2026年01月08日

イメージと違いつまらなかった青海波 その2

文様の青海波のネーミングともなった舞楽の青海波。平安時代によく舞われていたようだが、その名声を一気に高めたのは源氏物語。第7帖の紅葉賀(もみじのが)で光源氏が舞う姿を紫式部はこう綴っている。(以下はかなり意訳で順番もオリジナルとは違う)


「冒頭で節を付けて読み上げた漢詩は極楽浄土の鳥の声のように聞こえた。それがあまりに感動的で帝は涙を拭い、周りにいた貴族たちも皆涙を流した」

「それが終わると音楽が一斉に鳴り響き、ただでさえ美しい源氏の君がより輝いて見える」

「髪飾りに仕立てたモミジも、光源氏の美しさに圧倒されて散ってしまったので菊に差し替えられた。その菊さえ光源氏の素晴らしい舞に色を変えた」

「少し雨が降ってきて、それは天にいる神までが感動の涙を流しているかのようであった」

「クライマックスに差し掛かると、光源氏の足運びや表情などはこの世のものとも思われないほどだった」

「特に最後のアンコールは息を呑む出来映えで寒気を感じるほどゾクゾクした」

「舞を理解していない下働きの人々も、こっそり木や岩に隠れて光源氏を見つめ、また涙を流す者さえもいた」

「あまりに神々しく美しい舞だったゆえに、帝は光源氏が神隠しにあうのではないかと心配になり、寺々に命じて魔除けの念仏を唱えさせたくらいであった」

ーーーなどなど。


ここぞとばかりに青海波の素晴らしさが強調される。もっともこのとき、帝の妃の1人である藤壺が妊娠しており、それが不義密通した光源氏の子であって、なのに帝と藤壺が臨席している前で舞うというスリリングな場面ではある。

それはさておき、この青海波の舞は光源氏の青春の輝きを代表する出来事として描かれ(このときの光源氏は数えで18歳)、その後も多くの場面で回想・言及されるほどのハイライトシーン。

源氏物語を通読したことは何度かあるが(もちろん現代語訳で)、それとは別に解説などで、この青海波の美しさに触れた文章を読み、あるいは映画かアニメかで見たのか、いつしか私の頭の中で青海波=「この世のものとは思えない美しい舞」のイメージが固まっていた。モーソー的には天女が舞っているような姿。
19天女2



その青海波が元旦早朝にNHKで放送されていたので録画しておいた。正月から「この世のものとは思えない美しい舞」の映像でトリップしようと思って。

見た。
見たけどーーー
想像とはまったく違った(>_<)

まっ、こんな感じ(画像はテレビ画面より)
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画像で舞っている映像を想像するのは難しいだろうが、実は映像で見ても画像とあまり変わらない。それほど緩く単調な動きが繰り返されるだけ。これなら私でも半日練習すれば演じられそうなレベル。豪華なコスチュームに身を包んでいるからなんとか様になっているものの、もしこれがジャージ姿なら幼稚園のお遊戯のほうが見応えがある。

最初はこれはイントロで、これから盛り上がっていくはずと期待していたのに、ずっとこの調子で15分ほどで終了。青海波って短かったのね。

そして長年にわたって妄想を膨らませてきた「この世のものとは思えない美しい舞」との思いは、あっさり裏切られ木っ端みじんに吹き飛んだのである(/o\)


ところで青海波を「源氏物語にも登場する美しい舞」と書いている人は多い。

   お前ら、青海波を見たことないヤロ!

もっとも紫式部は光源氏が舞う青海波が素晴らしいと書いただけで、青海波そのものを褒め称えているわけではない。「一緒に舞う相方の左大臣家の頭中将も容姿端麗で舞の技量も人並み以上とはいえ、光源氏と較べては山奥の木のようだ」とも表現している。山奥の木とは「美しい花と雑草」のような比喩。

つまり舞い手しだい。
それでもいくら光源氏が絶世のイケメンで超人的な舞の名手であったとしても、腕を広げたり閉じたり、足を前に出したり戻したりーーー程度の動きしかない青海波で、息を呑む神々しい舞になったとはどうしても思えない。

  ひょっとして紫式部も青海波を見たことないんチャウカ?(^^ゞ


源氏物語はフィクションだけれど当時の社会に与えた影響は絶大で、この後に青海波はますます演じられるようになる。紅葉賀での青海波は、帝が上皇の50歳を祝う行事として催したとの設定。それを意識したのか1176年に後白河法皇の同じく50歳の祝賀会でも青海波が舞われる。

舞ったのは平維盛(これもり)。年齢も同じ18歳。清盛の孫である彼もまた光源氏の再来と称されたイケメンだったらしい。この史実は後に平家物語に収録されている。とはいっても青海波で人々が真っ先に連想するのは源氏物語。日本で一番高い山を富士山と知っていても二番目は知らないのと同じ。ちなみにGoogleでの次の単語での検索ヒット数は

 「源氏物語 青海波」 2万8600件
 「平家物語 青海波」 6510件

と大差がつく。

ひょっとしたら源氏物語で取り上げられなければ、青海波は今日まで伝わらなかったかも知れない。現在に伝承されている雅楽(舞を伴う舞楽を含む音楽全体)は400曲程度。これは平安時代のレパートリーの1/3程度との研究もある。


それはさておき、
何事も経験がモットーであるけれど今回はそれが裏目に。
青海波の実演なんて見なきゃよかったと後悔。
でも幻想が砕けたおかげで源氏物語の影響力を再認識できたからよしとするか。




おしまい

wassho at 19:53│Comments(0) ノンジャンル 

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