2014年01月05日
大浮世絵展 本編その2
渓斎英泉(けいさいえいせん) 「仮宅の遊女」
これは藍摺(あいずり)と呼ばれる技法の浮世絵。見ての通りブルーな浮世絵。ただし使っているのは日本で藍染めに使う植物ではなく、ヨーロッパから輸入され始めた鉱物性の染料とのこと。
火事と喧嘩は江戸の華だったからかどうかはわからないが、吉原は江戸時代に23回も全焼している。吉原を再建している期間に、遊女が吉原以外で営業した場所が仮宅(かりたく)と呼ばれる。なんか昨日から遊女のことばかり書いている気もする。でも遊女がモデルの浮世絵が多いのだから仕方がないよ。
葛飾北斎 「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏(かながわおきなみうら)」
葛飾北斎 「富嶽三十六景 凱風快晴(がいふうかいせい)」
葛飾北斎 「富嶽三十六景 尾州不二見原(びしゅうふじみがはら)」
富嶽(ふがく)とは富士山の別名。でも何となく響きが書き言葉っぽい。今日は富士山がよく見えるという代わりに、富嶽がよく見えるとは江戸時代でもいわなかったような気がする。ちなみに芙蓉(ふよう)というのも富士山の別名。みずほグループは以前は芙蓉グループといった。それは中核企業が富士銀行だったから。もっとも富嶽が富士山以外の意味がないのに対し、芙蓉は植物の名前でもあるし、芙蓉蟹(ふようはい)なら中華料理の蟹玉とバリエーションは広い(^^ゞ
つい話がそれたが、富岳三十六景は絵のどこかに富士山が描かれているシリーズである。もっとも「凱風快晴」のように富士山がメインのものは少なく「尾州不二見原」のように、いわれてみないと富士山があると気がつかないものも多い。また先ほど藍摺のことを書いたが、富岳三十六景にも藍色の染料は多用されておりブルーのイメージの強い作品が多い。それまでは染料がなく青い色は出せなかったから新鮮だった=マーケットで受けたのだろうと思う。なお富嶽三十六景という名前ではあるものの、大ヒットしたので追加制作され全部で46バリエーションある。映画でヒットしたらPART2が制作されるのと同じ。
歌川広重 「東海道五十三次 日本橋 朝之景」
歌川広重 「東海道五十三次 庄野 白雨」
歌川広重 「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」
子供の頃の教科書では安藤広重だったのに、いつのまにか歌川広重と呼ばれるようになった浮世絵師。葛飾北斎の富嶽三十六景がヒットしたのをみて東海道五十三次を企画したといわれている。いずれにせよこの二人の活躍によって、美人画や役者絵といった人物像が中心だった浮世絵に、名所画という新ジャンルが切り開かれたことになる。
どちらも名所画つまり風景を描いて、またブルーを多用していることも共通だが絵の構成はかなり違う。北斎の富嶽三十六景はタイトル通り富士山のある風景がテーマであって、人間は風景の一部のような印象を受ける。人間が描かれていないものも46点中7点ある。一方の広重の東海道五十三次は紀行(旅日記)がコンセプトだから、描かれている人間も重要な役割を与えられてる(ような気がする)。言い換えれば広重の浮世絵は、登場人物によって絵の背景にあるストーリーが想像できるような作風である。
さて、葛飾北斎と歌川広重の力量は他の浮世絵師と較べて群を抜いていると思う。それは今回の展示会で発見したことのひとつ。もっとも力量を見抜くほどの眼力はないし、なぜそう思うのか自分でもわからない。しかし、この二人以前の他の浮世絵は、たとえ歌麿でもチラッと見れば充分な気がするのに対し、彼らの作品はじっくり眺めたいという気持ちになる。それまでの浮世絵は美人画や役者絵が中心で、この二人は風景画と描いているものは違う。でもその違い以上のレベルの差があると思う。私のアートに対する基準は「酔える」かどうか。彼らの浮世絵には酔える。写楽の浮世絵はおもしろいねと思うだけ。(アートじゃなきゃ価値がないと考えているのではない。念のため)
違う意味での新発見は歌川国芳(くによし)。いろいろエラソーに書いてきたが別に浮世絵に詳しいわけじゃない。こんなタイプの浮世絵があるとは知らなかった。歌川国芳には浮世絵=古くさいというイメージは微塵もない。発想は斬新で、それ以上に絵を見て楽しんで欲しいというエンターテイメント性やサービス精神に満ちあふれている。それだけじゃなくて画家としての腕前も確かだと思う。とにかく彼の浮世絵を見ると江戸時代にいってみたくなる!
歌川国芳 「八犬伝之内 芳流閣」
歌川国芳 「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」
歌川国芳 「猫の当字 うなぎ」 ※字が猫で書いてある
ジャジャーン!
