2024年02月10日
デイヴィッド・ホックニーとキュビスム その2
続いて風景のジョイナーフォト。前回に紹介した室内写真と比べて視点の移動は控えめながら、キュビスム展でも感じた万華鏡らしさは伝わってくる。
Pearblossom Hwy 1986年
Place Furstenburg, Paris, August 7, 8, 9, 1985
The Brooklyn Bridge Nov 28th 1982
Merced River, Yosemite Valley 1982年
35年ほど前にメトロポリタン美術館で見た作品がどんなのだったかはもう記憶にないものの、こんな手法を考えるホックニーは天才だと思ったのはよく覚えている。またその頃は部屋にポスターを飾るなどホックニーのファンだったので、そんなホックニーを好きなった私の目は確かだと都合のいい解釈で喜んでもいた。
彼のジョイナーフォトに魅せられたのは別の理由もあった。当時は仕事のプレゼンテーションでビジュアルボードを作る機会が多かった。例えばマーケティングのターゲットとなる人物・生活像を、雑誌の切り抜きなどを組み合わせてイメージしやすくクライアントに提示するのである。だからホックニーとは目的も手法もまったく違うとはいえ、コラージュの制作には馴染みがあり、コラージュそのものに関心が高かったのかも知れない。
それはさておきメトロポリタン美術館でホックニーのジョイナーフォトに感激した私は、帰国後にそれを真似してみようと思い立つ。絵は描けなくても写真の切り貼りくらいはできるだろうとの魂胆。
勤務していたコンサルティング会社は青山通りにあった。バイトに来ていた女子大生にモデル役を頼み込み、青山通りに面したスパイラルホールの前と、そこから路地に入ったちょっとアンティーク感のある喫茶店の前で撮影した。関係ないけれど、その喫茶店でお茶しているとモデルの山口小夜子をよく見かけたのは懐かしい思い出。
撮影は思ったより手間が掛かった。
まず当時のコンパクトカメラはズームレンズがなく広角の固定焦点。そこで会社の一眼レフ&ズームレンズを借りてきた。ただしピント合わせはマニュアル。(世界初のオートフォーカス一眼レフであるミノルタα7000は既に発売されていたが会社にはなかった)
撮影はモデルに対して正面、右寄り、左寄りの3方向から。それぞれに腰の高さ、目の高さ、脚立に乗ってと3つの高さで。その9カ所からカメラのアングルを左右や上下に振って、またズームの倍率を変えながら撮る。その都度ピントも合わせなければならないし、フィルムの交換も面倒だった。
たぶん200枚くらい撮った。
フィルム代、現像代、プリント代ーーーけっこうな出費(/o\)
それよりも何よりも、
できあがってきた写真を、どう組み合わせてもサマにならなかったのがショック。200枚といっても4地点分だったと思うので1地点あたりだと50枚。イメージしていた広がりや動きを感じる雰囲気をだすのには、それじゃ全然足りなかったように記憶している。それと当然ながら「紙の写真」だから一度カットしてしまうとやり直しがきかない(再度プリントする手はあるが)。
そんなこんなで日本のホックニーになる目論見はあえなく挫折(>_<)
それも楽しい経験のひとつではある。
これはホックニーのジョイナーフォト制作風景。
私も自宅で写真を広げて、まったく同じポーズで悩んでいた。
画像はhttps://www.rollingstone.com/culture/culture-features/the-rolling-stone-interview-david-hockney-modern-art-master-204057/から引用
国立西洋美術館でキュビスム展を見るまで、35年ほど前にホックニー「ごっこ」をしたことすら忘れていたが、考えてみれば今はデジカメの時代。とりあえず撮影枚数を気にする必要はなく、またピントもオートフォーカス。液晶モニターがチルトするから低い位置や高い位置から撮るのも楽。そして何より写真を画像ソフト上で配置できる。形や大きさも自由自在で何度でもやり直し可能。色を変えたり様々なエフェクトも掛けられる。
またやってみるかと密かに企んでいるのは、
まだ誰にも打ち明けていないから内緒にね(^^ゞ
そんな思い出話、
(/_')/ソレハコッチニオイトイテ
ホックニーは日本の風景もジョイナーフォトにしている。制作はすべて1983年なので同じ時期の来日だろう。最初の3枚は京都の旅館。
Gregory Watching The Snow Fall, Kyoto, Feb 21st 1983
Gregory Reading In Kyoto 1983年
Shoes, Kyoto 1983年
これは木屋町通りだと思う。
Canal And Road, Kyoto 1983年
東京での1枚。
