2021年06月15日
特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」 その4
2015年に今回と同じく東京国立博物館で開かれた鳥獣戯画展は、待ち時間が6時間に及ぶ日もあったくらいの入場者を集めた。館内に入るのに1時間、乙・丙・丁の3巻を見終わるのに待ち時間を含めて2時間、そこから甲巻を見るのにさらに3時間の行列! 最終の午後5時に入場した人が博物館を出たのは深夜11時を回っていたというからビックリである。その6時間のうち絵を鑑賞したのは15分くらいなんだろうなあ(/o\)
その経験と反省を踏まえてかどうかは知らないが、この展覧会で導入されたのが動く歩道。最も人気のある=混雑する甲巻の展示に設置されている。人がベルトコンベアに乗って作品の前を移動するというか移動させられるのは、おそらく展覧会史上初めてじゃないかな。
もっとも今回はコロナでかなりの入場者数制限をしているから、結果的には導入した意味がなかった。しかし企画発注されたのはコロナ以前だろうから、まあそれは仕方がない。
右から左へストーリーが進む絵巻に会わせて人が流れていく。これはおそらく事前内覧会で撮られた写真で、実際には動く歩道の上に途切れることなく人が乗っている。
写真はhttps://www.culture.city.taito.lg.jp/ja/reports/20474から引用
動く歩道で絵巻を見ること自体に違和感はなかった。移動するのが自分の足かベルトコンベアかの違いだけだからそれも当然か。違和感がないというよりアトラクションぽい感覚もあって、ちょっと楽しい。それと人とぶつかる心配がないので作品に集中できたのは想定外のメリット。
ただし動く歩道の移動スピードはかなり早く感じた。
スマホのストップウォッチで歩道に乗せられていた時間を測ったら2分24秒。
甲巻は11m57cmだから
秒速なら8cm
分速なら4.8m
時速なら0.29km
できれば2倍の5分は欲しい。最低でも4分は必要。
その場合で分速は2.9mとなる。
図柄として眺めるだけなら分速4.8mでも問題はない。しかし絵巻は物語である。鳥獣戯画にほとんどストーリーはないとわかっていても、脳がどうしてもストーリーとして捉えようとする。そして分速4.8mではそれを解釈する処理が追いつかない。だから目では見えているのに内容が頭に入ってこない感覚が生じてフラストレーションが溜まる。
もっともスピードを遅くすれば混雑緩和の効果は薄れてしまう。しかし自然発生する渋滞によるさらなる速度の低下は起こらないから(高速道路を思い出してね)、自由に歩かせるよりはスムーズに人が流れるのじゃないかな。そのあたりの工学は専門家じゃないからよくわからないが。いずれにしても必要な鑑賞時間を確保できないのなら本末転倒である。
なお甲巻を動く歩道で見た後は乙・丙・丁の展示ゾーンに進んで、動く歩道には戻れない導線になっている。もう一度見るには出口から出て、再び展示室に入り直す必要がある。
さて動く歩道は直線しか対応できないが、回転寿司のコンベア方式ならコーナーを曲がることも可能。ひょっとして未来の展覧会はそんな風にして見ることになるのだろうか。あるいはAIによる自動運転のセグウエイみたいな物に乗せられて。
確かに効率的ではあるが、何となく非人間的で美術作品を見るにはそぐわない気がする。展覧会なんて興味がない作品は見なくていい、あるいはチラ見で充分で、気に入った作品は好きなだけ眺めていたいもの。それを観光バス旅行のように画一的に館内を回らされたのではたまらない。
また今回は日時を予約してのチケット発売となった。これは混雑回避ではなくコロナの密対策ではあるが、入場者数の抑制もあって入館待ち時間は5分程度。それは大いに評価できる。ただしそれでも美術館のよさとはコンサートや演劇と違って、日時に縛られず思いついたらいつでも行けることだと思っている。またそれがよく展覧会を訪れている理由でもある。
とはいうものの2015年の鳥獣戯画展や2016年の伊藤若冲展のように6時間待ちなんてのは論外として、展覧会を見るのに数時間待ちというのも同じく非人間的でもあるわけで。そういう超人気展覧会ではコロナが終焉しても事前予約制にすべきかなあと考えたり。人間回転寿司にさせられるのはもう少し先のことだろうからまだ心配していないが。
