2023年08月30日
サンダルとスリッパのよもやま話
先日、無印良品の「ルームサンダル・鼻緒」という商品を買って
裸足だと足の脂でフローリングがベタつくときもあるが、
それを防げて、
かつ足の半分近くを覆うスリッパと違って暑くない
と紹介した。
たいへん重宝しているし、いい買い物をしたと思っているのだが、お店で見つけたときから頭の片隅で「?」となっていたのが「ルームサンダル」と付けられたネーミング。そして、そもそもサンダルとスリッパの違いって何だ?が今回のテーマ。
もっとも自然発生的にできたカテゴリーなので厳密な定義はないし、その定義も時代によって変わる。まあそれを承知で夏休みの自由研究的に調べてみた。ただし例によって興味の趣くままに脱線だらけなのでご了承をm(_ _)m
まずはサンダル。
ネットにはいろいろな情報が紹介されているものの、おそらく人類が最初に発明した履き物がサンダルなのだろう。その観点で考えると、サンダルの対義語になるのはスリッパではなく靴である。
靴を超簡潔に定義すると
「ある程度の固さを持った靴底」があり、
それに「足全体を覆うパーツ」を組み合わせた履き物
になる。対してサンダルは足全体を覆わず、紐やベルトなどで靴底が足から離れない工夫をした履き物。つまりシンプルな構造のサンダルから、より安定性や足の保護機能を求めて履き物は靴に進化していったと考えられる。
これは米国オレゴン州のフォートロック洞窟で発見された紀元前7000年頃のサンダル(紀元後の2023年を足すと約9000年前ね)。現在までに発見されたすべての履き物の中で、今のところ最も古いとされる。材質はセージブラシというヨモギの一種。画像はhttps://www.linkedin.com/pulse/oldest-pair-scandals-world-letha-oelzから引用。
こちらはスペインで発見された紀元前6000年〜5000年頃のサンダル。日本のワラジに近い作りに見える。世界各地の古代文明で同じようなものが作られたに違いない。
靴よりも構造がシンプルなサンダルが先に発明されたのは当然としても、「ある程度の固さを持った靴底」ではなく、いわば足を包む袋のような構造のものなら紀元前3500年頃のものがアルメニアで見つかっている。(靴底に「ある程度の固さを持つ」と説明していたのは、このタイプの履き物があったから。ネイティブ・インディアンが履いていたモカシンも似たような作り)
それで「ある程度の固さを持った靴底」を備えた「靴」が、いつ頃作られたのかについてははっきり分かっていないようだ。中世のヨーロッパでと解説しているものが多いけれど、中世といっても年代が広いから解説になっていない。参考までに西洋史では、一般的に西ローマ帝国滅亡(476年:日本は古墳時代)から東ローマ帝国滅亡(1453年:日本は戦国時代直前)まであたりが中世とされる。
ご存じのように日本では靴が生まれなかった。日常で履かれていたのは草履(ゾウリ)と下駄(ゲタ)。ゾウリがフォーマル、ゲタがカジュアルとの位置づけ。ゾウリをカジュアルにした雪駄(セッタ)という派生バージョンもある。
ゾウリもゲタも「足全体を覆わず、紐やベルトなどで靴底が足から離れない工夫をした履き物」との定義に照らせばサンダルの一種である。日本でそこから靴に発展しなかったのは、やはり室内で履き物を脱ぐ風習が大きかったと思われる。
そして長距離移動や激しい動きをするときに履かれていたのが草鞋(ワラジ)。いわば江戸時代まで日本で最もヘビーデューティーな履き物がこのワラジ。
それにしてもこんな質素な、9000年前や8000年前のものとして発掘されたサンダルとあまり変わらないものが、つい150年ほど前まで使われていたのが、不思議であり正直ちょっと情けない気持ちでもある(^^ゞ 激しい動きとは戦(いくさ)も含まれる。こんなものを履いて刀で斬り合い槍で突き合っていたなんて想像するのも難しい。日本人はあまり履き物に関心を持たなかった民族なのかな?
