2023年09月26日

トレッドストーンとサンクコスト その2

アメリカのドラマだし、また興業収入約1800億円と大ヒットした映画ボーンシリーズを下敷きにして強気だったのか、トレッドストーンは相当に大規模な制作である。

舞台設定だけを見ても

   アメリカ(アラスカ、ケンタッキー、バージニア)、ロンドン、パリ
   冷戦下の東ドイツ、ロシア、ハンガリー、ルーマニア
   インド、ギリシア、ガーナ、北朝鮮、韓国、中国

と多岐にわたる。もちろん実際のロケ地はそれぞれの国ではなく似たような雰囲気の場所も選ばれているだろうが、それでも世界各地で撮影されたはず。また4つのストーリーが同時進行するから登場する俳優の人数も多い。

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それだけの制作費を掛けても元が取れて利益が出ると判断したから、このドラマは制作された。また前回でも書いたように最低でも3シーズンは続ける予定だったはず。シーズン1はエピローグ編みたいなもので、提示した謎は一切解けないまま終わったのだから。

でも結果はシーズン1であえなく打ち切り(/o\) テレビの視聴率、ストリーミングサービス配信数やDVDの販売が予想より低かったのだろう。できれば予想と実際の差を知りたいところだが、このドライな判断にはある意味で感銘を受けた。もっとも超大物俳優は出演していないから決断できた可能性はある。もちろんジャニタレは出演していないから事務所にソンタクする必要もなし(^^ゞ



そして頭に浮かんだのがサンクコストという言葉。元は行動経済学の用語で、10年ほど前からビジネスやマーケティングの分野でもチラホラ使われるようになった。ごく簡単に説明すると、

 狭義のサンクコストとは、
   事業に投下したが回収できないコストを意味する。
   このコストには資金はもちろん労力や時間なども含まれる。
   事業ではない様々な場面に当てはめられる場合もある。

 広義のサンクコストとは、
  「今は赤字だがやがて状況が好転する(根拠なき願望)」「やめてしまえば
   今までの苦労が水の泡になる」「少しでも取り返さなければ」「中止すれば
   損失が確定してしまう」ーーー

   などの心理が働いて、ズルズルとその事業を継続し損失が拡大すること。
   これをサンクコスト効果と呼び、逆にいえばそれを引き起こすのが
   サンクコスト。赤字がすべてサンクコストではない(ただしこれは私の解釈)。

ちなみにサンクコストのサンクとはサンキューのThankではなくて、沈むを意味する動詞Sinkの過去分詞であるSunk。名詞としてのSinkはキッチンのシンクね。日本語では埋没費用と訳される。でもドブに捨てた金と表現したほうがイメージが湧くかも。


サンクコストでよく引き合いに出されるのがコンコルドの事例。これだけ特別扱いでコンコルド効果やコンコルドの誤謬と呼ばれたりもする。もう20年前に運行中止されたから知らない人もいるだろうが、コンコルドとは1970年代にイギリスとフランスで開発された超音速旅客機。マッハ2.2の速度が出せて、普通の旅客機では7時間かかるロンドン〜ニューヨーク間を3時間半で結んだ。

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1960年代から開発が始められて、その段階での仮受注は100機ほど(開発段階から受注を取り始めるのが航空業界の商習慣)。1969年に試作機完成。1970年代に入って世界各国の主要空港でお披露目飛行をしてさらなる売り込みを図ったものの、逆に

 オイルショックによる燃料費高騰:超音速で飛ぶので燃費は普通の旅客機の3.5倍
 超音速で飛ぶと衝撃波が発生するので飛行ルートが海上のみと規制された
 騒音問題:離着陸時の騒音は落雷レベルといわれた
 航続距離が短く太平洋を横断できない
 機体が狭く100人しか乗れない
 また座席はエコノミークラス並み、でも運賃はファーストクラスの2割増しになる

ーーーその他諸々あって、ほとんどの航空会社が続々と発注をキャンセル(/o\) 採算ラインに乗るのが250機とされてていたのに、確定受注は開発国の航空会社であるブリティッシュ・エアウェイズとエールフランスで7機ずつ合計14機のみ。それでも4000億円を投じた開発費がサンクコストとなってプロジェクトは継続され、そして1976年に商業運行が始まったその年に製造中止と決まる。つまり何が何でも完成させて飛ばしたかったということ。そして2003年に運行を終えるまでに数兆円の赤字を垂れ流したとされる。

その赤字が製造メーカーの損失なのか、運行で航空会社も赤字を出したのかの内訳は分からなかった。コンコルドは英仏の国策事業みたいなものだから、税金で穴埋めされたのかも知れない。

コンコルドが売れなかった理由を客観的に眺めれば「誰か止めるヤツいなかったのか!」である。しかしそれがサンクコストの恐ろしいところ。この時は「国家の威信」なんて厄介なものも絡んでいた。あっ、再来年に大阪で万博をやるらしいね。建設費は当初予算の1250億円から2300億円の大幅アップだって?(^^ゞ



ーーー続く

wassho at 22:01│Comments(0) 映画、ドラマ、文学 | マーケティング、ビジネス

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