2018年12月23日

フェルメール展 その2

会場はフェルメールと同時代のオランダ絵画を観て、最後にフェルメールの展示室という構成になっている。ちなみにフェルメールが生きたのは1632年から1675年。日本では徳川家光の将軍在位が1623年から1651年、次の家綱の在位が1651年から1680年。つまりは江戸時代の初期にあたる。

この時代の各国の画家は

    カラヴァッジョ(イタリア)  1571年〜1610年
    ルーベンス(フランドル)   1577年〜1640年
    ベラスケス(スペイン)    1599年〜1660年
    レンブラント(オランダ)   1606年〜1669年

と錚々たる顔ぶれ。※フランドルというのはオランダ南部とベルギーあたりの当時の名前。

それでこの時代の美術様式はバロックということになる。アールヌーボーとアールデコと同じくゴシックとバロックで、どっちがどっちだっけと混乱するあのバロックである。特徴としては

    綿密な写実描写
    動的、劇場的な画面構成
    明暗表現の強調

あたり。一言でいえばけっこう派手。音楽でバロックといえばバッハだが、割と単調なバロック音楽とは異なり、バロック絵画はクラシック音楽でいえばもっと後期のものと共通項が多い。そのあたりがどう重なっているのか西洋文化史についてはあまり知識がない。そのうち勉強しようと思っているが、そう思い始めてから25年ほどたっている(^^ゞ とりあえず大雑把にいうとゴシック→ルネサンス→バロックの順番ね。


ところでオランダと聞いてすぐに思い浮かぶのはチューリップとか風車とか。それは日本でいえばフジヤマ・ゲイシャと同じレベルだろう。まあ現在のオランダはそれほど存在感のある国とはいえない。ちなみにGDPランキングでは世界18位。しかし17世紀のオランダは国際社会において最強国の1つだった。世界最初の株式会社である東インド会社を設立し、また鎖国の江戸時代に唯一日本と貿易をしていたことなどからもそれは伺える。

ついでに言うと、オランダ、スペイン、ポルトガルなど、かつて世界に君臨し、もう今はそうじゃなくても、特に落ちぶれてもいない国というのは、将来の日本の参考になるかもしれないと思うこともある。



話がそれたが、まずは17世紀のオランダ絵画あれこれ。


「ルカス・デ・クレルクの肖像」 フランス・ハルス 1635年頃
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「花の画家マリア・フォン・オーステルヴェイクの肖像」 ワルラン・ヴァイヤン 1671年
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「本を読む老女」 ヘラルト・ダウ 1631〜1632年頃
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「ルカス・デ・クレルクの肖像」はいかにもザ・肖像画という感じ。ルネサンス期の肖像画と較べてかなり細密。またルネサンス期の肖像画はモナリザのように細密に描かれているものでも、どこかバーチャルな雰囲気だが、17世紀のオランダ絵画はリアルで肉感的である。

ルカス・デ・クレルクは裕福な資産家。マリア・フォン・オーステルヴェイクはタイトルにあるように画家。王侯貴族や聖職者から市民にまで肖像画を描いてもらう人が広がったのは、社会全体が裕福になってきたことのあらわれ。対象が広がれば人物はバラエティに富むから絵を観るぶんにも面白い。

「本を読む老女」は肖像画じゃなくて人物画。その中でも胸から上の部分を描いたトローニーと呼ばれるジャンル。肖像画はその人物を描くことが目的で、人物画は表現の手段。それでこの作品の目的はスーパーリアリズムの追求かな。少し離れて眺めればほとんど写真レベル。



「マタイの召命」 ヤン・ファン・ベイレルト 1625〜1630年頃
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「ハールレム聖ルカ組合の理事たち」 ヤン・デ・ブライ 1675年
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先ほど書いた「綿密な写実描写」「動的、劇場的な画面構成」「明暗表現の強調」といったバロック絵画の特徴をすべて兼ね備えた作品。まるで映画のワンシーンのよう。

「マタイの召命」は水色の服を着て指を指しているのがキリストで、左端の赤い服を着ているのが徴税吏のマタイ。キリストが乗り込んできて税金について文句を言っているように見えるが、そうじゃなくて、これは聖書にあるキリストとマタイの出会いのシーン。突然現れたキリストはマタイに「私に従いなさい」と言い(召命:しょうめい)マタイは使徒になったとされる。使徒と聞くとエヴァンゲリオンの影響で怪物を思い出すけれど、キリストの弟子のことね。それにしてもキリストって超強引(^^ゞ

ところでファッションは流行が過ぎてしまえば「どうしてあんなもの着ていたんだろう」と思うもの。「ハールレム聖ルカ組合の理事たち」のこの黒いスモックに大きな白い襟をつけた服装は何か意味があったのかなあ。もし今、ドアを開けてこんな格好のオッサンがいたら吹き出してしまう。



