2014年03月29日

ラファエル前派展 テート美術館の至宝

きっかけはこんなポスター。

ポスター2


「それは懐古か反逆か」という刺激的なキャッチコピーとともに、ケバイのか知的なのかよくわからない、でも一目見たら忘れられそうにない女性。そして展覧会のタイトルは「ラファエル前派展」。

  ラファエル? なんじゃそれ?
  ラファエロならよく知ってるけど。
  それに前派なんて日本語は聞いたことがないぞ。

というわけで珍しく展覧会に行く前に多少の予習をして、展覧会を見てさらに興味を持ってあれこれ調べた展覧会となった。

まずラファエルとはルネサンスの巨匠ラファエロのことである。

   ラファエロ Raffaello イタリア語
   ラファエル Raphael  英語

と知って納得しかけたがラファエロは人の名前である。英語のレストランがイタリア語ではリストランテと普通名詞なら違う言葉になるのはわかるが、人名という固有名詞がなぜ変化するのだ。田中さんは英語でもイタリア語でもTanakaのはずである。

今のところの推論は、ラファエルはミカエルとガブリエルと並ぶキリスト教の三大天使の名前でもある。天使の名前ともなれば普通名詞みたいなものだから、言語によって変化しても不思議ではないかも。

それでとにかくラファエルというのはラファエロの英語読みである。なぜ英語かというと、このラファエル前派というグループがイギリスの画家達だから。ちなみに前派は「ぜんぱ」と読む。



1848年の9月にラファエル前派は結成された。日本でいうと明治維新が1868年だから江戸時代の最後期にあたる。創設メンバーはイギリスの国立美術大学の学生だった3名。

   ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ
   ジョン・エヴァレット・ミレー
   ウィリアム・ホルマン・ハント

名前が同姓でややこしいけれど「落ち穂拾い」のジャン=フランソワ・ミレーは同年代のフランス人画家で別人ね。


当時のイギリスは産業革命で蓄えた力で7つの海を支配した大英帝国時代。世界の陸地面積と人口の1/4を押さえていた。その頃の女王の名前を取ってヴィクトリア朝時代と呼ばれる。しかし政治や経済では最先端でも、その頃のイギリスの絵というのは300年以上前のルネサンスの模倣ばかりで、特にラファエロの絵がお手本とされていたらしい。

ロセッティ、ミレー、ハントの3人は、それが気にくわなかった模様。古典ばかり勉強させられてイヤになったのかな。彼らによればラファエロの絵は演出過剰でリアリティがないということらしい。ラファエロの絵にも色々あるが、そういわれてみればそうかもしれない。

キリストの変容  ラファエロ
キリストの変容


彼らはルーベンスやその他の巨匠クラスもこき下ろしている。その中で一番象徴的だったのがラファエロだったのだろう。それでラファエロより前の時代のもっとシンプルな絵に戻ろうということで、ラファエル前派というグループを結成したというのがいきさつ。

日本語ではラファエル前派と訳されているが英語ではPre-Raphaelite Brotherhoodという名前。ブラザーフッドは兄弟の間柄という意味以外に組合とか協会という組織的な意味もある。兄弟=血のつながりだからニュアンス的にはかなり強固な結びつきで、派というより同胞団という訳語のほうがふさわしいかもしれない。いってみれば美大の学生3人が立ち上げたサークルから始まったラファエル前派ではあるが、ブラザーフッドというネーミングからも、かなり気合いが入っていたことがわかる(気がする)。また、わざわざラファエロの名前を使ったのは、権威主義に陥って停滞していた当時のイギリス美術界への挑戦状のつもりだったはず。


おもしろいのはラファエロのような絵が気にくわないのなら、自分が描きたいように描けばいいと思うのだが、彼らはラファエロより前の絵に戻ろう、つまりそこからヒントを得ようと主張している。源氏物語は絵空事だから実直な万葉集を勉強しようみたいなことなのかな。ラファエル前派の結成から約30年後の1874年から始まった印象派の画家達は、自分自身で次の絵のスタイルを追求した。ラファエル前派の諸君はなぜ過去にヒントを得ようとしたのだろう。学生・若い画家なら誰もやっていない新しいことに走りそうなもの。そのあたりの状況はザッと調べた程度ではわからず。


