。
1981年公開だから30年以上前の映画。タイトルだけはずっと昔から知っていたように思う。もちろん観たのは初めて。映画は痛快アクション系が好みだけれど、そればかりじゃ芸がないから、たまに毛色の違うものも借りてくることを以前にも書いたかもしれない。監督はクロード・ルルーシュというフランス人で、あまりよく知らない。当然この映画はフランス映画。フランス映画がハリウッド映画と互角に張り合えていたのは、この頃までだったようなイメージをなんとなく持っている。
ブログに書くのだから、それなりに気に入ったということ。
でもかなり変わった映画である。
まず、この映画はセリフが極端に少ない。特に前半はほとんどセリフがない。映像というか情景描写だけで勝負したかったのだろうか。でも何の不満もなく話の内容はわかるから、この勝負は成功していると思う。セリフが少ないことによる説明不足、情報不足は感じなかった。よく考えたら小説でも登場人物は映画ほど喋らない。ひょっとしたら、本来はこれくらいが適正なセリフ量かもしれない。ハリウッド映画は必要のないセリフどころか、無駄な叫び声や効果音が多すぎるかもね。
基本的には第2次世界大戦前後の、何かといろいろ大変だった時代の生活や人生を描いている映画である。登場するのは次の有名な方々とその家族。
グレン・ミラー
グレン・ミラー楽団を率いたアメリカの有名ジャズミュージシャン
エディット・ピアフ
フランスの国民的女性歌手
カラヤン
クラシック音楽界では皇帝と呼ばれたドイツの指揮者
ヌレエフ
ロシアの男性バレエダンサー
私でも多少は知っているくらいのバレエのスーパースター
これらの人たちを史実として描いたのではなく、あくまでモデルとして題材に使っているだけでストーリーは全くの架空物語。たとえばナチスの進駐軍としてフランスに来ていた若き頃のカラヤンが、エディット・ピアフと不倫して子供を作ったことになっている。その他も全くの創作。
映画が公開された1981年にカラヤンとヌレエフはまだ存命で、今なら権利関係でかなりややこしいことになりそうだが、当時はそんなことはなかったのかな。それにしても日本で例えるなら、超大御所クラスの長嶋茂雄と吉永小百合の間に隠し子がいたというようなストーリーの映画を作るのだからおもしろい。
映画には有名人をモデルにしていない家族がもう一組登場して合計5組。そしてカラヤンをのぞけば、大戦中が親の世代、戦後は子供の世代が中心の話になる。そして何と親子は全員一人二役なのである。例えばグレン・ミラーを演じていた俳優はその息子も演じ、グレン・ミラーの妻を演じていた女優はその娘も演じている。ヌレエフの母親に至ってはヌレエフの娘、つまり母と孫という配役。こんなに一人二役が多い映画は初めて観た。映画は5組の家族の話がバラバラに進行する。だから顔を見るだけで「あっ、これはあの夫婦の子供の話ね」とわかりやすいといえばわかりやすいけれど。
さらにこの映画は3時間と長い。ラストシーンが圧巻であるが、それを効果的にするために多少ダラダラ話を進めた疑いもビミョーにあり。観ればわかるがニューヨークでグレン・ミラーの家の隣に住んでいた家族の話とか、有名人じゃない家族の息子の友達の苦労話とかは、あってもなくても映画には影響しなかったと思う。
逆に3時間もあるのに、ヌレエフや有名でない家族の両親が出会って結婚するまでの展開はビックリするくらい早い。出会って、見つめ合って、その次は結婚式のシーンになっているくらいのテンポ。口説いたりプロポーズさせたらセリフが長くなるから、それを嫌ったのかな?
さて、ラストシーンはヌレエフがボレロに合わせて踊るバレエ。門外漢なのでバレエには何となく優雅なイメージしかないが、このシーンはとても激しい踊りーーーというか舞踏と書いたほうがしっくりくるパフォーマンス。映画ではヌレエフが宮殿のサロンのようなところで踊るシーンも別にあって、そちらも素晴らしい。演じているのはジョルジュ・ドンという本物のバレエダンサー。もちろん彼はヌレエフの父親も一人二役で演じているが、役者じゃないから、残念ながらそっちはとってもダイコン。
ラストシーンがどれほど素晴らしいかは、文章力がないから表現できない(^^ゞ ぶっちゃけメンズのダンスなんかにまったく興味がない。それでも食い入るように画面を見ていたとだけ書いておく。ちなみにラストシーンは15分くらいある。
そのラストシーンは赤十字主催のチャリティコンサートという設定になっている。ヌレエフがボレロにあわせて踊り、ボレロを演奏するオーケストラを指揮するのはカラヤン。大物歌手になったという設定のグレン・ミラーの娘と、同じく歌手になった有名人じゃない家族の孫がデュエットで歌い、司会を勤めるのはテレビキャスターになったエディット・ピアフの娘。観客にはそれぞれの家族もいる。バラバラに話が進んできた登場人物達がここで偶然にも一堂に会したという、とてもとても無理がある設定。
しかし、それぞれの国で色々あったね、戦争がなければもっと違う人生があっただろうにーーーというネタ振りには一役買っているし、それを下敷きに観るからヌレエフのダンスはより一層鬼気迫る。登場する5組の家族はそれぞれアーティスト家系なので、戦争の哀しみを乗り越えての芸術賛歌というのが、この映画のテーマかもしれない。そういう意味では、あまり観ることのできない「純な」映画である。
3時間の暇があるなら観て損はしないと思う。
なお現在DVDは廃盤で、ツタヤのみ独自のレンタル版を扱っている模様。
wassho at 12:09│Comments(0)│
│映画、ドラマ、文学