The Ashtray, Sunday Morning, Tokyo 1983年
Ashtrayは灰皿。画面中央に今では見なくなった公衆灰皿?がある。たぶんそれが珍しかったのでは。場所はおそらく新橋あたり。
そしてこれは石庭で知られる京都の龍安寺(りょうあんじ)。
Siting in the Zen Garden at the Ryoanji Temple Kyoto Feb. 19 1983年
画面右下にフィルムケースが散乱している。
ほら、ジョイナーフォトでコラージュするにはフィルムがたくさん必要なのよ。
これをジョイナーフォトにする意味があったかどうかは疑問だが。
Walking in the Zen Garden at the Ryoanji Temple Kyoto Feb 21st 1983年
タイトルが Walking で足元の連続写真が組み合わされているものの、庭を眺める視点は動いていない。なお日付を見ると彼は少なくとも龍安寺を2回訪れており、どうやらここを気に入ったみたい。
ピカソやジョルジュ・ブラックがキュビスムを始めたのは、写真が普及し始めて従来の「見たとおりに記録する」で絵画は写真に敵わないのも一因とされる。つまり写真にできない表現を見つけようと。
いわばそのアンチ写真のキュビスムを、写真を使って再現して、また多角度の視点だけではなく、時間の経過も統合したものに発展させたのがホックニーの面白いところ。ところでフランティシェク・クプカのように連続写真に影響を受けたキュビスム絵画はあっても、ピカソたちはどうして時間の経過を表現しなかったのだろう。ひょっとしたらそれはコロンブスの卵のようにいわれれば当たり前でも、そうでなければなかなか気付かないものだったのかも知れない。
さてホックニーといえばプールで、
そのジョイナーフォトもある。
プールは見下ろしており上段の椅子やパラソルは真横からで、これはまさにキュビスム的。
Sun on the Pool 1982年
これはグレゴリーが泳いでる写真をつなぎ合わせた時間的キュビスム。
Gregory Swimming Los Angeles March 31st 1982
京都の写真にも出てくるグレゴリーは、モデルからマネージャーそして恋人となったグレゴリー・エバンス。ホックニーは1960年代からゲイを公表していた。
ちょっとエロいのもいっときましょう(^^ゞ
Theresa Russell Nude for XVI RIP ARLES 1985年
Theresa Russellとは若い頃はマリリン・モンローの役も演じたハリウッド女優のテレサ・ラッセルのようだけれど、この写真じゃわからないなあ。
またタイトルにある XVI RIP ARLES とは、まずXVIはローマ数字で16。RIPはフランス語で Rencontres Internationales de la Photographie の略。直訳では国際写真展。ARLES は南フランスのアルル。まとめると日本ではアルル国際写真フェスティバルと呼ばれる、カンヌ映画祭の写真版とも呼ばれる大規模写真イベント。一般的な表記は Les Rencontres d'Arles。初開催は1970年で、その16回目=1985年にこの作品を出展したと示している。
最後にホックニーのポートレイト。
これはタイトルや制作年が不明。
ただしジョイナーフォトを制作していたのは1980年代に限られるので、その頃の写真のはず。彼は1937年生まれで、仮に1985年撮影だとすると48歳。
1966年、29歳か28歳。
何となく若い頃のアンディ・ウォーホルに似た雰囲気。
アンディ・ウォーホルは1928年生まれで9歳年上。二人に親交はあったが「お付き合い」してたかどうかは知らない。写真は1980年に撮られた英米ポップアートの巨匠。ホックニー43歳、ウォーホル52歳頃。
ところでホックニーの絵はカリフォルニアっぽいので、彼をアメリカ人だと思っている人が多いがブラッドフォード生まれのイギリス人である。ただし1964年にロサンゼルスに移住している。その後ニューヨーク近郊、ロンドンやパリに住んでいた時期もあり、現在はフランスのノルマンディーが拠点らしい。
これは2021年の撮影。
今年で御年87歳! 画像はhttps://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/hockney/index.htmlから引用
キュビスム展に行くまでホックニーのことはほとんど忘れていたのに、ジョイナーフォトの画像を探しているときに、懐かしい作品もいろいろ見られて楽しかった。久しぶりに展覧会でも見たいなと思ったら、なんと昨年の7月から11月にかけて東京都現代美術館で開かれていたと知る。そして美術館のホームページには「日本では27年ぶりとなる大規模な個展です」との文字が!
