2014年01月06日
大浮世絵展 本編その3
浮世絵の話をいつまで引っ張るつもりかといわれそうだが、今回を含めてあと4回くらい続く予定。人に説明するのが自分の頭を整理する一番いい方法なので、そこのところよろしく。ただし浮世絵の話自体は今回で終わり。残りはその日のその他のあれこれ。
さて、浮世絵師で歴史をおさらいしておくと
江戸幕府始まる 1603年
菱川師宣 1618年〜1694年 浮世絵の祖・見返り美人の作者
8代将軍吉宗就任 1716年 (ここからが江戸中期)
鈴木春信 1725年〜1770年
鳥居清長 1752年〜1815年
喜多川歌麿 1753年〜1806年
葛飾北斎 1760年〜1849年
東洲斎写楽 1763年〜1820年 ※写楽=斎藤十郎兵衛説によれば
11代将軍家斉就任 1787年 (ここからが江戸後期)
歌川広重 1797年〜1858年
歌川国芳 1798年〜1861年
ペリー黒船来港 1853年 (ここからが江戸末期)
大政奉還 1867年 明治元年1868年
浮世絵という様式を確立させたといわれるのが菱川師宣(もろのぶ)だから、浮世絵は江戸時代とほぼ同時に成立したといっていいだろう。六大浮世絵師といわれるメンバーが出てくるのが江戸中期以降。私が別格だと思う北斎と広重が活躍したのは江戸後期に入ってからということになる。
ところで広重や国芳は黒船を見たんだろうか? ザッと調べたところでは黒船の浮世絵を残していないようで残念。彼らだけでなく「浮世絵 黒船」で画像検索しても、ほんの数点しかそれらしい画像が上がってこない。江戸湾で起きたこんなビッグニュースが浮世絵にあまりなっていないということは、幕末の頃に浮世絵はかなり衰退していたのかもしれない。
展示会では明治以降の浮世絵も数は少ないものの展示されていた。実はこれがなかなかおもしろかったのである。それも今回の発見というか収穫のひとつ。
月岡芳年 「 東亰名勝高輪 蒸氣車鉄道之全図」明治4年
どう見てもオモチャの国の蒸気機関車にしか見えない。と思ったら日本で新橋〜横浜間に最初の鉄道が開通したのは明治5年。どうやらこれは想像で描いたらしい。文明開化の香りがするというか、よく見れば(絵をクリックで拡大する)丘の上にいる10名くらいを除いて描かれている人物はすべて西洋人。外人モデルを起用すればとりあえずサマになるという感覚はこの頃から始まったのかな。
楊洲周延(ようしゅうちかのぶ) 「欧洲管弦楽合奏之図」明治22年
これこそ正真正銘の文明開化イメージ。描かれている人物は洋装の盛装で、バックには桜と月が配されてまさに和魂洋才。ドレスを着ているのに女性の顔は江戸時代の美人画の影響から抜け切れていない。明治になって世の中が大きく変わっても、時代というのはつながっているんだなあと感じる。
ジャジャーン!今回の展示会で気に入った第3位の発表。それは
橋口五葉 「化粧の女」 大正7年
しっとりとした情感に惹きつけられる。繊細なタッチはなんとなく歌麿に通じるものも感じる。樋口五葉はまさか100年後の日本で、女性が電車の中で化粧をするようになるとは思ってもみなかっただろうな(^^ゞ
実はこの絵をよく見るとおかしい。
女性は首の周りにも化粧している。ということは芸者? あるいは浮世絵の伝統にのっとって遊女? それとも当時は普通の女性でも首の周りまで化粧をしたのか。まあそれは別にどうでもいい。問題は顔も首も胸の周りも肌の色が同じこと。一般人なら芸者のように真っ白な化粧はしなかったかもしれないが、それでも化粧をしていて肌の色がどこもすべて同じというのは不自然。
もちろん、そんな観察が野暮というのは百も承知。何となく気付いてしまったから書いてみただけ。ついでにもうひとつ野暮を書くと、この絵は確かに女性の美しさを描き出している。化粧という秘めた行為をテーマにすることで、そのなまめかしさを高めているとも思う。でも何となくすべてが男性の妄想っぽい。女性は今も昔ももっとたくましいものだよ。
そして、この作品を見て発見したことがある。私が江戸時代の美人画に今ひとつ興味が湧かないのは、やはりあの独特な顔の描き方にあるみたい。もちろん江戸時代の女性があんな顔だったわけではない。平安時代は小野小町に見られるよう極端に下ぶくれな顔に描いたし、アニメでは目をあり得ないくらい大きくする。つまりはそれぞれの時代の美意識の反映。アニメのキャラクターはカワイイが、実際にあの目の大きさの人がいれば宇宙人にしか見えない。もちろん江戸時代に歌麿美人がもしいたら妖怪だと恐れられたはずだ。
橋口五葉の絵は美人画の文法を引き継いでいるものの、デフォルメは最小限でナチュラル。これなら人の顔として見ることができる。現在どの程度浮世絵が制作されているか知らないが、浮世絵師の皆さんにお願いしたいのは「美人は普通に美人に描いてください」ということ。
最後にもう1枚。
伊東深水 「対鏡」 大正5年
見た瞬間に大正ロマンという言葉が思い浮かんだ。ただし、着物を着て日本髪を結って背景が何も描かれていない、この作品のどこに大正ロマンを感じたのか自分でもよくわからない。だいたい大正ロマンがどういうものかもあまり認識していない。だから自分の感覚がとても不思議なんだけれど、この絵もちょっとミステリアスな雰囲気を出しているから、まあよしとしておこう。ちなみに朝丘雪路は伊東深水の娘。
展示品を順番に眺めるだけで浮世絵の歴史が一通りわかるからいい展示会だと思う。日本的なものに触れる機会はどんどん少なくなっているから、たまには浮世絵でも眺めるのも悪くない。
