2021年01月18日

田中一村展 千葉市美術館収蔵全作品 その2

ところで、この展覧会はタイトルがやたら長い。
正式名称は、

  千葉市美術館拡張リニューアルオープン・開館25周年記念
  千葉市制100周年記念
  川村コレクション受贈記念

  田中一村展 ー 千葉市美術館収蔵全作品

と67文字もある。

この美術館がオープンしたのは1995年(平成7年)11月で、千葉市中央区の区役所との複合施設としてのスタートだった。その区役所が2019年に別の建物に移転し、展示スペースなどを拡張するリニューアル工事が完成したのが2020年7月。その7月に開催された展覧会が「リニューアルオープン・開館25周年記念」なのは当然として、その次の9月の展覧会、そして3つ目となる2021年1月からのこの展覧会でも「リニューアルオープン・開館25周年記念」を名乗っているのは、ちょっと引っ張りすぎかな。

「千葉市制100周年記念」は展覧会とは何の関係もないが、市立美術館としては入れざるを得なかったのかもしれない。そういうセンスが役所仕事的。

「川村コレクション受贈記念」というのは上記と較べれば、サブタイトルとする価値がある内容。一村は30歳の時(1938年:昭和13年)、母方の叔父である川村幾三氏を頼って千葉に移住する。彼は一村にとって最大の理解者であり支援者。だから川村家には一村の作品が多く残されていて、それらが2018年にこの美術館に寄贈や寄託されたとのこと。この展覧会の作品数は130点で、そのうち川村コレクションが半分ほどを占めているから相当な割合である。

また川村コレクション以外に、前回の投稿に書いた2010年の展覧会以降に収蔵された作品もかなり増えてきたので、一度まとめてお見せしましょうというのが「千葉市美術館収蔵全作品」という企画趣旨。サブタイトルとするには文章表現として芸がない気もするが。

というわけで手持ちの作品だけでこれだけの回顧展が開けるのだから、この美術館のコレクションはたいしたもの。ただし一村の絵の変遷についてはよく理解できたものの、物足りない部分もあった。それはまた後ほど。


第1章 若き南画家の活躍

南画(文人画ともいう)とは何ぞやというのはさておいて、一村は幼い頃から南画に才能を発揮して神童と呼ばれたりする。しかし大正時代になって南画は流行らなくなり、そこであれこれ新しい画風を模索。しかし画壇からは認められず展覧会にも落選続きで、失意のうちに奄美大島へいわば都落ち。そこで後に日本のゴーギャンと称された画風を確立するが、世間には知られないままに世を去るというのが彼の超簡単な略歴。


この展覧会にあったのは神童レベルじゃないと思うし、
南画というにはかなりモダンな画風かな。

「つゆ草にコオロギ」  1921年

コオロギはツユクサの一番上に一匹だけ描かれている。
1


「鉄網珊瑚(紅梅図)」  1926年

上の作品から5年後に描かれている。画風が変化するのはあり得るとして、文字の形がまったく違うのが興味深い。筆跡判定できないね(^^ゞ
3


「山水図 略擬雲林筆意」  1930年
5




第2章 昭和初期の新展開

「浅き春」  1931年
15


「椿図屏風」  1931年
19

24歳で描かれた一村の転換点とされる作品。ぱっと見はド迫力なんだけれど、よく見ると意外と繊細に描かれている。派手なだけじゃなくて、何か切実に訴えてくるものが感じられる。他の作品と較べてかなり画風が違うが、他にもこんな作品があるなら見てみたい。

なおこの屏風は2曲1双、つまり2つ折れの屏風が左右でワンセットであるが、左隻(左側)の屏風には金箔が貼られているだけで何も描かれていない。そういう作品なのか制作途中だったのかなどは不明らしい。


次の作品は正確な制作時期が不明。ところで牡丹の花には見えないし、彼岸花は絵の片隅に描かれているだけで、「つゆ草にコオロギ」と同じくタイトルと内容の不一致がビミョーに気になる。でも絵としては日本画のワンパターン感がなくて、けっこう好きな部類。

「牡丹図」  
23


「彼岸花」
24




第3章 千葉へ

翡翠とはカワセミの別名。それはいいとして、この柿も牡丹の花と同じく、あまり柿には見えない。昔の柿はこんなふうに縦長だったのかな。

「翡翠図」
31


「柿」
29


風景画は何となく南画の雰囲気も残っている。これらは千葉の風景という括りで紹介されていたが、これが千葉ですといわれてもなあ(^^ゞ 例によって野梅はメインではなく画面下に小さく描かれている。一村のネーミングパターンが読めてきたかも。「はさ場」とは刈り取った稲を干す場所ね。

「夕日」  1941〜42年頃
33


「千葉寺はさ場」  1945年頃
37


「黄昏野梅」  1947年頃
38



ーーー続く

wassho at 20:29│Comments(0) 美術展 

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