2024年08月02日

トウケイとトキオ その3

明治時代に東京をトウキョウではなくトウケイと読む人がいたと知っても、今でもそう読めなくもないし、前回に記した国語セオリーや時代背景を考えれば「そんなこともあったのだろうな」との感想程度にしかならない。

しかしトウケイだけでなく、
トキオとも呼ばれていたと知ってビックリ!である。
4渋沢トキオ



私の記憶でトキオの言葉を初めて聞いたのは、1979年(昭和54年)に発売されたイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)の「テクノポリス」が最初。いわゆるテクノポップの演奏の冒頭と途中に合成音声ぽい響きでトキオが連呼される。

YMOの登場は衝撃的で、サーフィンブームの真っ盛りの当時は、右を見ても左を見てもおかっぱ頭のサーファーばかりだったのに、突如もみあげのないテクノカットの連中が大量に出現したのをよく覚えている。服も白黒の市松模様のデザインが流行ったかな。


ただしYMOの人気は若者中心に限られていた。TOKIOの言葉が日本全体に広まったのは、翌1980年にタイトルもズバリ「TOKIO」だったジュリーこと沢田研二のヒット曲。電飾キラキラのコスチュームを着て、なぜかパラシュートを背負いながら歌う姿に、大げさに言えば日本中が衝撃を受けた。まだ家族揃って歌番組を見ていた最後の時代である。

沢田研二は1979年にも「OH! ギャル」でギャルという言葉を日本に紹介している。70年代後半の彼は、化粧をした中性的なヴィジュアル系路線でステージに立つなどどイケイケで最先端な存在だった。彼自身かスタッフかはわからないけれど、新しい言葉に対する感覚も鋭かったのだと思う。ちなみにテクノポリスの発売が1979年10月25日で、TOKIOが1980年1月1日と近いからYMOの歌詞をパクったのではないはず。


それはそうとしてーーー
沢田研二のTOKIOには「スーパーシティが舞い上がる」「TOKIO 優しい女が眠る街」などTOKIO=東京と思わせる歌詞がある。しかしYMOのテクノポリスは「トキオ、トキオ」の連呼だけで、この曲は他に歌詞がないいわゆるインストゥルメンタル・ミュージック。

それでもテクノポリスを初めて聴いた瞬間からトキオ=東京だと理解していた記憶がある。それは直感的にそう思ったのか、それともそれ以前に東京を外人はトキオと呼ぶと何かで知っていたのか。あれこれ記憶をたどってみても、なにせ45年も前の話なのでまったく思い出せない(^^ゞ



さて話を明治時代のトキオに戻すと、トウケイの他にトキオの読みもあったと触れている解説はいくつかあり、比較的詳しい記述を見つけたのは気象予報士が書いたこの記事

それによると

明治8年(1875年)気象庁の前身である内務省地理局・地理寮量地課・気象掛が発足。
英文の気象報告書も出しており、そこには発行元として、

  日本東京内務省地理局
  IMPERIAL METEOROLOGICAL OBSERVATORY TOKEI JAPAN

と記されている。
英文は帝国東京気象台の意味。
そしてこの時点で東京の読みは TOKEI=トウケイになっている。

それが明治16年(1883年)9月からTOKEIがTOKIO=トキオに変更される。
その表記は大正2年(1913年)まで30年間続き、同年よりTOKYO=トウキョウが使われる。

つまり明治初期はトウケイ→中頃近くになってトキオ→大正に入ってトウキョウの変遷。

読み方変更の理由はわからないようだが、記事では明治中頃に政府は不平等条約の改正に向け動き出したから、それでドイツ語やフランス語的な発音に変えたのではないかと推測している。併せて明治35年(1902年)に日英同盟が結ばれたのを理由に英語的な発音になり、それが前回に書いた明治36年の国定教科書で東京にトーキョーのフリガナが付いたのにもつながったのではと。

ただ「IMPERIAL METEOROLOGICAL 〜」のTOKEIをTOKIOに変えただけなら全体としては英語。それに不平等条約改正の交渉は英米の説得から始まっているから、その推測が当たっているかどうかはよくわからない。

いずれにせよ公文書にTOKIOと書かれているのなら、単なる当時の流行り言葉あるいは訛りなどではなく、間違いなく東京が正式にトキオとも呼ばれていた時代が確かにあったのだ。TOKIO=外国風発音とずっと思っていたから、これはかなり驚いた歴史の発見。


そういえば

   TOKIOは外人が東京を指して使う言葉
   外人だから英語

と何となく思ってしまうが、私の経験でも記事の筆者がいうように英語圏の人はトウキョウと日本語的に発音するし、フランス人は英語で話していてもトキオと発音し、最初のトの音が強い。さらに江戸時代の初めに来日した宣教師が作成した日葡辞書(にっぽ辞書:日本語ポルトガル語辞書)にはTOQIOの単語が載っているらしい(このTOQIOは現在の東京ではなく単に東方にある都の意味)。TOKIOよりTOQIOのほうが格好いいかも。

また中国人で東京をトウキュウあるいはトウキュと発音する人は何名か出会った。来日した中国人クライアントに「(英語で)東急ステーションに連れて行ってくれ」と頼まれ、危うく渋谷に向かいかけたことがある(>_<)


ところでYMOがテクノポリスを発表した1979年は、今では死語となった「ナウい」がまだ使われていた時代。最新のテクノポップにトキオ、トキオと連呼する音を被せたのは、その語感がナウいと思ったからに違いない。誰か去年亡くなった坂本龍一の墓に行って「トキオって明治時代の言葉みたいですよ」と教えてあげて(^^ゞ



おしまい

wassho at 21:47│Comments(0) ノンジャンル 

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