800年前に描かれた鳥獣戯画を眺めながら、
今後の美術展のあり方に思いを巡らせたのが不思議な気分。
ーーー続く
その経験と反省を踏まえてかどうかは知らないが、この展覧会で導入されたのが動く歩道。最も人気のある=混雑する甲巻の展示に設置されている。人がベルトコンベアに乗って作品の前を移動するというか移動させられるのは、おそらく展覧会史上初めてじゃないかな。
もっとも今回はコロナでかなりの入場者数制限をしているから、結果的には導入した意味がなかった。しかし企画発注されたのはコロナ以前だろうから、まあそれは仕方がない。
右から左へストーリーが進む絵巻に会わせて人が流れていく。これはおそらく事前内覧会で撮られた写真で、実際には動く歩道の上に途切れることなく人が乗っている。
写真はhttps://www.culture.city.taito.lg.jp/ja/reports/20474から引用
動く歩道で絵巻を見ること自体に違和感はなかった。移動するのが自分の足かベルトコンベアかの違いだけだからそれも当然か。違和感がないというよりアトラクションぽい感覚もあって、ちょっと楽しい。それと人とぶつかる心配がないので作品に集中できたのは想定外のメリット。
ただし動く歩道の移動スピードはかなり早く感じた。
スマホのストップウォッチで歩道に乗せられていた時間を測ったら2分24秒。
甲巻は11m57cmだから
秒速なら8cm
分速なら4.8m
時速なら0.29km
できれば2倍の5分は欲しい。最低でも4分は必要。
その場合で分速は2.9mとなる。
図柄として眺めるだけなら分速4.8mでも問題はない。しかし絵巻は物語である。鳥獣戯画にほとんどストーリーはないとわかっていても、脳がどうしてもストーリーとして捉えようとする。そして分速4.8mではそれを解釈する処理が追いつかない。だから目では見えているのに内容が頭に入ってこない感覚が生じてフラストレーションが溜まる。
もっともスピードを遅くすれば混雑緩和の効果は薄れてしまう。しかし自然発生する渋滞によるさらなる速度の低下は起こらないから(高速道路を思い出してね)、自由に歩かせるよりはスムーズに人が流れるのじゃないかな。そのあたりの工学は専門家じゃないからよくわからないが。いずれにしても必要な鑑賞時間を確保できないのなら本末転倒である。
なお甲巻を動く歩道で見た後は乙・丙・丁の展示ゾーンに進んで、動く歩道には戻れない導線になっている。もう一度見るには出口から出て、再び展示室に入り直す必要がある。
さて動く歩道は直線しか対応できないが、回転寿司のコンベア方式ならコーナーを曲がることも可能。ひょっとして未来の展覧会はそんな風にして見ることになるのだろうか。あるいはAIによる自動運転のセグウエイみたいな物に乗せられて。
確かに効率的ではあるが、何となく非人間的で美術作品を見るにはそぐわない気がする。展覧会なんて興味がない作品は見なくていい、あるいはチラ見で充分で、気に入った作品は好きなだけ眺めていたいもの。それを観光バス旅行のように画一的に館内を回らされたのではたまらない。
また今回は日時を予約してのチケット発売となった。これは混雑回避ではなくコロナの密対策ではあるが、入場者数の抑制もあって入館待ち時間は5分程度。それは大いに評価できる。ただしそれでも美術館のよさとはコンサートや演劇と違って、日時に縛られず思いついたらいつでも行けることだと思っている。またそれがよく展覧会を訪れている理由でもある。
とはいうものの2015年の鳥獣戯画展や2016年の伊藤若冲展のように6時間待ちなんてのは論外として、展覧会を見るのに数時間待ちというのも同じく非人間的でもあるわけで。そういう超人気展覧会ではコロナが終焉しても事前予約制にすべきかなあと考えたり。人間回転寿司にさせられるのはもう少し先のことだろうからまだ心配していないが。
800年前に描かれた鳥獣戯画を眺めながら、
今後の美術展のあり方に思いを巡らせたのが不思議な気分。
ーーー続く
wassho at 23:48│Comments(0)│
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