2023年09月03日
サンダルとスリッパのよもやま話 その2
前回のポイントをまとめると、まず履き物は3つのタイプに分かれる。
「ある程度の固さを持った靴底」があり、それに「足全体を覆うパーツ」を
組み合わせた靴。
足全体を覆わず、紐やベルトなどで靴底が足から離れない工夫をしたサンダル。
足全体を覆うパーツはあるが「ある程度の固さを持った靴底」はなく
足を包む袋のようなもの。
だから草履(ぞうり)や雪駄(せった)や草鞋(ワラジ)といった伝統的な履き物のも、女性が履く踵の高いミュールもサンダル。そしてスリッパも足全体を覆うパーツはないのでサンダルの一種である。
<その1>
それでサンダルとスリッパの違いは
サンダル:外履き
スリッパ:室内履き
と解説しているものが多い。
それを読んで「そうだよね」と「そうだった?」との気持ちが正直なところ半分半分である。不思議なものでサンダルとスリッパの違いというテーマを意識してしまった後では、今までどう区別して暮らしてきたか自分でも分からなくなってしまっている(^^ゞ
もちろん部屋で履くこういうのはスリッパである。
しかし外で履くこのタイプをサンダルではなく、
スリッパとも呼んでいた、あるいは認識していたような気もする。
そういえば「つっかけ」なんて呼び方もあった。
もう死語かな?
まあでもサンダル=外履き/スリッパ=室内履きの区別は正しいと思われる。そして前回に記したようにこのテーマでブログを書いたのは、無印良品の「ルームサンダル・鼻緒」という商品名にどこか違和感を覚えたのがきっかけ。それは外履きであるサンダルに「ルーム」と名を付けて室内履きにしてあったからと頭の整理がついた。まずは一件落着。
<その2>
今までに書いてきたスリッパがサンダルの一種とするのは、現代の日本に当てはめる限りは正しい。でももうちょっと事情は複雑。また「ネットに書かれているものはコピペ、コピペを重ねたものが多く、その大元が間違っている場合もある」=ネット情報を鵜呑みにしてはいけないと常々書いているが、今回もそれに関連するお話。
ウィキペディアによると
スリッパ (英: slipper)は、履物の種類で、「スリップ」の名のとおり、
足をするりと滑らすように入れて履ける履物である。
と書かれている。またネットでスリッパの意味を調べると、ほとんどのサイトでこれと同じ説明がなされている。
スリッパはもうすっかり日本語になっているから、その語源が Slip(滑る)に由来すると認識している人はほとんどいないんじゃないかな。私も最初は「そうだったんだあ」と思い、靴ひもで結ばないスリッポン(英語で書くと Slip-on)と似ているななどと考えていた。
ところでなぜスリッポンは Slip-ON なのだろう。足を滑らせて靴に入れるなら Slip-IN なのに。でも靴を履くは wear または put on なので、そこからの ON なのかも知れない。話はそれるが日本語だと服は「着る」で靴は「履く」である。しかし英語では服も靴も wear や put on で区別がない。そのあたり服飾文化の違いが言葉にも表れているのかと思ったり。
さてスリッポンのことを思い浮かべていたとき、前述した「スリッパ (英: slipper)は足をするりと滑らすように入れて履ける」との説明がおかしいと気がついた。
slipper は slip という動詞に er を付けて名詞化したもの。その場合は「滑る人、あるいは滑るもの」との意味になる。drive(運転する)に er を付けてドライバー、 cut(切る)に er を付ければカッターとなるのと同じ文法の理屈。だから slipper は「足を滑らせて履く」意味ではないはず。それにどんな靴だって足を滑らせながら履くじゃないか。(なお私の英語力はたいしたレベルじゃないので、そのつもりで読んでね)
それでいろいろと調べてみると slipper とは滑る靴を意味する室内履きだと分かった。靴が滑ったら危ないじゃないかと思われるだろうが、まあ続きを読んで。
さて次の英文はご存じ?