ちなみにワラジは耐久性も低く、長距離を歩けば1日持つか持たないかのレベル。江戸時代に流行ったお伊勢参りは江戸からだと往復30日の徒歩旅行。40足のワラジを履きつぶしたとして、ワラジは蕎麦一杯程度の値段だったとされるので500円とすれば、500円 × 40足 = 2万円だからけっこうな出費。
またワラジを見ると鼻緒の付け根が先端にあるものが多い。だから上の写真のように足の指がはみ出る。歩きにくいし指を怪我しそうに思えるが、何か理由があるのだろうか。
話はそれるけれど忍者はマキビシを撒いて逃げたとされる。それもワラジを履いた相手だったから効果があったと推測できる。なおマキビシと聞くと鉄製をイメージするものの、漢字で書くと撒菱であり、菱という植物の実が固くて尖っていたのでそれを利用したらしい。
ところで、
中世ヨーロッパで作られ始めた「ある程度の固さを持った靴底」「足全体を覆うパーツ」を組み合わせた靴とは革靴である。革を何枚も貼り合わせて固さと柔軟性を備えた靴底が作れるのを発見したのだろう(ゴムが利用されるのは19世紀になってから)。先ほど日本でゾウリやゲタなどのサンダルから靴に発展しなかったのは、室内で履き物を脱ぐ風習があるからと書いた。実はそれ以外に日本では革製品が発達しなかったからと以前から思っていた。
革製品が発達しなかったのは、仏教の影響で四つ足の動物を食べなかったからで、つまり革となる皮の供給がなかったから。しかし問題はゾウリのカジュアルバージョンであるセッタ。名前くらいしか知らなかったのだが、調べてみるとセッタとは
竹の編み物でできたゾウリの靴底に
革を張り防水性を高めた
ものとある。雪の日にゾウリを履いていると底から雪がしみてくる、ゲタだとゲタの歯と歯の間に雪がくっついて歩きにくいから考案されたといわれ、一説には千利休の発明ともされる。
この革とは牛革である。江戸時代になってからセッタは大流行したらしいが、どこから入手したのだろうか。もちろん農耕や運搬用に牛は古くから使われてきたものの、庶民のセッタ需要をまかなえるほど革があったかは疑問。ネットで調べてもそんなニッチな情報は見つけられないからナゾ。またセッタの靴底に革を張ったのなら、なぜそこから発展して丈夫な革の靴底、そして革靴に至らなかったのか〜いつまでも原始時代のようなワラジを使い続けたのかも大いにナゾ。
もっとも何でもネットですぐに答えが見つかっちゃつまらないがーーー
話をサンダルとスリッパに戻すと、
足全体を覆うパーツがあるものが靴、
紐やベルトで足を部分的に固定するのがサンダル
である。
それでスリッパはこのような形。
足の前部が広く覆われているから「部分的に固定している」と見なすのは少し強引かも知れない。しかしポイントを「足全体を覆っている」かどうかだと考えれば、スリッパはサンダルの一種になる。集合記号で表現すればサンダル ⊃ スリッパ。
ただしこのスリッパ、調べると意外にビックリすることが多い。
ーーー続く
裸足だと足の脂でフローリングがベタつくときもあるが、
それを防げて、
かつ足の半分近くを覆うスリッパと違って暑くない
と紹介した。
たいへん重宝しているし、いい買い物をしたと思っているのだが、お店で見つけたときから頭の片隅で「?」となっていたのが「ルームサンダル」と付けられたネーミング。そして、そもそもサンダルとスリッパの違いって何だ?が今回のテーマ。
もっとも自然発生的にできたカテゴリーなので厳密な定義はないし、その定義も時代によって変わる。まあそれを承知で夏休みの自由研究的に調べてみた。ただし例によって興味の趣くままに脱線だらけなのでご了承をm(_ _)m
まずはサンダル。
ネットにはいろいろな情報が紹介されているものの、おそらく人類が最初に発明した履き物がサンダルなのだろう。その観点で考えると、サンダルの対義語になるのはスリッパではなく靴である。
靴を超簡潔に定義すると
「ある程度の固さを持った靴底」があり、
それに「足全体を覆うパーツ」を組み合わせた履き物
になる。対してサンダルは足全体を覆わず、紐やベルトなどで靴底が足から離れない工夫をした履き物。つまりシンプルな構造のサンダルから、より安定性や足の保護機能を求めて履き物は靴に進化していったと考えられる。
これは米国オレゴン州のフォートロック洞窟で発見された紀元前7000年頃のサンダル(紀元後の2023年を足すと約9000年前ね)。現在までに発見されたすべての履き物の中で、今のところ最も古いとされる。材質はセージブラシというヨモギの一種。画像はhttps://www.linkedin.com/pulse/oldest-pair-scandals-world-letha-oelzから引用。
こちらはスペインで発見された紀元前6000年〜5000年頃のサンダル。日本のワラジに近い作りに見える。世界各地の古代文明で同じようなものが作られたに違いない。
