2021年06月16日

特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」 その5

さて乙巻から丁巻。
こちらは動く歩道ではなく通常の展示。


乙巻は甲巻より9枚多く、32枚の用紙がつなぎ合わされていて全長は12.25メートル。
1枚あたりの長さは何センチかというどうでもいい計算をしてみると、

   甲巻:11.36メートル ÷ 23枚 = 49センチ
   乙館:12.25メートル ÷ 32枚 = 38センチ

乙巻の平均値が短いのは、10センチほどのやたら短い用紙が何枚か使われているから。おそらく一部を切り取られた後に、その前後をつないだのだろう。だから中央値で較べれば甲巻と長さは変わらないはず。なお縦のサイズは31センチで甲巻と変わらない。


この乙巻は戯画(おかしみのある絵、戯を訓読みすればタワムレ)ではなくて、動物のスケッチあるいは図鑑みたいな内容。登場するのは全部で16種類。ただし後半は麒麟など想像上の動物が描かれる。


2枚目
202


9枚〜10枚目
210


15枚〜16枚目
216

絵がお上手ですねという感想だけしかでてこない。
はっきりいって800年前に描かれた骨董品であること以外に価値は見いだせない。


19枚〜20枚目
220

これは麒麟(きりん)。龍や鳳凰と同じく中国神話に現れる霊獣。

ところで中国人が初めて動物のキリンを見た時、この麒麟に姿が似ていたからキリンと名付けたらしい。キリンビールに描かれているイラストの麒麟はズングリしてキリンに似ていないが、この麒麟ならその気持ちはわかる。


25枚〜26枚目
226

ちょっと首が長い気もするが、これはトラ。この時代の日本では中国からの絵画や毛皮でしか存在を知らないので、麒麟と同じく想像上の動物扱いになって絵巻の後半に登場する。


27枚目
227

こちらは獅子。まったく空想の産物である麒麟と違って、獅子は古代の中国人が(まだ見たことのない)ライオンの話を聞いて想像を膨らませて創作したものらしい。


31枚〜32枚目
231

右のゾウはトラと同じ理由で絵巻の後半に描かれている。左にいるのは人の見る夢を食べて生きているという獏(ばく)。麒麟→キリンと同じく、動物のバクもこの獏に似ているのが名前の由来。


1


3巻目となる丙(へい)巻は用紙20枚プラス奥書で11.13メートル。これは戯画であるが、前半は人間で後半に動物を描いている。ただし鳥は登場しないから人獣戯画。もっともカエルは獣じゃないけれど。でもそれを言い出すと鳥獣戯画というタイトルも成立しなくなる。

4枚目
304


5枚目
305


7枚目
307

なぜか身体にヒモをひっかけて、それを引っ張り合う遊びがやたら出てくる。この時代に流行っていたのかな。未来にはゴムパッチンという遊びがあるよと教えてあげたいね(^^ゞ


6枚目
306

これはにらめっこ。昔は目比べ(めくらべ)といったらしい。
左側の二人がにらめっこをして、その表情を見た中央の人物が大笑いしている。


12枚目
312

動物編のパートはここから。シカに乗ってサルがレースをするシーンであるが、甲巻のようにユーモラスな感じは伝わってこない。


15枚目
315

サルやウサギもかわいくない(/o\)


14枚〜15枚目
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荷車をお祭りの山車(だし)に見立てているとの想定らしい。


丙巻で人間が描かれているパートは構図やデッサンがしっかりした印象を受けるが、動物のパートになるとかなりレベルが下がる。


2


丁(てい)巻は用紙18枚で長さ9.4メートルと最も短い。こちらは鳥も獣も登場せず人間だけが描かれている。他の巻と較べるとラフな筆遣いというか、短時間で仕上げた印象を受ける。


1枚目
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右側は楽器の演奏。そのお囃子で盛り上げられている中央は、侏儒(しゅじゅ=子人)の曲芸との解説だが、何が描かれているのかイマイチよくわからず。


3枚目
403

4枚〜5枚目
405

この2枚はどちらも僧侶が描かれている。リスペクトしている様子は伺えないな。


6枚目
406

いわゆる流鏑馬(やぶさめ)のシーン。

弓矢がYの字になっていたのが不思議で調べてみると、これは鏑矢(かぶらや)という形状。Y字の後ろに箱のようなものが描かれているが、それが空洞で笛になっていてる弓矢のようである(別に先端がY字じゃなくてもいい気もするが)。合戦の開始の合図として放たれたとのこと。


11枚目
411

木遣り(木材の運搬)の様子。かなり漫画っぽい描き方。



甲・乙・丙・丁でバラエティに富んでいておもしろかった。ただし各巻を通しで眺めると甲巻の素晴らしさ・レベルの高さが改めて浮き彫りになってくる。鳥獣戯画は4巻セットで国宝指定を受けている。しかし甲巻は単独で国宝の価値があるが、乙・丙・丁はもし甲巻が存在しなければ国宝になっていなかったと思う。



ーーー続く

wassho at 23:17│Comments(0) 美術展 

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