2021年12月08日

最大限の言葉って?

中国の新疆ウイグル自治区に対する人権問題などを理由に、アメリカは来年2月の冬季北京オリンピックへの「外交的ボイコット」を発表し、現時点ではオーストラリアがそれに続いている。
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外交的ボイコットとは大会そのもののボイコットではなくて、選手はオリンピックに参加するが外交使節団は送らないということらしい。もちろん使節団が入場行進や競技をするわけじゃない。だからそれに何の意味があるのかと思ってしまうが、大会そのもののボイコットが実力行使だとすれば、外交的ボイコットは意思表明といったところだろうか。極めて高度な政治的駆け引きのようにも思えるし、アメリカ国内の様々な意見や事情に配慮した妥協の産物のようにも感じる。

さて日本政府はどうするつもり?


それはさておき、
東京オリンピックが閉会したのは8月8日。つまり本日の4ヶ月前。たった4ヶ月前と表現していいと思うけれど、もうほとんど話題にする人もいないし、既に記憶の彼方のような気がするのは私だけかな。色んな意味で大変な思いをして開催した割りには、けっこう印象薄かったような。実はこのボイコットのニュースで「そういえば夏にオリンピックあったな」と思いだしたくらい。

ところで
招致段階や開催前は「オリンピックによる経済効果はウン十兆円」なんて「試算」をよく目にした。閉会して4ヶ月も過ぎたのだから、そろそろ「精算」の数字も聞きたいものであるが、そういうことをするシンクタンクはいないみたい。コロナでの経済損失をどれだけチャラにできるかは今後の財政議論でも重要だと思うのだが。

とりあえず単純な収支計算の結果は今月22日に発表されるとのこと。しかし、どうしてその程度に4ヶ月以上かかる? 出張精算がそんなに遅れたら経理のお局様にシバかれるぞ(^^ゞ



それもさておき、
冬季北京オリンピックへの外交的ボイコットに対して、当然ながら中国は反発している。ニュースを読むと「強烈な不満と反対を表明する」とあった。外交声明でこういう言い回しが増えているように感じる。いつだったか「最大限の強い言葉で非難する」というのもあった。最大限の強い言葉って具体的にどんな単語よ?どうしてその単語そのものを使わない?

子供のケンカだって「アホ、バカ、マヌケ、オマエの母ちゃんデベソ、やーい!」というから怒ったり泣いたりするわけで「最大限の強い言葉でなじってやる、やーい!」じゃ???である。外交の世界では適切かつ効果的な単語を見つけ出すという作文能力が落ちているのか?


もっとも外交には外交プロトコルと呼ばれる様々なルールがある。プロトコルとはマナーやエチケットを格式張って表現したもので直訳すれば儀礼。例えば会議や晩餐会の席順の決め方などが狭義の外交プロトコルだが、非難声明の表現なども定められている。

日本の場合は4つの単語に4つの修飾表現を加えた8段階。

   断固として非難する
   非難する
   極めて遺憾
   遺憾
   深く憂慮する
   憂慮する
   強く懸念する
   懸念する

アメリカでは5段階らしい。

   condemn:非難する
   disappoint:失望した
   deplore:憂慮する
   concern:懸念する
   regret:遺憾である

表はそれぞれの出来事にどの表現が使われているかを示したもの。
(https://special.sankei.com/a/politics/article/20210316/0001.htmlから引用)
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こういうプロトコルを利用して日本の関心あるいは腹立ちレベルを国際社会に伝えている。同じく各国の外交声明も、それぞれの国のプロトコルに照らし合わせば読み違えることがないという仕組み。話はそれるがアメリカはウイグル問題でオリンピックの外交的ボイコットにまで出ているのに、日本は下から2番目レベルの批判なんだね。


こんな作法は昔からあるので「強烈な不満と反対を表明する」というような言い回しが増えているように感じるのは私の勘違いかも知れない。でも目に付くようになったのはこの10年くらいだと思うのだけれど。

いずれにせよ、
「最大限の強い言葉で非難する」というプロトコルに沿った表現「だけ」では外交のプロ以外には伝わらないので、プロトコルは守るにせよ、それに付随するもっと表現力豊かで多彩な文章術を外務官僚諸君には磨いて欲しい。

wassho at 20:47│Comments(0) 社会、政治、経済 

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