2023年09月05日

サンダルとスリッパのよもやま話 その3

最初に書いたように興味の趣くままに脱線だらけな内容が続くm(_ _)m


スリッパについて調べると写真のように最も慣れ親しんでいる形のスリッパは、日本人が発明したと書いてあるものを多く見かける。

10スリッパ

それらによると

   幕末になって西洋人が多く日本にやってくるようになる。
   彼らには入浴や就寝以外で靴を脱ぐ習慣はない。
   それで何かとトラブルが起きる。

   そこで江戸・八重洲の仕立て職人である徳野利三郎なる人物が、
   1868年(明治元年)に靴を履いたまま使うオーバーシューズとして、
   現在のスリッパとほぼ同じ形のものを考案。

   やがて日本の家屋が徐々に和洋折衷スタイルになるにつれて、彼が考案した
   形のスリッパが室内履きとして日本人にも広まり、第2次世界大戦後には
   当たり前のものとして普及した。

ーーーそして、それが外国でも知られて使われるようになったと。中には1970年代に日本航空がファーストクラスの客にスリッパを提供したのが、そのきっかけと書いてあるものもある。


確たる歴史的文献を見たわけではないものの、徳野利三郎がオーバーシューズとしてのスリッパを考案し、やがて日本人がそれを室内履きとして使い始めたのは確かなんだろうと思う。しかし、それが世界各地に広まったというのはちょっと疑問。

まず、あのような形は「簡単に履ける・脱げる履き物の構造」として誰でも思いつく。徳野利三郎の独創的デザインだったとは考えづらい。たとえば最初の投稿で紹介した人類最古の履き物とされる紀元前7000年頃のサンダルだって、カカトのストラップを除けばスリッパにそっくりである。画像はhttps://www.linkedin.com/pulse/oldest-pair-scandals-world-letha-oelzから引用。
2最古のサンダル1-1

2最古のサンダル1-2


またモロッコにはパブーシュと呼ばれる伝統的な履き物がある。これはカカトを踏みつけて履く前提で折り畳んである珍しい作り。そしてこれもスリッパそのもの。パブーシュがいつ頃から存在するのかは分からなかったが、民族衣装だから相当に古いはず。また17世紀のフランスではこれが流行ったらしいから、少なくとも徳野利三郎デザインよりはるか昔から西洋では知られていたことになる。
15パブーシュ


極めつけは “slipper history” で英文ページを検索して、スリッパが日本発祥と解説しているものはまったくなかった事実。もちろん何百ページと調べたわけではないが、少なくとも国際的にメジャーな説でないのは確か。


ネットに書かれているものはコピペ、コピペを重ねたものがほとんどである。誰かがスリッパは日本発祥と書いて、それを読んだ誰かが「この話はウケる」とコピペし、また誰かがと次々にコピペされて広まっていったのだろう。別にフェイクニュースを広めようとの悪意は感じられない。裏を取っていないのは慎重さに欠けるとはいえ、すべてのことにそれを求めるのは無理というもの。

それでも、あるいはだからこそネット情報を鵜呑みにしてはいけないとよく分かる事例と言える。スリッパが日本発祥なんて日本人としては自尊心がくすぐられる耳触りのいい話。だからつい信じてしまう。脳は気持ちよくなる選択を優先しがち。このレベルなら実害はほとんどないとしても、デマやフェイクはシリアスな内容とは限らないのだ。


このネット情報過多時代、すべてを信じてはいけないし、かといってすべてを疑ってもいられないから困るしメンドクサイし疲れるとーーースリッパの話がまさかこんなオチになるとは思ってもみなかった(^^ゞ



ーーー続く

wassho at 22:08│Comments(0) ノンジャンル 

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