「市壁の外の凍った運河」 ニコラス・ベルヘム 1647年
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「捕鯨をするオランダ船」 アブラハム・ストルク 1670年頃
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風景画もリアルだが、当時はあれこれスケッチしたものをベースに再構成するのが主流だったらしい。だからリアルな描写でも内容的にはフィクション。劇場的、ドラマティックなものが求められたバロック絵画だからそうなるのかな。

「捕鯨をするオランダ船」ではクジラが潮を吹いているように見えるが、これはモリを刺されて血が吹き出ている様子らしい。なぜ赤で描かない? それよりビックリしたのは左下にいるシロクマ。最初は人間と一緒にロープを引いているように見え、いくらフィクションとはいえそれはやり過ぎだろうと思ったが、よく見たらこちらもヤリで刺されているシーンだった。(画像はクリックしたら大きくなる)

ところでこの絵を観た12月21日に「日本が商業捕鯨再開のために国際捕鯨委員会(IWC)を脱退する」というニュースが流れたのは何かの因縁か。捕鯨の是非はさておき、鯨肉に今以上の消費者ニーズはないと思うけれどなあ。



「アルクマールの聖ラウレンス教会」 ピーテル・サーレンダム 1635年
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教会の絵を描くもの流行ったらしい。それにしてもこれは江戸時代初期の建物を描いた作品である。下の「人の居る裏庭」の家は現代でも住めそう。較べれば当時の日本はレベル低かったんだなあと実感。

肖像画で書いたように庶民の生活を描いた風俗画が多いのもバロック絵画の楽しいところ。バロックだからけっこう「盛って」描いているんだろうが。

「仕立屋の仕事場」 クヴィリング・ファン・ブレーケレンカム 1661年
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「人の居る裏庭」 ピーテル・デ・ホーホ 1663〜1665年頃
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「家族の情景」 ヤン・ステーン 1660〜1670年頃
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さて色々と思うところがあったのがハブリエル・メツーという画家の作品。

「手紙を書く男」 1664〜1666年頃
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「手紙を読む女」 1664〜1666年頃
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アンサーソングならぬアンサーピクチャーのような2つの作品。ラブレターをモチーフに男女の恋愛を描いている。ところで当時のオランダ絵画は絵の中にメッセージを込めるのが流行っていた。男性の部屋ある絵には山羊が描かれ、額縁には鳩の装飾があるが、どちらも浮気性を象徴しているらしい。また女性の背後でメイドが覆いを引いている絵は荒波を行く船で、この恋愛の将来を暗示している。しかし荒波はともかく山羊や鳩の意味までは想像できないから、オランダ絵画を観る時にメッセージ解読は気にしないようにしているが。日本画で鶴や亀がメデタイように、オランダ人は山羊や鳩でピンと来たのだろうか?

それはさておき、色々と思うところがあったのは、この作品が圧倒的に素晴らしかったから。ハブリエル・メツーはフェルメールに影響を受けた画家といわれている。例えば左側の窓から光が差し込む構図はフェルメール風だし、女性が着ている黄色い上着もフェルメール作品をそっくり真似ている。彼に憧れていたのかもしれない。でも追いつき追い越したんじゃないかな。全体として遜色ないし、あざとく描き分けていないのに光を感じるところ、また布の描き方は確実にハブリエル・メツーのほうが上手い。

フェルメールファンではあるが、実は本当にいい絵だと思っているのは数点だけ。ハブリエル・メツーのこの作品はそれに匹敵する。言い換えれば他のフェルメール作品は、この作品よりレベルが低い。もっともハブリエル・メツーの他の作品を知らないので、それだけで二人の優劣はつけられないが。

ちょっと話がそれかけた。展覧会でこの作品を観て思ったのはフェルメールと同じジャンルの絵で、フェルメールをしのぐ出来映えなのに、なぜフェルメールは誰もが知っている人気画家で、ハブリエル・メツーはよほどのマニア以外には無名の存在なのかということ。

実は展覧会に出かけて、ということは一流画家の作品を観てということだが「これくらい私でも描ける」とか「私は無理でも高校の美術部だったら楽勝」と思うことは多々ある。もちろん私や美術部の高校生が描いても評価されないわけで、その違いはどこにあるのだろうと考える。

結果論を言えばブランド力の違いになるが、そのブランドを形成するに至った差は何かということ。オリジナルの画風を確立することは大きな要素だと思っているが、それだけでもないような気がする。少なくとも描写テクニックは無関係と確信している。また美術館に行ってまで仕事のことは考えたくはないが、それは売れる商品と売れない商品の違いは何かということでもある。


その違いを解明できたら画家になるゾ !!


ーーー続く

wassho at 22:44│Comments(0) 美術展 

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