2021年06月13日
特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」 その3
鳥獣戯画といえば最初の投稿で紹介した「ウサギやカエルやサルのユーモラスな絵」を思い浮かべる人がほとんどだかと思う。それがキモには違いないが、実際はもう少し幅広い作品群で成り立っている。また意外と正体不明でもある。
まず作者が誰かわかっていない。教科書で鳥羽僧正(とばそうじょう)と習ったようにも思うが、現在ではその説は否定されている。なんたって今は鎌倉幕府もイイクニツクロウじゃないらしいから、歴史というのは後世の研究であれこれアップデートされるもの。
鳥獣戯画として伝わっている絵巻は4巻ある。ただしタイトルとして作品中にそう記されているわけではなく、このネーミングは明治の中頃になって使われ出したもの。それまでは作者が鳥羽僧正と思われていたことから鳥羽絵などと呼ばれていたようである。
これらはモノクロであることは共通しているものの、各巻の内容はつながっておらず画風も異なる。うち1巻は戯画(おかしみのある絵、戯を訓読みすればタワムレ)でもない。いつ制作されたかも不明で、おおよそ平安末期から鎌倉初期と推定されている。
ということで、その期間中に異なる作者によって、別々の時期に描かれた絵巻が、いつしか4巻セットとして扱われるようになったと考えられている。
また鳥獣戯画は京都の高山寺に伝えられてきたが、ここに奉納されたものではなく、いつ・どうしてこの寺の所有となったかも不明。また内容に仏教的な意味合いが込められているのかどうかも解明されていない。実は謎だらけの作品なのである。

最初の展示は「住吉家旧蔵本」という模本。模本は模写のことで、絵巻は本扱いになって模本というのかな。その住吉家とは江戸時代に、狩野派と並んで幕府の御用絵師を務めた流派の家系。ただしこの模本は1598年と住吉家初代が生まれる前の制作だから、住吉派の絵師が描いたのではなく、どこかで手に入れて守ってきたものということになる。
本物があるのにどうして模写を見なくてはならないのか。それは鳥獣戯画は絵巻をバラバラにして再度つなぎ合わされた経緯があり、その過程で失われた部分や順番がおかしなところがある。だから模本と比較することでオリジナルの内容を推察できるということらしい。
学術的にはその通りである。
しかし、よほどそういうことに興味があるのなら別だが、住吉家旧蔵本の展示はパスして、それで浮いた時間で本物の鳥獣戯画を何度も見たほうがいい。サイズ的には縦30センチほどと小さいので、行列に並ばずに人の後ろから見るのも難しい。つまり模本を見るのにもけっこう時間がかかる。
それにここに展示されている住吉家の模本は内容的にもオリジナルとあまり変わらない。描写はもちろんそっくりである。また模本の後にまたパネル展示が続くし、はっきり言って本物を見る前にちょっと飽きてくる(^^ゞ ※別の場所に展示されているやや内容の異なる住吉家旧蔵本もある。
さていよいよ鳥獣戯画とのご対面。4巻あると書いたが、それぞれに甲・乙・丙(へい)・丁(てい)の記号が振られている。この記号がついたのも大正から昭和にかけての頃らしい。また甲・乙・丙・丁は1から4という順番を表しているが、このように呼ばれる以前は構成順も違っていたとのこと。
その第1巻である甲巻こそが、
世間一般にイメージされている鳥獣戯画の世界そのものである。
現在の甲巻は23枚の用紙がつなぎ合わされた絵巻。
縦が約31センチ、長さが約11.36メートル。
(なお横に長い画像はとても小さく表示されてしまうのでクリックで拡大して欲しい)
1枚〜3枚目
初っぱなからウサギが鼻をつまんで背面から水に飛び込むというシーン。この時点で鳥獣戯画ワールドに引き込まれてしまう。少し前に流行った表現をするなら「ツカミはOK」以上の出来映え。
描かれている動物はウサギ・カエル・サルがメインだが、甲巻では全部で11種類が登場する。この場面ではウサギが乗っているシカ。ただしシカはウサギなどと違って擬人化されていない。
余談になるが「擬人化」という言葉を覚えたのは、教科書に書いてあった鳥獣戯画の解説からだったような気がする。
13枚〜14枚目
