2023年07月30日

処理水・汚染水とロンドン条約

前回に引き続き原発関連。
ただし今回のオチは肩すかしなのでご勘弁をm(_ _)m


福島第一原子力発電所に今も溜まり続けている放射性物質を含む水。まずセシウムを除去し、次に多核種除去設備(ALPS)でセシウム以外の62種類の放射性物質を取り除いたのがALPS処理水。ただしこれにはまだトリチウムが残っている。それを原発敷地内のタンクに蓄えていたが、もう容量の限界に達しそうなので

   ALPS処理水を水で薄めて、
   すなわちトリチウムの濃度を低くして、

海に放出するのがこの夏に予定されている作業。ただし夏もそろそろ半分を過ぎたのに具体的な日程は明らかになっていない。なおあまり報じられていないように思うが、この放出は30年間も続く。


このニュースを最初に知ったとき、疑問に思ったことがあった。

1)薄めるって何倍に薄めるの?

東京電力の「処理水ポータルサイト」によれば100倍以上となっている。もう少し正確に書いて欲しい気がするものの、タンクによってトリチウムの濃度が違うのかも知れない。

さて原発のタンクに貯まっているALPS処理水は約134万立方メートル。東京ドームの容積は124万立方メートルなので、仮に100倍に薄めるとなると東京ドーム108杯分の水が必要となる。それが膨大な量なのは理解できるとして、もう少しイメージをつかみたい。

そこでーーー
水道料金は基本料金と従量料金で計算される。一般の商品と違って、多く使うほど単位あたりの料金は高くなる仕組み。東京都の場合で一番高いレートは1立方メートルあたり404円。計算が面倒なのでそのレートに達するまでの価格と基本料金は無視すると、

 134万立方メートル × 100倍 × 404円 = 541億3600万円!
 水道代のせいで、また電気代上がるわ(>_<)

ただし調べてみたら、ALPS処理水を薄めるのに使われるのは海水。つまりタダ。
これが本日の肩すかしその1。


2)どうして薄める必要がある?

ALPS処理水はトリチウム濃度を下げるため、水で薄めて海に放出される。その希釈度が100倍以上とされるのは上に書いた通り。しかし海に放出すれば、事実上無限に希釈されるわけだから、わざわざ放出前に薄める必要はないはず。おそらく多くの人が同じ疑問をいだいたと思うのだけれどーーー

ところでどこに放出するのかを調べてみると、原発の沖合約1kmの地点。思っていたより近い。ちなみに水平線までの距離は目の高さを1.5mとした場合で4.4kmになる。画像はhttps://www.tokyo-np.co.jp/article/225143から引用
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沖合まで引っ張るのはパイプラインか別にホースでもいいように思えるが、海底トンネルが掘られている。トンネルの深さは分からなかったものの放水口は水深12m。画像はhttps://www.sankei.com/article/20220330-WN2S76GESRKFPBCZTFMXDXNFGQ/から引用
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海に放出すれば事実上無限に希釈されるとはいえ、沖合1kmは地球規模で見たら波打ち際ギリギリみたいなもの。それで100倍に薄める必要があるのだろうか。あるいはそれでも拡散に時間が掛かるから、30年もかけて少しずつ排出するのか。

   だったらどうして船でもっと沖に運ばない?

VLCC(Very Large Crude Carrier)と呼ばれる大型タンカーが積み込めるのは約200万バレル。1バレル=159リットル。参考までにマンションなどで一般的な1418と呼ばれるサイズのユニットバスで、7割ほどお湯を入れたときの容量が200リットルほど。

さて200万バレルは31万7975立方メートルで、
原発のALPS処理水タンク容量は137万立方メートル。

    137万立方メートル ÷ 31万7975立方メートル = 4.3

つまりタンカーにALPS処理水を希釈せずに積み込み、太平洋のど真ん中の人が住んでいる島などがないあたりで、チョロチョロと排出しながら回ってくれば、事実上の無限希釈がたった4.3回の航海で終了する計算。のんびりやっても半年で完了するはず。沖合1kmで30年間の放出作業とは大違いである。

なぜそうしないのか?
ハイ、これが本日の肩すかしその2。
それは1975年に発効したロンドン条約で、水銀・カドミウム・放射性廃棄物などの有害廃棄物の海洋投棄が禁じられているから(/o\)

しかし「海洋投棄が禁じられている」なら、そもそも海への放出はできないのでは?と疑問が湧く。そのあたりについて東京電力の「処理水ポータルサイト」では次のように説明している。

   同条約では、適用対象を「投棄」に限定し、「投棄」を「海洋において
   廃棄物等を船舶等から故意に処分すること及び海洋において船舶等を故意に
   処分すること」と定義しています。

   これは、「陸上からの排出は禁止していない」と解され、福島第一原子力発電所を
   含む、国内外の原子力関連施設からの排水は、ロンドン条約違反にはあたりません。

後半の「陸上からの排出は禁止していないと解され」が、正当な解釈かどうかは知らない。また沖合1kmまで海底トンネルを掘ったものを「陸上からの排出」と見なされるのかも同様。でもまあ抜け道のない条約なんてないらしいから、条約違反にはならないのだろう。



ALPS処理水を100倍に薄めて、沖合1kmで30年間かけて放出すれば問題ないというのは、政府や東京電力が立てた目論見である。あの原発事故以降、その対策でいろいろな目論見が外れてきたのが心配。今回は上手くいくのを願いましょう。


おしまい

wassho at 21:45│Comments(0) ノンジャンル 

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