2022年10月03日
プレートが跳ね上がる地震のナゾ その2
地球の表面は、厚さ約100kmのプレートと呼ばれる岩盤帯14〜15枚で覆われており、それがマントルの対流で少しずつ移動している。火山性のものを除けば、地震はそのプレート同士がぶつかり合う力で起こる。
その力が内陸部に及んで起きるのが、前回に書いた断層型地震。
そして海の底で起きるのが、その説明に?と思っている海溝型地震である。
プレートとプレートが押し合えば、盛り上がるような気がするが、海洋プレートは大陸プレートより重いとのことで、大陸プレートの下に潜り込む。潜り込んで海が深くなったところが海溝。
日本海溝やマリアナ海溝など、海溝という言葉にはそこそこ馴染みはあると思う。海底にある裂け目のようなイメージで何となく神秘的。たまに深海探査艇のニュースなどがあって冒険心がかきたてられる。しかしここが恐ろしくも大迷惑な地震の生みの親なわけだ(/o\)
ちなみに海溝とは深さが6000m以上のものを指し、それより浅いものはトラフと呼ばれる。トラフにはプレートの沈み込み以外のメカニズムでできるものもあるらしい。ところで「近い将来に南海トラフで地震が起きる」とよく報じられるが、トラフの意味を理解している人は少ないんじゃないかな。
ついでに前回「プレートの移動する方向はバラバラなので、隣り合うプレートと離れるところもあれば、ぶつかるところもある」と書いた。プレートが離れる=下からマントルが上がってくる=海底に山ができる。これを海嶺(かいれい)と呼ぶ。「嶺」は「峰」と同じ意味。海溝と違ってこちらはあまり聞かない言葉。
海溝でプレートはマントルの奥深くに沈み込み、つまり消滅する。しかし海嶺ではマントルが上がってきて、それが新たなプレートを形成する。まるで新陳代謝のようで地球が生きているかに思えるね。
参考までに日本周辺の海溝やトラフの位置図。
さて今回の本題。
海溝型地震が起きるメカニズムとして、
どの資料を見ても、ほぼ例外なく次のように解説されている。
海洋プレートが大陸プレートの下に潜り込む際に、
大陸プレートも引きずり込まれる。
それによってひずみが蓄積され、
それが限界に達すると、
大陸プレートが跳ね上がる
これが地震の原因であり、海底で起きるから津波の原因でもあるーーーと。
模型を使った解説もよく見られ、これはNHK高校講座・地学基礎での例。
動画を貼り付けられなかったので静止画何枚かを抜粋すると
引用元:https://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/chigakukiso/
archive/chapter023.html
右側の海洋プレートに見立てたベルトがモーターで回転するようになっている。
海洋プレートの動きに沿って、左側の大陸プレートも引きずられていく。
どんどん引きづられて、この辺が限界点。
それを超えると、パコンと大陸プレートが元の位置に跳ね上がる。
こちらは朝日新聞のデザチューブというYouTubeチャンネル。
前半は断層型地震の解説で、海溝型地震は開始1分25秒あたりから。
多くの人は、これらの解説に納得するかも知れない。
何となく理屈は通っているように思える。
しかし、よく考えてみて欲しい。
プレートとは地殻と上部マントルの一部からなる岩盤。
平たくいえば岩である。
だとすれば、
岩盤が曲げられたゴム板のように元の位置に戻るか???
それに、そもそも岩盤はグニャッと曲がったりはしない。大陸プレートが海洋プレートに引きずり込まれていく途中で亀裂が入っているはず。だから元の位置に「跳ね上がる」ような形でひずみが蓄積されたりはしない
ーーーはずなんだけれど。
そう思わない?
