2023年07月24日

不同意性交等罪と撮影罪 その4

かつてないほどの長い前置きが終わり(^^ゞ いよいよ本題。

最初のエントリーに書いたように、それはこの法律のネーミングについて。結論から話を進めると不同意性交等罪の言葉からは、この犯罪の卑劣さがまったく伝わってこない。それってドウヨと思ったのが、この法律について書き始めたきっかけ。


実は2017年に強姦罪が強制性交等罪に改正されたときからそれは感じていた。

   強姦→強制性交等

そもそも強姦は強制的な性交を意味する。
どうしてわざわざそんな回りくどい名前に置き換える?ーーーと。

前回までに説明したように、その理由は強姦には男性が女性を犯す意味合いしかなく、それを男性も性犯罪の被害者に含まれるように法律を拡大したから。そして性交等と「等」がついたのは対象を性器だけでなくオシリやオクチも含めたから。

その意味ではまったく内容を忠実に表現しているのだけれどーーー。しかし強制性交等罪が施行されしばらくして、初めてその容疑で捕まったニュースを見たとき、強姦罪と違って「なんか軽そうな罪名だなあ、たいして悪いことしていない?」と思ったのが正直なところ。


今回の不同意性交等罪への改正については「不同意はすべてレイプと見なせ」という考え方があって、いろいろと法律論的な兼ね合いからその案は見送られたものの、条文に不同意の項目が盛り込まれた。不同意の項目がなくても犯罪要件の実質は変わらないから、なぜそうなったかはよく分からないが(前回に若干の推察を書いた)、ついでに罪名にも不同意の文言まで入った。

罪名に不同意の文言が入るとそれが強調される効果を生む。だから「不同意はすべてレイプと見なせ」を推進していた人たちは「不同意が犯罪と知らしめるのにつながる」とこのネーミングを歓迎している。しかしそんなことは誰でも知っているから特に意味があるとは思えない。駅にはよく「痴漢は犯罪です」と書かれたポスターが掲げられている。それを見るたびに「それは犯人が一番わかってるやろ」と口に出さずにツッコミを入れている(^^ゞ


人によって様々だろうが、私には強制性交等罪より不同意性交等罪のほうがさらにイメージが軽く感じられる。強姦罪で捕まった犯人には「悪いヤツ」との印象を持っても、不同意性交等罪だとなんか騙してSEXしたみたい。というかそれ以前に、漢字ばかりのネーミングが長すぎて意味が頭に入ってこない。

表現の正確さは大事とはいえ同時にその言葉の持つ印象も、たとえ法律の罪名といえども考えるべきではないかと思う。私なら法律内容を改正しても強姦罪の名称はそのままにしたかな。辞書的な意味と違う部分は条文の中できちんと定義すればいい。法律は世間一般とは異なる用語の使い方をしてきたし、別にそれで世間や国語学者がクレームを付けたりはしないだろう。

もちろん言葉は生き物なので不同意性交等の受け止め方も時間とともに変化するのは承知している。それでも強姦のニュアンスに到達はしないように思える。



もうひとつの解決策は強姦に変わる新しい単語を生み出すこと。

   社会、近代、権利、義務、恋愛、彼、彼女、哲学、意思、印象、環境、
   常識、象徴、文化、理想、客観、自由、芸術、公園、背景、時間ーーー

これらは幕末から明治時代に西洋の言葉を翻訳して新しく作られた日本語。和製漢語や新漢語とも呼ばれる。いくつあるのか正確な資料は見つけられなかったものの、このページには1334語とある。おそらくもっとある気がする。

なんといっても素晴らしいのは、例えば社会=ソサエティーを多人数共同生活群などと説明的表現をせずに「社会」とシンプルな単語を創造したこと。そんな先人の英知を引き継げずに、今は「クラスターが発生してロックダウンにならないようソーシャルディスタンスをとりましょう」なんてカタカナ言葉ばかりになってしまっている。

いろんな分野で、再び新しい日本語を作り出す必要はあると常々から思うところ。
でも法律関係者にそれを期待するのは難しいか。



さて不同意性交等罪と同じ日に施行された撮影罪。
正式名称は

    性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な
    姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律

一般の人に理解してもらおうとの意識ゼロのネーミングである。
盗撮

内容は「エロい盗撮」を禁止する法律(公開も含む)。これまで同様の行為を処罰する法律はなく、各都道府県の迷惑防止条例で取り締まってきた。スマホの普及で盗撮するヤカラが増えてきたので法律で対処しようと新設されたもの。

これについても思うところはいろいろあるものの、脱線すると切りがないのでネーミングに話を絞る。この法律は略称として「性的姿態等撮影罪」と呼ばれるのを期待していたフシがある。しかしそんな長い略称を文字として打ち込むのも喋るのも面倒だから、マスコミやネットでも使われるのはもっと略して「撮影罪」。

撮影罪ってーーー
カメラマンとか写真を撮る人が、すべて犯人みたいな響きじゃないか(^^ゞ

略称を定着させるにはそれなりの努力が必要。キムタクだってそう呼んで貰えるようプロモーションしたからキムタクになった。ファンに任せるままだったら「タクちゃん」になっていた可能性だってある。もっとも官僚にはそんなマーケティング的な発想はないだろうが。


それにしても性的姿態等撮影罪は長すぎる。
あの無駄に長い不同意性交等罪よりもさらに一文字多い。

これは何としても盗撮罪にするべきであった。

この法律はエロい盗撮を禁じているだけで、すべての盗撮を禁じているわけではない。たとえばビッグモーターが客のクルマをパンクさせる犯行現場や、広末涼子が丸顔のシェフとホテルに入るのを撮影するのは対象外。

だから内容を絞り込むためにとの理由が聞こえてきそうだが、殺人罪だってすべての殺人が対象ではない。正当防衛はもちろん、警察官や自衛官が犯人や敵をやっつけても罪には問われない。もちろん死刑執行も認められている。

つまり法律のタイトルは内容に100%合致している必要はなく、概ねの趣旨から外れなければいいのである。そのあたりを勘違いして、やたら正確に結果として難解なネーミングを付けたがる。おそらくそれが正しいとか専門家の仕事と思っているから救いがたい。官僚が頭でっかちになるのは仕方がない面もあるとして、この法律を審議した国会議員諸君は疑問に思わなかったのか? まあそんな見識はないんだろうな(/o\)


私のブログもやたら長いのであまりえらそうには言えない。
文章が長くなるのは、推敲して短く要約するのは時間が掛かるからなんだけれどーーー

言い訳は置いておいて、今回の趣旨を簡潔に。

     「犯罪名には罪の重さを感じさせるネーミングを」

法曹関係者の皆さん、今後はなにとぞよろしく。




おしまい

wassho at 21:58│Comments(0) 社会、政治、経済 

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