the little glass slipper
直訳すれば小さなガラスのスリッパ
じつはこれ童話シンデレラの副題。日本では「シンデレラ」だけがタイトルだが、欧米ではこの副題も付けるのがスタンダード。
シンデレラがお城でなくしたのは「ガラスの靴」なのに、それがどうしてスリッパ? それにシンデレラはお城に舞踏会に行ったのにスリッパじゃ踊れないでしょと思われるだろうが、まあ続きを読んで(2回目)。
シンデレラが書かれたのは17世紀後半のルイ14世の頃のフランス。どうやらこの頃の舞踏会は専用の室内履きに履き替えて踊っていたようだ。その理由は
外で履いていた靴では靴底に砂利などがついているかも知れず、
磨き上げられたダンスフロアを傷つける可能性があるから
だそうで、また滑るように踊るあるいは足を滑らせて踊るので、その舞踏会靴をスリッパーと呼んだ。英語辞書で slipper を引くと「室内[舞踏]用の靴」と書かれているものもある。そこから室内履き全般ををスリッパー(日本語ならスリッパ)と呼ぶように転じたとされる。
もちろんこれだってネットで調べた情報ではあるが(^^ゞ スリッパの語源が「足をするりと滑らすように入れて履ける」より「滑るように踊る」のほうが信憑性はあると思われる。
ところで前回は
足全体を覆う構造(靴)
足全体を覆わず紐やベルトなどで固定する(サンダル)
との定義で靴とサンダルは対義語と書いた。しかし靴(シューズ)は外履き、スリッパは室内履きとの観点では靴とスリッパも対義語である。言語空間が入り組んでなかなか奥が深いね。
またウィキペディアにはスリッパの一例として次のような写真も載っている。日本人の目にはとてもスリッパには思えないものの、スリッパの定義が構造ではなく室内履きとの用途区分なら納得がいく。
日本だとさしずめルームシューズとでも呼びそうだが、おそらくそれは和製英語。
ーーー続く
「ある程度の固さを持った靴底」があり、それに「足全体を覆うパーツ」を
組み合わせた靴。
足全体を覆わず、紐やベルトなどで靴底が足から離れない工夫をしたサンダル。
足全体を覆うパーツはあるが「ある程度の固さを持った靴底」はなく
足を包む袋のようなもの。
だから草履(ぞうり)や雪駄(せった)や草鞋(ワラジ)といった伝統的な履き物のも、女性が履く踵の高いミュールもサンダル。そしてスリッパも足全体を覆うパーツはないのでサンダルの一種である。
<その1>
それでサンダルとスリッパの違いは
サンダル:外履き
スリッパ:室内履き
と解説しているものが多い。
それを読んで「そうだよね」と「そうだった?」との気持ちが正直なところ半分半分である。不思議なものでサンダルとスリッパの違いというテーマを意識してしまった後では、今までどう区別して暮らしてきたか自分でも分からなくなってしまっている(^^ゞ
もちろん部屋で履くこういうのはスリッパである。
しかし外で履くこのタイプをサンダルではなく、
スリッパとも呼んでいた、あるいは認識していたような気もする。
そういえば「つっかけ」なんて呼び方もあった。
もう死語かな?
