2018年11月27日

生誕110年 東山魁夷展 その3

この展覧会では唐招提寺(とうしょうだいじ)の御影堂の障壁画が展示されている。障壁画(しょうへきが)とは主に襖(ふすま)に描かれた絵。

その唐招提寺とは奈良にある、律宗というあまり聞き慣れない宗派のお寺。創建したのは鑑真(がんじん)。中国の高僧で奈良時代(710年〜794年)に朝廷から請われて日本にやってきた。渡航に5回失敗し、6回目でようやく日本にたどり着いた時には視力を失っていたなんて子供の時に習った記憶のある人は多いはず。大昔だから中国と日本を船で渡るのはすごく大変だったんだろうなと思っていたが、調べてみると微妙に違う。

まず6回のチャレンジのうち船に乗って出航したのは3回だけである。1回目、3回目、4回目は中国(当時は唐)当局によって出航を差し止められたり他の理由で出航を断念している。それを含めて6回とカウントする?

2回目と5回目は出航した。そして暴風雨で船は難破。特に5回目は上海の近くから南方の海南島まで漂流している。その距離約2000キロ。途中にいくらでも岸があるやろ(^^ゞ
地図

現在の海南島は中国のハワイなどといわれるリゾートだが、当時は暮らすにはきつかったらしい。鑑真は約1年間滞在した後(滞在したのは海南島ではなく桂林という説もある)、本拠地の揚州に戻る。おそらく陸路。その途中に失明。南方の気候と激しい疲労からといわれる。子供の頃、日本までの航海が大変だったとして、それでなぜ失明するのか、荒れる船上で目を怪我したのかなと思っていたが、そういうわけだったのね。

しかし疲労で失明するかな? 緑内障などを患ったと考えるほうが合理的。失明の原因を日本への渡航とするのはちょっと違うかも。

それはともかく6回目の渡航でようやく成功。沖縄(当時は外国)と屋久島を経由して、754年に九州の太宰府に到着。その時も4隻の船団のうち1隻は行方不明になり、1隻は沖縄から九州に向かう途中にベトナムまで流されているから、やはり当時の航海は命がけだったのだと改めて思う。ちなみにこの時は遣唐使が帰国する船に同乗。最初からそういう手配をしてあげれば、もっとスムーズに来日できて失明もしていなかったかも。


鑑真が亡くなって、その弟子たちが作ったのが鑑真和上坐像(がんじん わじょう ざぞう)。国宝であり日本最古の肖像彫刻。彫刻といっても削っているのではなく、麻布を漆で貼り合わせて作られている。
鑑真和上坐像


その鑑真和上坐像が安置されているのが御影堂(みえいどう)。この建物は唐招提寺のホームページによれば「元は興福寺の別当坊だった一乗院宸殿の遺構で、明治以降は県庁や奈良地方裁判所の庁舎として使われたものを昭和39年(1964)移築復元したものです」というからビックリ。これが庁舎だったなんて、さすが奈良!
御影堂外観


その御影堂の障壁画を東山魁夷が制作。 ※写真は産経フォトから引用
御影堂障壁画

鑑真や東山魁夷のことは抜きにして、この障壁画のことはかなり昔から知っていた。記憶に残っていたのは、お寺の和室のフスマに鮮やかなブルーが「派手やな〜」「似合わんな〜」と違和感があったから。そして今回、その制作意図が「鑑真は困難を乗り越え海を渡ってきた」からだと知る。果たして鑑真は大変な目にあった海に囲まれて喜んでいるか?(^^ゞ

それにしてもお坊さんが柵の外側からお経を上げているのが奇妙だが、これは拝観者のための柵をいちいち片付けるのが面倒ということなのかな。現在、御影堂は大改修中で、その期間を利用してこの展覧会に障壁画が貸し出されている。障壁画の何枚かが貸し出されることは過去にもあったが、今回は全部で68枚あるすべての障壁画が展示されている。


御影堂障壁画「山雲」 1975年
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御影堂障壁画「濤声」 1975年  ※濤声=とうせい=波の音
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どちらも上の画像は障壁画全体のごく一部。
「濤声」をさらにアップで。
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これじゃ雰囲気が伝わらないので展示風景を。 
※写真はインターネットミュージアムから引用
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実際の展示室はもっと暗い。下から照明を当てているのだが、まるで裏面から照射しているように感じる。暗い空間の中でブルーの障壁画が、宙に浮いているように思えて超幻想的だった。絵というより映像を観ているような感覚になる。障壁画というのは空間芸術なんだと認識する。


御影堂障壁画「揚州薫風」 1980年
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「濤声」とはガラッと変わって中国の水墨画風。これはもちろん鑑真が中国人だからであり、揚州は彼の出身地。御影堂の障壁画が東山魁夷の鑑真へのオマージュであることがわかる。

こちらは鑑真が滞在したことのある桂林の風景を描いた「桂林月宵」の展示風景。 
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写真でわかるように、展示は御影堂の造作を再現して畳まで敷く凝りよう。何となくお寺の雰囲気も感じられて、作品が引き立てられていたように思う。しかしメインの「濤声」の展示はちょっと暗すぎる。照明効果で楽しめはしたが、ちょっと演出過剰かな。御影堂で拝観する「素」の姿を見てみたかった気もする。


ーーー続く

wassho at 07:07│Comments(0) 美術展 

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