2018年10月28日
RIMPA TO NIHONGA―現代日本画に見る琳派の様相
中目黒駅からすぐ近くの「郷さくら美術館」で開かれていた展覧会を見てきた。郷は「さと」と読む。自宅から散歩圏内にこんな美術館があるなんて最近まで知らなかった。ここは現代日本画を専門とする美術館。昭和生まれで現役で活躍している日本画家の作品をコレクションしている。また50号以上の大型作品が中心らしい。参考までに50号とは長辺が1.167メートルである。
中目黒駅を降りて桜で有名な目黒川を渡るとすぐ美術館が見えてくる。昔からあるビルを今風にリノベーションしたような外観の建物である。うっかり写真は撮り忘れた(^^ゞ ここでは目黒川の桜にちなんでか、3フロアある展示室の1つは常に桜をテーマとした作品の展示。残り2フロアを使って年に4〜5回の企画展が行われている。企画展は自前のコレクションが中心のようだ。
美術館の歴史は浅く福島県郡山市の本館がオープンしたのが2006年、中目黒は2012年から。ただし郡山の本館は2016年4月から長期休館となっている。その理由はホームページに「諸般の事情により」としか記されていない。休館は昨年からだから東日本大震災は関係なさそう。地方都市でこのコンセプトでは集客が厳しかったのかも。
しかし2017年にはニューヨークでSato Sakura Gallery New Yorkを開設している。英語でギャラリーは美術館と画廊の両方の意味がある。しかし日本の郷さくら美術館の英語表記はMuseumを使っているからニューヨークでは画廊として販売もしているのだろう。今回の展覧会を見て確信したけれど、マーケティングを間違わなければこの美術館が扱う現代日本画はアメリカでも受け入れられるに違いない。
それにしても、かなりニッチなカテゴリーに特化した美術館である。美術館名から推測すると大企業の文化貢献事業ではない。そこで誰がこんな物好きなことをと興味を持ったので少し調べてみると、この美術館の経営母体は郡山の名家のようだ。オーナーの名前は四家千佳史(しけ・ちかし)氏。福島県の小松製作所のディーラー?を営む家系に生まれ、29歳で建設機械レンタル会社を起業。急成長して後に小松製作所の系列会社と経営統合。現在は小松製作所本社の役員を務める建設機械業界では風雲児的に有名な人物のようである。年齢はまだ50歳。
絵画でも音楽でも芸術というのは金持ちの道楽に支えられて発展してきた歴史を持つ。こういう個性的な美術館があるのは喜ばしい限り。タワマン買ってフェラーリ買って、まだお金が余っているIT長者の方がいれば是非(^^ゞ
展覧会タイトルのRIMPA TO NIHONGAがローマ字なので、スッと頭に入ってこないがRIMPAとは琳派(りんぱ)のことである。琳派とは流派すなわち集団名であるが、これがなかなかユニークな流派なのである。絵画の流派には
狩野派:狩野一族で代々引き継がれている家元制の一門。
印象派:写実ではなく感じたままに印象を描こうとの思想に共感したグループ。
エコール・ド・パリ(パリ派):1920年代を中心にパリで活躍した画家という、
絵の内容は関係なく、ある一定の時期で区切られた
呼び名。
などの分類方法がある。画風や技術、思想、時期などコアとなるものは様々だとしても、それを中心に集まっているからこそ集団。しかし琳派は集まっていないのである。
琳派のスーパースターは3人。
江戸初期:俵屋宗達(1570年頃〜1640年頃)
江戸中期:尾形光琳(1658年〜1716年)
江戸後期:酒井抱一(さかい ほういつ 1761年‐1829年)
生きていた時代が違うからこの3人に接点はない。それに俵屋宗達と尾形光琳は京都で、酒井抱一は江戸で活躍した画家である。また琳派としての流儀が伝えられたわけでもない。だいたい琳派とは昭和の中頃につけられたネーミングであり、当人達は流派の意識を持ちようがない。
しかし俵屋宗達の約100年後に生まれた尾形光琳が俵屋宗達の絵を、そして尾形光琳の約100年後に生まれた酒井抱一が尾形光琳と俵屋宗達の絵をリスペクトして手本にしたので画風が受け継がれたという意味で琳派と呼ばれる。ちなみに琳派のリンは尾形光琳のリン。
3人のつながりがよくわかるのは有名な風神雷神図。
風邪薬のキャラクターじゃないよ(^^ゞ
俵屋宗達
尾形光琳
酒井抱一
風神雷神図以外で最も知名度(見た気がする度)がある琳派作品は、尾形光琳の燕子花(かきつばた)図かなあ。
※これらは郷さくら美術館の展覧会とは関係ない。
琳派のお約束は金箔。だから冒頭に載せたポスターもゴールド比率高し。もっとも金箔で絵の背景を埋め尽くすのは安土桃山時代の狩野派から始まっているから琳派だけの特徴じゃない。その狩野派は室町幕府から信長・秀吉の時代を経て徳川幕府でも常に政権の権力者と結びついていた日本絵画の圧倒的権威。だから古典的で壮大つまり立派な絵が中心。対して琳派も権力者がパトロンだったことに変わりはないが「公式」じゃなかったせいか、もっと自由でクリエイティブな作品が多い。尾形光琳の燕子花図なんてポップアートみたいだ。
さてこの展覧会は「現代日本画に見る琳派の様相」と大げさな副題がついているものの、琳派的な匂いのする現代作品を集めましたというような内容。作品が展示されているほとんどの画家達は、特に琳派を意識したり琳派になろうとしている訳じゃない(と思う)。でも隠れ琳派好きとしては現代感覚の琳派ってどんなだろうと興味を持って訪れた次第。
ところで今気付いたけれどタイトルのRIMPA TO NIHONGA。TOは「と」なのか英語の「to」なのかどっち?
前書きだけで長くなったので本日はここまでで。
ーーー続く
wassho at 13:01│Comments(0)│
│美術展