とにもかくにも3人で始めたサークルは成功し、メンバーも増えてラファエル前派は美術界に大きな影響を与えるようになる。また絵にはモデルがつきものだが、画家とモデルがつきあったり別れたり、他のメンバーと三角関係になったりと人間模様がやたらおもしろい。それをテーマに映画を作れば展覧会より受けるかも。既にイギリスでは新聞やゴシップ誌があった時代だから、そのあたりの記録も豊富みたいである。

肝心の絵は、今の時代から絵を眺めればビックリするようなことはない。それでも当時にしてみれば前衛的だったということは何となくわかる。そして前衛的ということは世間から反感を買うのは今も昔も同じ。そんな彼らを擁護してラファエル前派の躍進に貢献したのがジョン・ラスキンという当代屈指の美術評論家。3人の中心メンバーよりは10歳ほど年上。でも彼もミレーに奥さんをとられてラファエル前派ドロ沼物語に一役買っているのがおもしろい。

まだ絵を紹介していないが、展覧会を見ながら脳裏に浮かんだのは

     ビートルズみたい

ということ。
当たり前だけれど、絵そのものにビートルズを連想させるものはない。イギリスで、二十歳そこそこでデビューして、今までの常識にとらわれない音楽・絵で勝負したというあたりが共通点。社会でのポジションが似ていたかもしれないと想像する。ビートルズの音楽も今では20世紀の名曲ということになっているが、デビュー当時は反社会的と見なされ「ビートルズを聴いたら不良になる」と世のPTAをいきり立たせたらしい。(私は彼らが解散した頃にビートルズを知った世代) もっともビートルズのメンバーで男女間のドロ沼はなかったが、プロデューサーのジョージ・マーティンの存在はジョン・ラスキンと少し重なるかな。

ビートルズと同じようにラファエル前派も10年ほどでグループとしての活動を終える。画家達はその後もそれぞれソロ活動?を続けるが、創設メンバーの1人であるミレーは67歳でロイヤルアカデミーの会長になる。日本語的にいうなら芸術院の会長みたいなもので、かつて批判していた体制側のトップになったということ。そういえばポールもいまではサー・ポール・マッカートニーと爵位つきである。




展覧会を見に行ったのは3月25日。場所は六本木ヒルズの森アーツセンターギャラリー。近づきすぎてiPhoneじゃビルの一番上まで入りきらなかった。
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奥に見える煉瓦色のタワーはヒルズ族の住む六本木ヒルズ・レジデンス。
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テレビ朝日と東京タワーでおノボリさん気分(^^ゞ
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これがアーツセンターの入り口。六本木ヒルズは54階建てで53階に森美術館、52階に森アーツセンターギャラリーがある。展望台も52階。
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入り方が変わっていて六本木ヒルズの1階からは上がって行けない。写真の左側に写っている3階建ての小さな建物の3階にまず上がり、渡り廊下(展覧会のポスターが貼ってあるところ)を通って六本木ヒルズの3階に横から入る。そこにチケット売り場があり、そこから52階まで専用エレベーターで上がる仕組み。


ラファエル前派展の入り口。
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展覧会はかなり空いていた。やっぱり知名度のある画家達じゃないからかね。52階に上がるエレベーターは満員で「わっ、混んでる(/o\)」と思ったが、6割は展望台に行く人、3割は森美術館で開かれているアンディ・ウォーホル展に行く人だった。


ウォーホル展まで見るほど仕事をさぼれなかったーーー。
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でもロビーに有名なBMWアートカーが置いてあったのでミーハー的に喜んで写真を撮る。私がペンキを塗ったらエンジニアリングへの冒涜といわれるだろうなあ。
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ーーー続く。

wassho at 14:41│Comments(0) 美術展 

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