2017年07月08日

ピカソとシャガール 愛と平和の賛歌 その3

シャガールの絵はどこか幻想的。また大人向けメルヘン・ストーリーのワンシーンかと思わせるようなものが多い。独特の浮遊感があり、というかいろいろなものが宙に浮かんで描かれている。ドーンと迫ってくるようなものはないが、絵の周りの空間を和ませる不思議なオーラを放っている。

ぶっちゃけていうと対峙するように鑑賞する絵ではない。その雰囲気に浸って楽しむべき絵。若い頃はお気に入りの画家で、自宅にシャガールのポスターを貼ったりしていた。似たような絵が多いので、いつのまにか飽きたけど。

というわけで私はシャガールを軽い気持ちでに楽しみたいので、ブログでの紹介もいつもと少し違うスタイルで。展示順、年代順は無視して似たような絵のグループ分けをしてみた。



まずは【黙って見せられたらシャガールとはわからない】作品。どんな画家も最初の頃は全盛期、つまりその画家の代表的なイメージとは違う絵を描いているもの。しかしシャガールは先ほど書いた幻想的な作風を確立して、それを描き続けている時期にも違うタイプの絵を描いている。特に「毛皮襟の女」は意外感たっぷり。

「ランプのある静物」 1910〜1911年
7


「山羊を抱く男」 1924〜1925年
25


「二つの花束」「花と風景(静物)」 1925年
43


「毛皮襟の女」 1934年
42




次は展示順を参考にして【これがシャガールのキュビスムと分類されていました
】というグループ。シャガールにとってのキュビスムとは立体主義とはまったく関係なくて、絵は見た目どおりの構成で描かなくてもいいんだとヒントをもらった程度の関わりかと思う。それで空も飛ぶわけだが、そんな空想的な描き方は宗教画なら昔からあったわけで、それをキュビスムと結びつけるという企画構成はちょっと強引かなとも思う。

「町の上で、ヴィテブスク」 1915年
20


「世界の外でどこへも」 1915〜1919年
 切り離された頭部に目がいくが、建物が画面左に縦に描かれているのがちょっと面白い。
21


「誕生日」 1923年
23




3番目は【少しダークで摩訶不思議なシャガールワールド】。何かメッセージが込められているのかもしれないが、解説でもしてもらわないと絵から読み取るのは不可能。不気味な絵ともいえるが、こういうのはハマると抜け出せなくなる。

「私と村」 1923〜1924年
11


「青い顔の婚約者」 1932年(1960年改訂)
41




そして【シャガールといえば浮遊感でしょ】なグループ。肩の力が抜けていく心地よさを感じたら、あなたもシャガールを買いましょう(^^ゞ

「女曲芸師」 1961年
60


「サン=ポールの上の恋人たち」 1970〜1971年
82



シャガールの絵はカップルや結婚をテーマにしたものがよく描かれるので「愛の画家」と呼ばれることもある。というわけで次のグループは特にヒネリもなく【愛の画家】。モデルとなっているのはシャガール自身と奥さんのベラ。モデルといっても似せて描かれているわけじゃないから設定というべきか。

「婚約者達」 1930年
40


「恋人達とマーガレットの花」 1949〜1950年
45


「画家と妻」 1969年
80


ついでにシャガール家族の写真。これは1916年の撮影とされているのでシャガールは29歳、ベラが21歳頃。娘はイーダという名前。
family




最後の2枚の絵に共通性はなくて【展覧会で私がもっとも気に入った作品】。

「横たわる女、または緑色のスカートの女」 1930年
39

具体的に気に入った理由は特にない。あえていえばシャガールの幻想的、空想的な要素がないところかな。ストレートに楽しくて美しい絵。


「赤い背景の花」 1970年
81

画像で見ると良さが伝わらないかもしれないが、背景の赤がまさに燃えるような迫力で力強かった。脱力系が多いシャガールの中では少し異質。サイズも縦124.5センチ横113センチと大きく、私が気に入ったせいもあるけれど会場でひときわ存在感があった。



ところでこの展覧会はピカソとシャガールの組み合わせ。2つ前のエントリーではパンフレットに載っていた二人が仲良く写っている写真を紹介した。その写真をベースにこんなイラストが起こされて、美術館のショップで売られているマグカップやTシャツに使われている。
P&C


それだけを見ると二人は親友同士のようだが、それはあの写真が撮られた1951年まで。オマケでもう1枚。この撮影も同じく1951年。どう見てもとっても仲良し(^^ゞ
P&C Photo


しかしその年に美術雑誌編集者の昼食会に招かれた二人は、売り言葉に買い言葉のようなことになり、以後は絶交状態になる。詳しくは調べていないが「ピカソのジョークをシャガールが真に受けた」と「ピカソは本気でシャガールを非難した」という説があるみたい。いずれにせよシャガールがブチ切れて二人の関係は終わった。その因縁はまだ続いているようで、ポーラ美術館がシャガールの子孫にこの展覧会への協力を依頼したところ、最初は断られたという。

ところでシャガールは「愛の画家」だから、おおらかな人物をイメージしていたのだが、実は毒舌家として有名だったらしい。人は見かけによらないだけでなく、人は画風によらないなんだろうか。


展示されている作品のうちポーラ美術館自前のコレクションは、ピカソとシャガールとも7割以上にのぼる。それ自体はすごいことであるが、何度かここに来たことのある人にとって目新しい作品は少ないのが残念。でもピカソとシャガールを見較べながら観られるから(それに意味があるかについては疑問な点もあるが)意外と楽しめる。箱根に涼みに来るついでに訪れて損はない。


おしまい

wassho at 23:15│Comments(0) 美術展 

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