靴よりも構造がシンプルなサンダルが先に発明されたのは当然としても、「ある程度の固さを持った靴底」ではなく、いわば足を包む袋のような構造のものなら紀元前3500年頃のものがアルメニアで見つかっている。(靴底に「ある程度の固さを持つ」と説明していたのは、このタイプの履き物があったから。ネイティブ・インディアンが履いていたモカシンも似たような作り)
それで「ある程度の固さを持った靴底」を備えた「靴」が、いつ頃作られたのかについてははっきり分かっていないようだ。中世のヨーロッパでと解説しているものが多いけれど、中世といっても年代が広いから解説になっていない。参考までに西洋史では、一般的に西ローマ帝国滅亡(476年:日本は古墳時代)から東ローマ帝国滅亡(1453年:日本は戦国時代直前)まであたりが中世とされる。
ご存じのように日本では靴が生まれなかった。日常で履かれていたのは草履(ゾウリ)と下駄(ゲタ)。ゾウリがフォーマル、ゲタがカジュアルとの位置づけ。ゾウリをカジュアルにした雪駄(セッタ)という派生バージョンもある。
ゾウリもゲタも「足全体を覆わず、紐やベルトなどで靴底が足から離れない工夫をした履き物」との定義に照らせばサンダルの一種である。日本でそこから靴に発展しなかったのは、やはり室内で履き物を脱ぐ風習が大きかったと思われる。
そして長距離移動や激しい動きをするときに履かれていたのが草鞋(ワラジ)。いわば江戸時代まで日本で最もヘビーデューティーな履き物がこのワラジ。
それにしてもこんな質素な、9000年前や8000年前のものとして発掘されたサンダルとあまり変わらないものが、つい150年ほど前まで使われていたのが、不思議であり正直ちょっと情けない気持ちでもある(^^ゞ 激しい動きとは戦(いくさ)も含まれる。こんなものを履いて刀で斬り合い槍で突き合っていたなんて想像するのも難しい。日本人はあまり履き物に関心を持たなかった民族なのかな?
ちなみにワラジは耐久性も低く、長距離を歩けば1日持つか持たないかのレベル。江戸時代に流行ったお伊勢参りは江戸からだと往復30日の徒歩旅行。40足のワラジを履きつぶしたとして、ワラジは蕎麦一杯程度の値段だったとされるので500円とすれば、500円 × 40足 = 2万円だからけっこうな出費。
またワラジを見ると鼻緒の付け根が先端にあるものが多い。だから上の写真のように足の指がはみ出る。歩きにくいし指を怪我しそうに思えるが、何か理由があるのだろうか。
話はそれるけれど忍者はマキビシを撒いて逃げたとされる。それもワラジを履いた相手だったから効果があったと推測できる。なおマキビシと聞くと鉄製をイメージするものの、漢字で書くと撒菱であり、菱という植物の実が固くて尖っていたのでそれを利用したらしい。
ところで、
中世ヨーロッパで作られ始めた「ある程度の固さを持った靴底」「足全体を覆うパーツ」を組み合わせた靴とは革靴である。革を何枚も貼り合わせて固さと柔軟性を備えた靴底が作れるのを発見したのだろう(ゴムが利用されるのは19世紀になってから)。先ほど日本でゾウリやゲタなどのサンダルから靴に発展しなかったのは、室内で履き物を脱ぐ風習があるからと書いた。実はそれ以外に日本では革製品が発達しなかったからと以前から思っていた。
革製品が発達しなかったのは、仏教の影響で四つ足の動物を食べなかったからで、つまり革となる皮の供給がなかったから。しかし問題はゾウリのカジュアルバージョンであるセッタ。名前くらいしか知らなかったのだが、調べてみるとセッタとは
竹の編み物でできたゾウリの靴底に
革を張り防水性を高めた
ものとある。雪の日にゾウリを履いていると底から雪がしみてくる、ゲタだとゲタの歯と歯の間に雪がくっついて歩きにくいから考案されたといわれ、一説には千利休の発明ともされる。
この革とは牛革である。江戸時代になってからセッタは大流行したらしいが、どこから入手したのだろうか。もちろん農耕や運搬用に牛は古くから使われてきたものの、庶民のセッタ需要をまかなえるほど革があったかは疑問。ネットで調べてもそんなニッチな情報は見つけられないからナゾ。またセッタの靴底に革を張ったのなら、なぜそこから発展して丈夫な革の靴底、そして革靴に至らなかったのか〜いつまでも原始時代のようなワラジを使い続けたのかも大いにナゾ。
もっとも何でもネットですぐに答えが見つかっちゃつまらないがーーー
話をサンダルとスリッパに戻すと、
足全体を覆うパーツがあるものが靴、
紐やベルトで足を部分的に固定するのがサンダル
である。
それでスリッパはこのような形。
足の前部が広く覆われているから「部分的に固定している」と見なすのは少し強引かも知れない。しかしポイントを「足全体を覆っている」かどうかだと考えれば、スリッパはサンダルの一種になる。集合記号で表現すればサンダル ⊃ スリッパ。
ただしこのスリッパ、調べると意外にビックリすることが多い。
ーーー続く
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