もう見る機会はないかもなあ(^^ゞ
おしまい
Pearblossom Hwy 1986年
Place Furstenburg, Paris, August 7, 8, 9, 1985
The Brooklyn Bridge Nov 28th 1982
Merced River, Yosemite Valley 1982年
35年ほど前にメトロポリタン美術館で見た作品がどんなのだったかはもう記憶にないものの、こんな手法を考えるホックニーは天才だと思ったのはよく覚えている。またその頃は部屋にポスターを飾るなどホックニーのファンだったので、そんなホックニーを好きなった私の目は確かだと都合のいい解釈で喜んでもいた。
彼のジョイナーフォトに魅せられたのは別の理由もあった。当時は仕事のプレゼンテーションでビジュアルボードを作る機会が多かった。例えばマーケティングのターゲットとなる人物・生活像を、雑誌の切り抜きなどを組み合わせてイメージしやすくクライアントに提示するのである。だからホックニーとは目的も手法もまったく違うとはいえ、コラージュの制作には馴染みがあり、コラージュそのものに関心が高かったのかも知れない。
それはさておきメトロポリタン美術館でホックニーのジョイナーフォトに感激した私は、帰国後にそれを真似してみようと思い立つ。絵は描けなくても写真の切り貼りくらいはできるだろうとの魂胆。
勤務していたコンサルティング会社は青山通りにあった。バイトに来ていた女子大生にモデル役を頼み込み、青山通りに面したスパイラルホールの前と、そこから路地に入ったちょっとアンティーク感のある喫茶店の前で撮影した。関係ないけれど、その喫茶店でお茶しているとモデルの山口小夜子をよく見かけたのは懐かしい思い出。
撮影は思ったより手間が掛かった。
まず当時のコンパクトカメラはズームレンズがなく広角の固定焦点。そこで会社の一眼レフ&ズームレンズを借りてきた。ただしピント合わせはマニュアル。(世界初のオートフォーカス一眼レフであるミノルタα7000は既に発売されていたが会社にはなかった)
撮影はモデルに対して正面、右寄り、左寄りの3方向から。それぞれに腰の高さ、目の高さ、脚立に乗ってと3つの高さで。その9カ所からカメラのアングルを左右や上下に振って、またズームの倍率を変えながら撮る。その都度ピントも合わせなければならないし、フィルムの交換も面倒だった。
たぶん200枚くらい撮った。
フィルム代、現像代、プリント代ーーーけっこうな出費(/o\)
それよりも何よりも、
できあがってきた写真を、どう組み合わせてもサマにならなかったのがショック。200枚といっても4地点分だったと思うので1地点あたりだと50枚。イメージしていた広がりや動きを感じる雰囲気をだすのには、それじゃ全然足りなかったように記憶している。それと当然ながら「紙の写真」だから一度カットしてしまうとやり直しがきかない(再度プリントする手はあるが)。
そんなこんなで日本のホックニーになる目論見はあえなく挫折(>_<)
それも楽しい経験のひとつではある。
これはホックニーのジョイナーフォト制作風景。
私も自宅で写真を広げて、まったく同じポーズで悩んでいた。
画像はhttps://www.rollingstone.com/culture/culture-features/the-rolling-stone-interview-david-hockney-modern-art-master-204057/から引用
国立西洋美術館でキュビスム展を見るまで、35年ほど前にホックニー「ごっこ」をしたことすら忘れていたが、考えてみれば今はデジカメの時代。とりあえず撮影枚数を気にする必要はなく、またピントもオートフォーカス。液晶モニターがチルトするから低い位置や高い位置から撮るのも楽。そして何より写真を画像ソフト上で配置できる。形や大きさも自由自在で何度でもやり直し可能。色を変えたり様々なエフェクトも掛けられる。
またやってみるかと密かに企んでいるのは、
まだ誰にも打ち明けていないから内緒にね(^^ゞ
そんな思い出話、
(/_')/ソレハコッチニオイトイテ
ホックニーは日本の風景もジョイナーフォトにしている。制作はすべて1983年なので同じ時期の来日だろう。最初の3枚は京都の旅館。
Gregory Watching The Snow Fall, Kyoto, Feb 21st 1983
Gregory Reading In Kyoto 1983年
Shoes, Kyoto 1983年
これは木屋町通りだと思う。
Canal And Road, Kyoto 1983年
東京での1枚。
The Ashtray, Sunday Morning, Tokyo 1983年
Ashtrayは灰皿。画面中央に今では見なくなった公衆灰皿?がある。たぶんそれが珍しかったのでは。場所はおそらく新橋あたり。