今回の展示会で気に入った第1位と2位を発表。ただし北斎や広重など昔から知っていて好きだった作品は除く。この日に初めて知った浮世絵から選出。
第1位 歌川国貞 「五節句ノ内 文月」
顔は普通の美人画風。しかし、こんな動きのある浮世絵は初めて見た。楽しそうなリズムが聞こえてきそうである。眺めているだけで元気が出てくる。
第2位 葛飾応為 「夜桜図」
ここに貼ったものより本物はもっと光の陰影が幻想的。浮世絵だけでなく日本画にも疎いが、こんな風に光を描き別けた作品は記憶にない。既に北斎や広重の時代に遠近法はヨーロッパから伝わっている。だから明暗を対比する技法も知られていたんだろうか。でも葛飾応為以外にこんな作品はないから、彼女が独自に編み出したような気もする。ちなみに応為は葛飾北斎の娘。なおこの作品は版画ではなく肉筆画。
ーーーまだまだ続く。
これは藍摺(あいずり)と呼ばれる技法の浮世絵。見ての通りブルーな浮世絵。ただし使っているのは日本で藍染めに使う植物ではなく、ヨーロッパから輸入され始めた鉱物性の染料とのこと。
火事と喧嘩は江戸の華だったからかどうかはわからないが、吉原は江戸時代に23回も全焼している。吉原を再建している期間に、遊女が吉原以外で営業した場所が仮宅(かりたく)と呼ばれる。なんか昨日から遊女のことばかり書いている気もする。でも遊女がモデルの浮世絵が多いのだから仕方がないよ。
葛飾北斎 「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏(かながわおきなみうら)」
葛飾北斎 「富嶽三十六景 凱風快晴(がいふうかいせい)」
葛飾北斎 「富嶽三十六景 尾州不二見原(びしゅうふじみがはら)」
富嶽(ふがく)とは富士山の別名。でも何となく響きが書き言葉っぽい。今日は富士山がよく見えるという代わりに、富嶽がよく見えるとは江戸時代でもいわなかったような気がする。ちなみに芙蓉(ふよう)というのも富士山の別名。みずほグループは以前は芙蓉グループといった。それは中核企業が富士銀行だったから。もっとも富嶽が富士山以外の意味がないのに対し、芙蓉は植物の名前でもあるし、芙蓉蟹(ふようはい)なら中華料理の蟹玉とバリエーションは広い(^^ゞ
つい話がそれたが、富岳三十六景は絵のどこかに富士山が描かれているシリーズである。もっとも「凱風快晴」のように富士山がメインのものは少なく「尾州不二見原」のように、いわれてみないと富士山があると気がつかないものも多い。また先ほど藍摺のことを書いたが、富岳三十六景にも藍色の染料は多用されておりブルーのイメージの強い作品が多い。それまでは染料がなく青い色は出せなかったから新鮮だった=マーケットで受けたのだろうと思う。なお富嶽三十六景という名前ではあるものの、大ヒットしたので追加制作され全部で46バリエーションある。映画でヒットしたらPART2が制作されるのと同じ。
歌川広重 「東海道五十三次 日本橋 朝之景」
歌川広重 「東海道五十三次 庄野 白雨」
歌川広重 「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」
子供の頃の教科書では安藤広重だったのに、いつのまにか歌川広重と呼ばれるようになった浮世絵師。葛飾北斎の富嶽三十六景がヒットしたのをみて東海道五十三次を企画したといわれている。いずれにせよこの二人の活躍によって、美人画や役者絵といった人物像が中心だった浮世絵に、名所画という新ジャンルが切り開かれたことになる。
どちらも名所画つまり風景を描いて、またブルーを多用していることも共通だが絵の構成はかなり違う。北斎の富嶽三十六景はタイトル通り富士山のある風景がテーマであって、人間は風景の一部のような印象を受ける。人間が描かれていないものも46点中7点ある。一方の広重の東海道五十三次は紀行(旅日記)がコンセプトだから、描かれている人間も重要な役割を与えられてる(ような気がする)。言い換えれば広重の浮世絵は、登場人物によって絵の背景にあるストーリーが想像できるような作風である。
さて、葛飾北斎と歌川広重の力量は他の浮世絵師と較べて群を抜いていると思う。それは今回の展示会で発見したことのひとつ。もっとも力量を見抜くほどの眼力はないし、なぜそう思うのか自分でもわからない。しかし、この二人以前の他の浮世絵は、たとえ歌麿でもチラッと見れば充分な気がするのに対し、彼らの作品はじっくり眺めたいという気持ちになる。それまでの浮世絵は美人画や役者絵が中心で、この二人は風景画と描いているものは違う。でもその違い以上のレベルの差があると思う。私のアートに対する基準は「酔える」かどうか。彼らの浮世絵には酔える。写楽の浮世絵はおもしろいねと思うだけ。(アートじゃなきゃ価値がないと考えているのではない。念のため)
違う意味での新発見は歌川国芳(くによし)。いろいろエラソーに書いてきたが別に浮世絵に詳しいわけじゃない。こんなタイプの浮世絵があるとは知らなかった。歌川国芳には浮世絵=古くさいというイメージは微塵もない。発想は斬新で、それ以上に絵を見て楽しんで欲しいというエンターテイメント性やサービス精神に満ちあふれている。それだけじゃなくて画家としての腕前も確かだと思う。とにかく彼の浮世絵を見ると江戸時代にいってみたくなる!
歌川国芳 「八犬伝之内 芳流閣」
歌川国芳 「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」
歌川国芳 「猫の当字 うなぎ」 ※字が猫で書いてある
ジャジャーン!
今回の展示会で気に入った第1位と2位を発表。ただし北斎や広重など昔から知っていて好きだった作品は除く。この日に初めて知った浮世絵から選出。
第1位 歌川国貞 「五節句ノ内 文月」
顔は普通の美人画風。しかし、こんな動きのある浮世絵は初めて見た。楽しそうなリズムが聞こえてきそうである。眺めているだけで元気が出てくる。
第2位 葛飾応為 「夜桜図」
ここに貼ったものより本物はもっと光の陰影が幻想的。浮世絵だけでなく日本画にも疎いが、こんな風に光を描き別けた作品は記憶にない。既に北斎や広重の時代に遠近法はヨーロッパから伝わっている。だから明暗を対比する技法も知られていたんだろうか。でも葛飾応為以外にこんな作品はないから、彼女が独自に編み出したような気もする。ちなみに応為は葛飾北斎の娘。なおこの作品は版画ではなく肉筆画。
ーーーまだまだ続く。
wassho at 19:43│Comments(0)│
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