2021年06月18日

特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」 その6

会場は2つに分かれていて、第1会場には今まで書いてきた住吉家旧蔵本(模本)と、甲・乙・丙・丁の鳥獣戯画全4巻、それと江戸時代の初めから最近まで鳥獣戯画が収められていた箱が展示されていた。

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外箱と内箱に分かれ(写真上段)、内箱も二重構造で(写真下段)絵巻を2つ入れたものを二段に重ねて、それを上から覆う造りになっている。この立派な箱を見れば鳥獣戯画がどんな扱いをされてきたかわかるというもの。


第2会場に入る。

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もう鳥獣戯画を見終わったのに何が展示してあったのかというと、迎えてくれるのは「鳥獣戯画の断簡と模本 ー 失われた場面の復原」というコーナーである。

断簡とは切れ切れになった文書が本来の意味であるが、美術用語では絵巻の一部が切り離され掛軸などに仕立て直されて残っているものを意味する。ワガママなことをするヤツがいるものだと思うが、これは絵巻アルアルなことらしい。

    ※なお復原と復元はどちらも「もとの姿に戻すこと」だが、文化財用語では、
     今あるものをオリジナルの状態に戻すのが復原、失われたものを(新たに)
     再現するのが復元。


断簡 東博本:祭礼の行列風景らしい
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断簡 益田家旧蔵本:サルとウサギがシカに乗って競争。
          サルはウサギの耳を引っ張って妨害行為中(^^ゞ
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断簡 MIHO Museum本
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もうひとつ高松家旧蔵本の断簡というのがあった。
やはり断簡はおいしいところを切り取っているなという印象。


それぞれの名前は基本的に所有者に由来している。ただし現在の所有者とは限らない。

    東博:東京国立博物館の意味だが、この断簡の現在の所有は独立行政法人国立
    文化財機構で、保管が東京国立博物館。

    益田家:明治時代に三井財閥で活躍した実業家で茶人の益田孝の益田家。
    現在の所有者は記載がないから今も益田家にあるか別の個人の所有。

    MIHO Museum:滋賀県にある神慈秀明会という宗教法人が運営する
    博物館が所有。

    高松家:調べてもどこの高松さんなのかかわからなかった。現在はアメリカ人の
    個人所有でブルックリン美術館に寄託されている(預けること)。


模写である模本は、第1会場にあった住吉家旧蔵本(1598年作)の他に以下のものが展示されていた。

    長尾家旧蔵本 15〜16世紀の作 長尾家については不明 

    探幽縮図 江戸幕府の絵師である狩野探幽による17世紀の模写

    松浦家本 1819年作 平戸藩主の松浦静山が別の模写から模写させたもの


長尾家旧蔵本から。
どちらも現在の鳥獣戯画には描かれていない内容。

この時代にもう高飛び競技があったのに驚く。
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ヘビにビビって逃げるカエル。
11-2



断簡があれば鳥獣戯画は一部が切り取られていることになる(切り取られた後に戻されたものもあるらしい)。そして模本はそれぞれが模写された時代の鳥獣戯画の姿を示している。それらをあれこれと研究して推測されているのは、

  23枚の用紙が張り合わされている甲巻は、もともと2巻の絵巻として存在していた。

     現在の1〜10枚目を含む絵巻に、住吉家の模本を中心に益田家・高松家・
     MIHO Museumの断簡の内容を加えたもの。

     現在の11〜23枚目を含む絵巻に、長尾家の模本を中心に東博の断簡の内容を
     加えたもの。
    
  それが切り取られて短くなったので?
  江戸時代初めに2巻を1巻にまとめられて現在に伝わったーーーと考えられる。


甲巻が2つあったなんてビックリである。ただしその推測によって復原されたものが展示されていたが、ただでさえストーリーにつながりのない鳥獣戯画が、ますます訳のわからない内容になっていたような。(どうでもいいことだが、模本を使うなら、それは復原ではなく復元だろうという気がする)

また最も古い住吉家や長尾家の模本でも、鳥獣戯画が描かれてから数百年後の模写であり、それ以前に切り取られた断簡は反映していない。だから今後、もっと古い時代の模本、あるいはまとまった数の断簡が新たに出てくれば別だが、その可能性は極めて低いと思うのでオリジナルの姿に近づくのはかなり難しいと思う。

ただしストーリーがないことが幸いして、今のままでも充分に魅力的だし楽しめるのが鳥獣戯画である。800年前のおそらくは無名絵師の、おそらくは習作で描かれたものが、これだけしっかりと残っているだけでも儲けもの。



おしまい


何となく唐突な終わり方だけれど、
国宝の鳥獣戯画だって話にオチはないからね(^^ゞ

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wassho at 19:55│Comments(0) 美術展 

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