ノーベル賞もらえるかな(^^ゞ
まあとにかく、この海溝型地震が解説される際に、お約束で登場する「プレートが跳ね上がる」に昔から納得がいっていない。いろいろと調べたものの、それ以外の解説は見当たらないから疑問が解けないままである。
もっとも学説を頭ごなしに否定する気もなければ、それだけの知識もない。おそらく海溝型地震の発生するメカニズムは大筋ではあっているのだろう。ただ大陸プレートが元の位置に戻る現象を「跳ね上がる」とした言葉づかいが不適切あるいは表現力不足なのだと思う。
どこかの学者が使い始めて、他の適当な表現を誰も思いつかなかったので「跳ね上がる」が一般化したのかも知れない。そして図解する時に地震の専門家ではないイラストレーターが、わかりやすく弾力をイメージさせるような絵に仕上げた。そんなところだろうか。比喩的な表現は頭に入りやすいけれど、あくまで部分的な例え話だから、それですべて理解したつもりになってはいけない典型的な事例。
さらに言えば、海溝で海洋プレートに大陸プレートが引きずり込まれるイラストには致命的な間違いがある。どの解説でも似たようなものが使われていて、これらでは大陸プレートが急角度で引きずり込まれ、(もし岩盤にゴムのような弾力があるとすれば)いかにもパコンと「跳ね上がる」感じがするように描かれている。
しかし海溝の深さは最も深いマリアナ海溝で1万924m、日本海溝なら8020mである。切りのいいところで仮に1万mとしよう。ただし海の深さは平均3800mだとされるので、海溝の切れ目そのものは約6000mになる。
それに対してプレートは厚さ100kmもある。つまり100対6。だから海溝は人間の感覚では深い裂け目であっても、プレートからすればちょっとしたへこみ程度の大きさに過ぎない。さらに海溝の幅も約100kmとされる。図は海の平均的深さ・海溝の深さと幅・プレートの厚みの縮尺を揃えて描いたもの。
こうやって確認すると海溝は漠然とイメージしているような急峻な裂け目ではなく、実になだらかな斜面だと分かる。だから海溝型地震の説明イラストのように、大陸プレートが「パコンと跳ね上がりそう」な急角度で引きずりこまれているわけではない(と思う)。イラストレーターに悪気はないとしても、縮尺を無視したのが跳ね上がりに誘導するための印象操作になっている。
(注)右側にある縦の三角は、海溝の幅とプレートの厚みが
目の錯覚で同じ長さに見えないので、確認のため複製して置いてみた。
これは東北沖の日本海溝の地形図。
プレートの厚みは省略されていて、縦横の縮尺比率も異なり縦方向に4倍ほど拡大されている。それで見ても日本海溝は「浅く緩やかな」斜面で、やはり大陸プレートはパコンと跳ね上がりそうにない。
ところでNHKの高校講座では、
解説に何とコンニャクまで使われていた!
例えが無理すぎるって(^^ゞ
おしまい
補足:イラスト等はそれぞれ下記のサイトからの引用。
一部を加筆あるいは修正している。
https://www.city.sakaide.lg.jp/site/bousai/jisin1.html
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/inf/bfc/leader/cp5/index.html
https://www.toppan.co.jp/bousai/shiru/03_16.html
https://www.oa.u-tokyo.ac.jp/researcher-story/024.html
その力が内陸部に及んで起きるのが、前回に書いた断層型地震。
そして海の底で起きるのが、その説明に?と思っている海溝型地震である。
プレートとプレートが押し合えば、盛り上がるような気がするが、海洋プレートは大陸プレートより重いとのことで、大陸プレートの下に潜り込む。潜り込んで海が深くなったところが海溝。
日本海溝やマリアナ海溝など、海溝という言葉にはそこそこ馴染みはあると思う。海底にある裂け目のようなイメージで何となく神秘的。たまに深海探査艇のニュースなどがあって冒険心がかきたてられる。しかしここが恐ろしくも大迷惑な地震の生みの親なわけだ(/o\)
ちなみに海溝とは深さが6000m以上のものを指し、それより浅いものはトラフと呼ばれる。トラフにはプレートの沈み込み以外のメカニズムでできるものもあるらしい。ところで「近い将来に南海トラフで地震が起きる」とよく報じられるが、トラフの意味を理解している人は少ないんじゃないかな。
ついでに前回「プレートの移動する方向はバラバラなので、隣り合うプレートと離れるところもあれば、ぶつかるところもある」と書いた。プレートが離れる=下からマントルが上がってくる=海底に山ができる。これを海嶺(かいれい)と呼ぶ。「嶺」は「峰」と同じ意味。海溝と違ってこちらはあまり聞かない言葉。
海溝でプレートはマントルの奥深くに沈み込み、つまり消滅する。しかし海嶺ではマントルが上がってきて、それが新たなプレートを形成する。まるで新陳代謝のようで地球が生きているかに思えるね。
参考までに日本周辺の海溝やトラフの位置図。
さて今回の本題。
海溝型地震が起きるメカニズムとして、
どの資料を見ても、ほぼ例外なく次のように解説されている。
海洋プレートが大陸プレートの下に潜り込む際に、
大陸プレートも引きずり込まれる。
それによってひずみが蓄積され、
それが限界に達すると、
大陸プレートが跳ね上がる
これが地震の原因であり、海底で起きるから津波の原因でもあるーーーと。
模型を使った解説もよく見られ、これはNHK高校講座・地学基礎での例。
動画を貼り付けられなかったので静止画何枚かを抜粋すると
引用元:https://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/chigakukiso/
archive/chapter023.html
右側の海洋プレートに見立てたベルトがモーターで回転するようになっている。
海洋プレートの動きに沿って、左側の大陸プレートも引きずられていく。
どんどん引きづられて、この辺が限界点。
それを超えると、パコンと大陸プレートが元の位置に跳ね上がる。
こちらは朝日新聞のデザチューブというYouTubeチャンネル。
前半は断層型地震の解説で、海溝型地震は開始1分25秒あたりから。
多くの人は、これらの解説に納得するかも知れない。
何となく理屈は通っているように思える。
しかし、よく考えてみて欲しい。
プレートとは地殻と上部マントルの一部からなる岩盤。
平たくいえば岩である。
だとすれば、
岩盤が曲げられたゴム板のように元の位置に戻るか???