おそらく鳥獣戯画で最も有名なシーン。明確なストーリーはないけれど、この前後に描かれている内容から推測すると、ウサギとカエルが一緒に作業をしていたところにサルがやってきて、一匹のカエルのいたずらをした。それで仲間のウサギとカエルが追いかけているように思える。
17枚〜18枚目
右側に描かれているウサギとカエルは抱き合っているように見えるが、これは相撲を取っているシーン。カエルはウサギの耳を噛んでいるから反則攻撃中(^^ゞ
中央のウサギは地面に倒れ込んで笑っているのではなく、右側に描かれた相撲の続きで、カエルがウサギを投げ飛ばしたところ。これは時間の経過や連続した動作を表現する「異時同時図法」という絵巻独特の手法。ここに貼った画像では「ちょっと無理なお約束」のように思えるが、絵巻を見る時は少しずつ広げて、また見た部分は巻き取っていくから抵抗がないのかも知れない。

それにしても耳を噛まれて投げ飛ばされまでしたのに、ウサギは楽しそうでカエルととっても仲良しなことが伺える。
8枚〜9枚目
鳥獣戯画というと動物が遊んでいるイメージが強いが働いている場面もある。
これは宴会の準備らしい。
20枚〜21枚目
仏教的な行動であるのは一目瞭然でも、それまでの展開とはつながっていないから意味がよくわからないシーン。
中央の奥で頭巾を被っているのはキツネだと思うが、その右隣と中央手前でウサギと一緒に法衣を着ている動物はイタチだろうか。また左にある木にはフクロウが留まっている。
ところで鳥獣戯画には高山寺と描かれたハンコがベタベタ押してある。これが子供の頃から不思議だったというか目障りに思っていた。ブログを書く前に少し調べてわかったのは
1)絵巻は紙をつなぎ合わせて長い巻物にする。
2)鳥獣戯画では「ノリが古くなって紙がはがれた」「巻物だと見るのに不便だから
はがした」のどちらかはわからないが、
3)とにかくバラバラの状態で保存されている時期があった。
4)その時に、後でまた貼り合わせやすいように割り印のような役割を持たせて
判を押した。
ということらしい。
しかしである。甲巻の場合だと23枚の貼り合わせだから継ぎ目は22ヶ所。そのうち継ぎ目の部分に絵が描かれていない箇所、すなわち割り印がないと後で困る箇所はたった2つしかない。
何が言いたいかというと、誰かタイムマシンで過去の高山寺へ行って、ハンコを押しまくった担当者をシバいてきて欲しいということ(^^ゞ
ーーー続く
まず作者が誰かわかっていない。教科書で鳥羽僧正(とばそうじょう)と習ったようにも思うが、現在ではその説は否定されている。なんたって今は鎌倉幕府もイイクニツクロウじゃないらしいから、歴史というのは後世の研究であれこれアップデートされるもの。
鳥獣戯画として伝わっている絵巻は4巻ある。ただしタイトルとして作品中にそう記されているわけではなく、このネーミングは明治の中頃になって使われ出したもの。それまでは作者が鳥羽僧正と思われていたことから鳥羽絵などと呼ばれていたようである。
これらはモノクロであることは共通しているものの、各巻の内容はつながっておらず画風も異なる。うち1巻は戯画(おかしみのある絵、戯を訓読みすればタワムレ)でもない。いつ制作されたかも不明で、おおよそ平安末期から鎌倉初期と推定されている。
ということで、その期間中に異なる作者によって、別々の時期に描かれた絵巻が、いつしか4巻セットとして扱われるようになったと考えられている。
また鳥獣戯画は京都の高山寺に伝えられてきたが、ここに奉納されたものではなく、いつ・どうしてこの寺の所有となったかも不明。また内容に仏教的な意味合いが込められているのかどうかも解明されていない。実は謎だらけの作品なのである。

最初の展示は「住吉家旧蔵本」という模本。模本は模写のことで、絵巻は本扱いになって模本というのかな。その住吉家とは江戸時代に、狩野派と並んで幕府の御用絵師を務めた流派の家系。ただしこの模本は1598年と住吉家初代が生まれる前の制作だから、住吉派の絵師が描いたのではなく、どこかで手に入れて守ってきたものということになる。
本物があるのにどうして模写を見なくてはならないのか。それは鳥獣戯画は絵巻をバラバラにして再度つなぎ合わされた経緯があり、その過程で失われた部分や順番がおかしなところがある。だから模本と比較することでオリジナルの内容を推察できるということらしい。
学術的にはその通りである。