まあでもサンダル=外履き/スリッパ=室内履きの区別は正しいと思われる。そして前回に記したようにこのテーマでブログを書いたのは、無印良品の「ルームサンダル・鼻緒」という商品名にどこか違和感を覚えたのがきっかけ。それは外履きであるサンダルに「ルーム」と名を付けて室内履きにしてあったからと頭の整理がついた。まずは一件落着。
<その2>
今までに書いてきたスリッパがサンダルの一種とするのは、現代の日本に当てはめる限りは正しい。でももうちょっと事情は複雑。また「ネットに書かれているものはコピペ、コピペを重ねたものが多く、その大元が間違っている場合もある」=ネット情報を鵜呑みにしてはいけないと常々書いているが、今回もそれに関連するお話。
ウィキペディアによると
スリッパ (英: slipper)は、履物の種類で、「スリップ」の名のとおり、
足をするりと滑らすように入れて履ける履物である。
と書かれている。またネットでスリッパの意味を調べると、ほとんどのサイトでこれと同じ説明がなされている。
スリッパはもうすっかり日本語になっているから、その語源が Slip(滑る)に由来すると認識している人はほとんどいないんじゃないかな。私も最初は「そうだったんだあ」と思い、靴ひもで結ばないスリッポン(英語で書くと Slip-on)と似ているななどと考えていた。
ところでなぜスリッポンは Slip-ON なのだろう。足を滑らせて靴に入れるなら Slip-IN なのに。でも靴を履くは wear または put on なので、そこからの ON なのかも知れない。話はそれるが日本語だと服は「着る」で靴は「履く」である。しかし英語では服も靴も wear や put on で区別がない。そのあたり服飾文化の違いが言葉にも表れているのかと思ったり。
さてスリッポンのことを思い浮かべていたとき、前述した「スリッパ (英: slipper)は足をするりと滑らすように入れて履ける」との説明がおかしいと気がついた。
slipper は slip という動詞に er を付けて名詞化したもの。その場合は「滑る人、あるいは滑るもの」との意味になる。drive(運転する)に er を付けてドライバー、 cut(切る)に er を付ければカッターとなるのと同じ文法の理屈。だから slipper は「足を滑らせて履く」意味ではないはず。それにどんな靴だって足を滑らせながら履くじゃないか。(なお私の英語力はたいしたレベルじゃないので、そのつもりで読んでね)
それでいろいろと調べてみると slipper とは滑る靴を意味する室内履きだと分かった。靴が滑ったら危ないじゃないかと思われるだろうが、まあ続きを読んで。
さて次の英文はご存じ?
the little glass slipper
直訳すれば小さなガラスのスリッパ
じつはこれ童話シンデレラの副題。日本では「シンデレラ」だけがタイトルだが、欧米ではこの副題も付けるのがスタンダード。
シンデレラがお城でなくしたのは「ガラスの靴」なのに、それがどうしてスリッパ? それにシンデレラはお城に舞踏会に行ったのにスリッパじゃ踊れないでしょと思われるだろうが、まあ続きを読んで(2回目)。
シンデレラが書かれたのは17世紀後半のルイ14世の頃のフランス。どうやらこの頃の舞踏会は専用の室内履きに履き替えて踊っていたようだ。その理由は
外で履いていた靴では靴底に砂利などがついているかも知れず、
磨き上げられたダンスフロアを傷つける可能性があるから
だそうで、また滑るように踊るあるいは足を滑らせて踊るので、その舞踏会靴をスリッパーと呼んだ。英語辞書で slipper を引くと「室内[舞踏]用の靴」と書かれているものもある。そこから室内履き全般ををスリッパー(日本語ならスリッパ)と呼ぶように転じたとされる。
もちろんこれだってネットで調べた情報ではあるが(^^ゞ スリッパの語源が「足をするりと滑らすように入れて履ける」より「滑るように踊る」のほうが信憑性はあると思われる。
ところで前回は
足全体を覆う構造(靴)
足全体を覆わず紐やベルトなどで固定する(サンダル)
との定義で靴とサンダルは対義語と書いた。しかし靴(シューズ)は外履き、スリッパは室内履きとの観点では靴とスリッパも対義語である。言語空間が入り組んでなかなか奥が深いね。
またウィキペディアにはスリッパの一例として次のような写真も載っている。日本人の目にはとてもスリッパには思えないものの、スリッパの定義が構造ではなく室内履きとの用途区分なら納得がいく。
日本だとさしずめルームシューズとでも呼びそうだが、おそらくそれは和製英語。
ーーー続く
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