それに、そもそも岩盤はグニャッと曲がったりはしない。大陸プレートが海洋プレートに引きずり込まれていく途中で亀裂が入っているはず。だから元の位置に「跳ね上がる」ような形でひずみが蓄積されたりはしない
ーーーはずなんだけれど。
そう思わない?
ノーベル賞もらえるかな(^^ゞ
まあとにかく、この海溝型地震が解説される際に、お約束で登場する「プレートが跳ね上がる」に昔から納得がいっていない。いろいろと調べたものの、それ以外の解説は見当たらないから疑問が解けないままである。
もっとも学説を頭ごなしに否定する気もなければ、それだけの知識もない。おそらく海溝型地震の発生するメカニズムは大筋ではあっているのだろう。ただ大陸プレートが元の位置に戻る現象を「跳ね上がる」とした言葉づかいが不適切あるいは表現力不足なのだと思う。
どこかの学者が使い始めて、他の適当な表現を誰も思いつかなかったので「跳ね上がる」が一般化したのかも知れない。そして図解する時に地震の専門家ではないイラストレーターが、わかりやすく弾力をイメージさせるような絵に仕上げた。そんなところだろうか。比喩的な表現は頭に入りやすいけれど、あくまで部分的な例え話だから、それですべて理解したつもりになってはいけない典型的な事例。
さらに言えば、海溝で海洋プレートに大陸プレートが引きずり込まれるイラストには致命的な間違いがある。どの解説でも似たようなものが使われていて、これらでは大陸プレートが急角度で引きずり込まれ、(もし岩盤にゴムのような弾力があるとすれば)いかにもパコンと「跳ね上がる」感じがするように描かれている。
しかし海溝の深さは最も深いマリアナ海溝で1万924m、日本海溝なら8020mである。切りのいいところで仮に1万mとしよう。ただし海の深さは平均3800mだとされるので、海溝の切れ目そのものは約6000mになる。
それに対してプレートは厚さ100kmもある。つまり100対6。だから海溝は人間の感覚では深い裂け目であっても、プレートからすればちょっとしたへこみ程度の大きさに過ぎない。さらに海溝の幅も約100kmとされる。図は海の平均的深さ・海溝の深さと幅・プレートの厚みの縮尺を揃えて描いたもの。
こうやって確認すると海溝は漠然とイメージしているような急峻な裂け目ではなく、実になだらかな斜面だと分かる。だから海溝型地震の説明イラストのように、大陸プレートが「パコンと跳ね上がりそう」な急角度で引きずりこまれているわけではない(と思う)。イラストレーターに悪気はないとしても、縮尺を無視したのが跳ね上がりに誘導するための印象操作になっている。
(注)右側にある縦の三角は、海溝の幅とプレートの厚みが
目の錯覚で同じ長さに見えないので、確認のため複製して置いてみた。
これは東北沖の日本海溝の地形図。
プレートの厚みは省略されていて、縦横の縮尺比率も異なり縦方向に4倍ほど拡大されている。それで見ても日本海溝は「浅く緩やかな」斜面で、やはり大陸プレートはパコンと跳ね上がりそうにない。
ところでNHKの高校講座では、
解説に何とコンニャクまで使われていた!
例えが無理すぎるって(^^ゞ
おしまい
補足:イラスト等はそれぞれ下記のサイトからの引用。
一部を加筆あるいは修正している。
https://www.city.sakaide.lg.jp/site/bousai/jisin1.html
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/inf/bfc/leader/cp5/index.html
https://www.toppan.co.jp/bousai/shiru/03_16.html
https://www.oa.u-tokyo.ac.jp/researcher-story/024.html
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