しかし、よほどそういうことに興味があるのなら別だが、住吉家旧蔵本の展示はパスして、それで浮いた時間で本物の鳥獣戯画を何度も見たほうがいい。サイズ的には縦30センチほどと小さいので、行列に並ばずに人の後ろから見るのも難しい。つまり模本を見るのにもけっこう時間がかかる。
それにここに展示されている住吉家の模本は内容的にもオリジナルとあまり変わらない。描写はもちろんそっくりである。また模本の後にまたパネル展示が続くし、はっきり言って本物を見る前にちょっと飽きてくる(^^ゞ ※別の場所に展示されているやや内容の異なる住吉家旧蔵本もある。
さていよいよ鳥獣戯画とのご対面。4巻あると書いたが、それぞれに甲・乙・丙(へい)・丁(てい)の記号が振られている。この記号がついたのも大正から昭和にかけての頃らしい。また甲・乙・丙・丁は1から4という順番を表しているが、このように呼ばれる以前は構成順も違っていたとのこと。
その第1巻である甲巻こそが、
世間一般にイメージされている鳥獣戯画の世界そのものである。
現在の甲巻は23枚の用紙がつなぎ合わされた絵巻。
縦が約31センチ、長さが約11.36メートル。
(なお横に長い画像はとても小さく表示されてしまうのでクリックで拡大して欲しい)
1枚〜3枚目
初っぱなからウサギが鼻をつまんで背面から水に飛び込むというシーン。この時点で鳥獣戯画ワールドに引き込まれてしまう。少し前に流行った表現をするなら「ツカミはOK」以上の出来映え。
描かれている動物はウサギ・カエル・サルがメインだが、甲巻では全部で11種類が登場する。この場面ではウサギが乗っているシカ。ただしシカはウサギなどと違って擬人化されていない。
余談になるが「擬人化」という言葉を覚えたのは、教科書に書いてあった鳥獣戯画の解説からだったような気がする。
13枚〜14枚目
おそらく鳥獣戯画で最も有名なシーン。明確なストーリーはないけれど、この前後に描かれている内容から推測すると、ウサギとカエルが一緒に作業をしていたところにサルがやってきて、一匹のカエルのいたずらをした。それで仲間のウサギとカエルが追いかけているように思える。
17枚〜18枚目
右側に描かれているウサギとカエルは抱き合っているように見えるが、これは相撲を取っているシーン。カエルはウサギの耳を噛んでいるから反則攻撃中(^^ゞ
中央のウサギは地面に倒れ込んで笑っているのではなく、右側に描かれた相撲の続きで、カエルがウサギを投げ飛ばしたところ。これは時間の経過や連続した動作を表現する「異時同時図法」という絵巻独特の手法。ここに貼った画像では「ちょっと無理なお約束」のように思えるが、絵巻を見る時は少しずつ広げて、また見た部分は巻き取っていくから抵抗がないのかも知れない。

それにしても耳を噛まれて投げ飛ばされまでしたのに、ウサギは楽しそうでカエルととっても仲良しなことが伺える。
8枚〜9枚目
鳥獣戯画というと動物が遊んでいるイメージが強いが働いている場面もある。
これは宴会の準備らしい。
20枚〜21枚目
仏教的な行動であるのは一目瞭然でも、それまでの展開とはつながっていないから意味がよくわからないシーン。
中央の奥で頭巾を被っているのはキツネだと思うが、その右隣と中央手前でウサギと一緒に法衣を着ている動物はイタチだろうか。また左にある木にはフクロウが留まっている。
ところで鳥獣戯画には高山寺と描かれたハンコがベタベタ押してある。これが子供の頃から不思議だったというか目障りに思っていた。ブログを書く前に少し調べてわかったのは
1)絵巻は紙をつなぎ合わせて長い巻物にする。
2)鳥獣戯画では「ノリが古くなって紙がはがれた」「巻物だと見るのに不便だから
はがした」のどちらかはわからないが、
3)とにかくバラバラの状態で保存されている時期があった。
4)その時に、後でまた貼り合わせやすいように割り印のような役割を持たせて
判を押した。
ということらしい。
しかしである。甲巻の場合だと23枚の貼り合わせだから継ぎ目は22ヶ所。そのうち継ぎ目の部分に絵が描かれていない箇所、すなわち割り印がないと後で困る箇所はたった2つしかない。
何が言いたいかというと、誰かタイムマシンで過去の高山寺へ行って、ハンコを押しまくった担当者をシバいてきて欲しいということ(^^ゞ
ーーー続く
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