ーーーしばらく続きます。
さて、浮世絵師で歴史をおさらいしておくと
江戸幕府始まる 1603年
菱川師宣 1618年〜1694年 浮世絵の祖・見返り美人の作者
8代将軍吉宗就任 1716年 (ここからが江戸中期)
鈴木春信 1725年〜1770年
鳥居清長 1752年〜1815年
喜多川歌麿 1753年〜1806年
葛飾北斎 1760年〜1849年
東洲斎写楽 1763年〜1820年 ※写楽=斎藤十郎兵衛説によれば
11代将軍家斉就任 1787年 (ここからが江戸後期)
歌川広重 1797年〜1858年
歌川国芳 1798年〜1861年
ペリー黒船来港 1853年 (ここからが江戸末期)
大政奉還 1867年 明治元年1868年
浮世絵という様式を確立させたといわれるのが菱川師宣(もろのぶ)だから、浮世絵は江戸時代とほぼ同時に成立したといっていいだろう。六大浮世絵師といわれるメンバーが出てくるのが江戸中期以降。私が別格だと思う北斎と広重が活躍したのは江戸後期に入ってからということになる。
ところで広重や国芳は黒船を見たんだろうか? ザッと調べたところでは黒船の浮世絵を残していないようで残念。彼らだけでなく「浮世絵 黒船」で画像検索しても、ほんの数点しかそれらしい画像が上がってこない。江戸湾で起きたこんなビッグニュースが浮世絵にあまりなっていないということは、幕末の頃に浮世絵はかなり衰退していたのかもしれない。
展示会では明治以降の浮世絵も数は少ないものの展示されていた。実はこれがなかなかおもしろかったのである。それも今回の発見というか収穫のひとつ。
月岡芳年 「 東亰名勝高輪 蒸氣車鉄道之全図」明治4年
どう見てもオモチャの国の蒸気機関車にしか見えない。と思ったら日本で新橋〜横浜間に最初の鉄道が開通したのは明治5年。どうやらこれは想像で描いたらしい。文明開化の香りがするというか、よく見れば(絵をクリックで拡大する)丘の上にいる10名くらいを除いて描かれている人物はすべて西洋人。外人モデルを起用すればとりあえずサマになるという感覚はこの頃から始まったのかな。
楊洲周延(ようしゅうちかのぶ) 「欧洲管弦楽合奏之図」明治22年
これこそ正真正銘の文明開化イメージ。描かれている人物は洋装の盛装で、バックには桜と月が配されてまさに和魂洋才。ドレスを着ているのに女性の顔は江戸時代の美人画の影響から抜け切れていない。明治になって世の中が大きく変わっても、時代というのはつながっているんだなあと感じる。
ジャジャーン!今回の展示会で気に入った第3位の発表。それは
橋口五葉 「化粧の女」 大正7年
しっとりとした情感に惹きつけられる。繊細なタッチはなんとなく歌麿に通じるものも感じる。樋口五葉はまさか100年後の日本で、女性が電車の中で化粧をするようになるとは思ってもみなかっただろうな(^^ゞ
実はこの絵をよく見るとおかしい。
女性は首の周りにも化粧している。ということは芸者? あるいは浮世絵の伝統にのっとって遊女? それとも当時は普通の女性でも首の周りまで化粧をしたのか。まあそれは別にどうでもいい。問題は顔も首も胸の周りも肌の色が同じこと。一般人なら芸者のように真っ白な化粧はしなかったかもしれないが、それでも化粧をしていて肌の色がどこもすべて同じというのは不自然。
もちろん、そんな観察が野暮というのは百も承知。何となく気付いてしまったから書いてみただけ。ついでにもうひとつ野暮を書くと、この絵は確かに女性の美しさを描き出している。化粧という秘めた行為をテーマにすることで、そのなまめかしさを高めているとも思う。でも何となくすべてが男性の妄想っぽい。女性は今も昔ももっとたくましいものだよ。
そして、この作品を見て発見したことがある。私が江戸時代の美人画に今ひとつ興味が湧かないのは、やはりあの独特な顔の描き方にあるみたい。もちろん江戸時代の女性があんな顔だったわけではない。平安時代は小野小町に見られるよう極端に下ぶくれな顔に描いたし、アニメでは目をあり得ないくらい大きくする。つまりはそれぞれの時代の美意識の反映。アニメのキャラクターはカワイイが、実際にあの目の大きさの人がいれば宇宙人にしか見えない。もちろん江戸時代に歌麿美人がもしいたら妖怪だと恐れられたはずだ。
橋口五葉の絵は美人画の文法を引き継いでいるものの、デフォルメは最小限でナチュラル。これなら人の顔として見ることができる。現在どの程度浮世絵が制作されているか知らないが、浮世絵師の皆さんにお願いしたいのは「美人は普通に美人に描いてください」ということ。
最後にもう1枚。
伊東深水 「対鏡」 大正5年
見た瞬間に大正ロマンという言葉が思い浮かんだ。ただし、着物を着て日本髪を結って背景が何も描かれていない、この作品のどこに大正ロマンを感じたのか自分でもよくわからない。だいたい大正ロマンがどういうものかもあまり認識していない。だから自分の感覚がとても不思議なんだけれど、この絵もちょっとミステリアスな雰囲気を出しているから、まあよしとしておこう。ちなみに朝丘雪路は伊東深水の娘。
展示品を順番に眺めるだけで浮世絵の歴史が一通りわかるからいい展示会だと思う。日本的なものに触れる機会はどんどん少なくなっているから、たまには浮世絵でも眺めるのも悪くない。
ーーーしばらく続きます。
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