そしてこれは石庭で知られる京都の龍安寺(りょうあんじ)。
Siting in the Zen Garden at the Ryoanji Temple Kyoto Feb. 19 1983年
画面右下にフィルムケースが散乱している。
ほら、ジョイナーフォトでコラージュするにはフィルムがたくさん必要なのよ。
これをジョイナーフォトにする意味があったかどうかは疑問だが。
Walking in the Zen Garden at the Ryoanji Temple Kyoto Feb 21st 1983年
タイトルが Walking で足元の連続写真が組み合わされているものの、庭を眺める視点は動いていない。なお日付を見ると彼は少なくとも龍安寺を2回訪れており、どうやらここを気に入ったみたい。
ピカソやジョルジュ・ブラックがキュビスムを始めたのは、写真が普及し始めて従来の「見たとおりに記録する」で絵画は写真に敵わないのも一因とされる。つまり写真にできない表現を見つけようと。
いわばそのアンチ写真のキュビスムを、写真を使って再現して、また多角度の視点だけではなく、時間の経過も統合したものに発展させたのがホックニーの面白いところ。ところでフランティシェク・クプカのように連続写真に影響を受けたキュビスム絵画はあっても、ピカソたちはどうして時間の経過を表現しなかったのだろう。ひょっとしたらそれはコロンブスの卵のようにいわれれば当たり前でも、そうでなければなかなか気付かないものだったのかも知れない。
さてホックニーといえばプールで、
そのジョイナーフォトもある。
プールは見下ろしており上段の椅子やパラソルは真横からで、これはまさにキュビスム的。
Sun on the Pool 1982年
これはグレゴリーが泳いでる写真をつなぎ合わせた時間的キュビスム。
Gregory Swimming Los Angeles March 31st 1982
京都の写真にも出てくるグレゴリーは、モデルからマネージャーそして恋人となったグレゴリー・エバンス。ホックニーは1960年代からゲイを公表していた。
ちょっとエロいのもいっときましょう(^^ゞ
Theresa Russell Nude for XVI RIP ARLES 1985年
Theresa Russellとは若い頃はマリリン・モンローの役も演じたハリウッド女優のテレサ・ラッセルのようだけれど、この写真じゃわからないなあ。
またタイトルにある XVI RIP ARLES とは、まずXVIはローマ数字で16。RIPはフランス語で Rencontres Internationales de la Photographie の略。直訳では国際写真展。ARLES は南フランスのアルル。まとめると日本ではアルル国際写真フェスティバルと呼ばれる、カンヌ映画祭の写真版とも呼ばれる大規模写真イベント。一般的な表記は Les Rencontres d'Arles。初開催は1970年で、その16回目=1985年にこの作品を出展したと示している。
最後にホックニーのポートレイト。
これはタイトルや制作年が不明。
ただしジョイナーフォトを制作していたのは1980年代に限られるので、その頃の写真のはず。彼は1937年生まれで、仮に1985年撮影だとすると48歳。
1966年、29歳か28歳。
何となく若い頃のアンディ・ウォーホルに似た雰囲気。
アンディ・ウォーホルは1928年生まれで9歳年上。二人に親交はあったが「お付き合い」してたかどうかは知らない。写真は1980年に撮られた英米ポップアートの巨匠。ホックニー43歳、ウォーホル52歳頃。
ところでホックニーの絵はカリフォルニアっぽいので、彼をアメリカ人だと思っている人が多いがブラッドフォード生まれのイギリス人である。ただし1964年にロサンゼルスに移住している。その後ニューヨーク近郊、ロンドンやパリに住んでいた時期もあり、現在はフランスのノルマンディーが拠点らしい。
これは2021年の撮影。
今年で御年87歳! 画像はhttps://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/hockney/index.htmlから引用
キュビスム展に行くまでホックニーのことはほとんど忘れていたのに、ジョイナーフォトの画像を探しているときに、懐かしい作品もいろいろ見られて楽しかった。久しぶりに展覧会でも見たいなと思ったら、なんと昨年の7月から11月にかけて東京都現代美術館で開かれていたと知る。そして美術館のホームページには「日本では27年ぶりとなる大規模な個展です」との文字が!
もう見る機会はないかもなあ(^^ゞ
おしまい
wassho at 22:07│Comments(0)│
│美術展