2018年10月14日

横山崋山 その3

第5章は「風俗−人々の共感」。今や風俗というとムフフなニュアンスになってしまうが、本来の意味は

   ある時代や社会、ある地域や階層に特徴的にみられる、衣食住など日常生活の
   しきたりや習わし、風習のこと。広く世相や生活文化の特色をいう場合もある。
   (引用:ウィキペディア)

それで風俗画こそが横山崋山を崋山たらしめているジャンルだと思う。代表作がこの「紅花屏風」。制作は1823年から1825年。

紅花はキク科の植物。商品として馴染みがあるのは種から絞られる紅花油であるが、花を発酵・乾燥させて作る着色料も食品や化粧品に使われている。以前は繊維の染料としても。
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「紅花屏風」は京都の紅花問屋が崋山に依頼したもので、描かれているのは紅花産地での生産や加工の風景。京都の商家は祇園祭の時に、家にある絵や屏風を人々に見せる習慣があり、その目的のために制作したようだ。今でいえば自社の商品をより知ってもらうPR活動といったところ。

崋山は紅花産地の埼玉と山形に何度も赴き、屏風の制作に6年を掛けている。その甲斐あって実にリアルで緻密な仕上がりの作品。まるで絵によるドキュメンタリー。今までに紹介した、空想の内容をお約束の作法で描いた中国風の絵もテクニックは見事だが、やはりその目で見て描いたものは圧倒的に活き活きしている。ぜひクリックして大きなサイズで見て欲しい。

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上が右隻で下が左隻。餅状に加工された紅花の大きさから、右隻が埼玉、左隻が山形を描いたものとされている。左隻では港から北前船で紅花が江戸に向けて運ばれる様子も描かれている。フワーッと雲のようなものを描いて空間をワープするのが日本画の面白いところ。

一部をクローズアップした画像。
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しかし、よくこれだけの人数を描き込んだなとも思う。総勢約200人。しかも背景として人がたくさんいますといった描き方ではなく、1人1人に役割を持たせている。崋山は絵だけではなく人間観察も好きだったに違いない。

ただ惜しむらくは、日本画なので人物描写に(多少の陰影は施されているが)立体感がなく漫画的に見えるところ。だから大作なのは感じられても何となく軽い。大作だからこそ余計にそう感じる気もする。もちろん日本画とはそういうものと言われればそうなのかもしれない。たから寿司とステーキを較べても意味がないのだが、私はステーキが好きということなんだろう。

ついでにもう1つ。畑で咲いている紅花は黄色い花がだんだんと赤みを帯びてくるが、紅色ではなくオレンジ色である。現地は見ているはずなのに、どうして加工後の紅色で花を描いたのか不思議。
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参考までに紅花の加工を解説してくれるページ。
https://www.motoji.co.jp/report_yamagishikouichi_koubou_2009/


ーーー続く

wassho at 23:52│Comments(0) 美術展 

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