晴れ時々マーケティング:ゴヤ - livedoor Blog（ブログ）

ゴヤ

2018年06月15日

ルドン　秘密の花園

ラ・フォル・ジュルネの公演プログラムのあいまに訪れた展覧会。5月3日のことでブログに書くのがずいぶんと遅くなってしまった。

開催されていたのは三菱一号館美術館。ルドンは以前に「グラン・ブーケ」という作品を同じ三菱一号館美術館で観て(常設展示）とても強い印象を受けた。初めて知った画家だったので、その時に少し調べてわかったことは

　　グラン・ブーケとは真逆の薄気味悪い絵をたくさん描いている
　　いろんな作品の中でグラン・ブーケだけが群を抜いて素晴らしい

ということ。あくまで私の判断基準でだけれど。というわけでルドンにはそれほど関心を持っていなかったのが正直なところ。でもラ・フォル・ジュルネの会場から至近距離に三菱一号館美術館があるので暇つぶしに。

オディロン・ルドンは1840年生まれのフランス人画家。明治維新が1868年で、また印象派の画家達と同世代。しかし印象派が｢現実｣を印象化して描いたのに対して、ルドンは架空世界を多く描いたという点でまったく違う。時期によって画風はかなりドラスティックに変遷するが、彼が名を残したのは私があまり好きではない薄気味悪い作品によるものだと思う。

展覧会サブタイトルの｢秘密の花園」はルドンの作品から植物をモチーフにしたものを集めたかららしいが、そうじゃない作品もかなり多かったように思う。不気味な絵にも植物が添えられているので、秘密の花園をのぞくという背徳感は味わえなかった(^^ゞ

「スペインにて」　1865年　エッチング

ルドンは版画家からキャリアをスタートしたとのこと。しかしまあモノクロの版画はそれだけを観に行けば違うのかも知れないが、色つきの油絵と一緒に展示されていると、あまり興味を持って眺められないのが正直なところ。

次も上記と同じく最初のコーナーにあった作品。制作年不詳のものが多いが初期の作品なのだと思う。ごく普通の絵が並ぶ。多少は印象派の影響を受けているのかも。

ちなみにペイルルバード、メドックとも地名。彼が生まれ幼少期を過ごしたのが南フランスのボルドー近郊のメドック村で、ペイルルバードは村の中の地区名。こちらのブログではとても爽やかな景色が広がっている。

「風景」　制作年不詳

「ペイルルバードの小道」　制作年不詳

「ペイルルバードのポプラ」　制作年不詳

「メドックの秋」　1897年

2つ目は「人間と樹木」というコーナー。だんだんと気持ち悪い絵が多くなってくる(>_<)

「荊の冠の頭部(キリストの頭部）」　1877年

「植物人間」　1880年

「キャリバン」　1881年　※キャリバンはシェイクスピアの作品に登場する怪物

「荊の冠の頭部」はよく見ると普通の作風なのだが、一緒に並んでいる作品のせいで損をしているかも。上記の3点は木炭あるいは木炭と鉛筆で描かれたもの。同じコーナーで次の3点は油絵。だんだんとルドンの幻想感がにじみ出てくる。

「キャリバンの眠り」　1895～1900年

「エジプトへの逃避」　制作年不詳

「ヤコブと天使」　1907年

ルドンは20歳頃に植物学者アルマン・クラヴォーと知り合い、顕微鏡で見える世界に没頭したとのこと。それが後半に出てくる「気持ち悪い絵シリーズpart2」に影響しているらしい。

次の2点は「植物学者アルマン・クラヴォー」というコーナーにあったが、顕微鏡とはあまり関係がないみたい。

「ゴヤ頌　 Ⅱ. 沼の花、悲しげな人間の顔」　1885年　リトグラフ

絵が絵だし、ゴヤ頌と「頌（しょう）」がつくとなんのことかすぐはわからないが、このゴヤはスペインでもっとも偉大とされる画家の1人である、あのゴヤである。

「頌（しょう）」は「誉めたたえる・敬意を払う」という意味。漢字と読み方は違うが「家康公」みたいなもの。たまに絵画のタイトル和訳に「頌」を見かけるが、もう死語なので別の言葉に置き換えて欲しいものだ。ちなみにオリジナルのタイトルは「Hommage a Goya」。ゴヤへのオマージュというタイトルのほうがよっぽど意味が伝わる。絵が絵だし(2回目）このゴヤをあのゴヤとは思わずに絵を観ていた人のほうが多いと思う。

私には漫画の1カットに出てくるレベルのものにしか見えないが、当時はこういう絵にインパクトがあって価値を認められたのだろうか。だとしても格式高い宮廷画家だったゴヤは、あの世でブチ切れたに違いない(^^ゞ

「若き日の仏陀」　1905年

アルマン・クラヴォーはインド文化にも傾倒していたらしく、その流れでルドンも仏教に関心を持ったのかもしれない。それにしてもフランス人が描くとお釈迦様もずいぶんと印象が変わる。なかなかいい感じの幻想度合い。

偶然だろうが「ペイルルバードの小道」「キャリバンの眠り」とこの絵、そして次回に紹介するいくつかも、青や水色を背景にしたルドン作品に私が気に入ったものが多い。

ーーー続く

タグ：: ルドン; ゴヤ

wassho at 19:43｜Permalink│Comments(0)│

2012年01月20日

ゴヤ　光と影展

ゴヤというのは名前と、代表作である「着衣のマハ」「裸のマハ」以外はあまり知らない。知っているような知らないような、私にとってあまりイメージのわかない画家である。その「着衣のマハ」が40年振りに日本で展示されるという宣伝文句につられて久しぶりの絵画鑑賞。

ちょっとおさらいしておくと、ゴヤは18世紀末から19世紀初頭にかけて活躍したスペインの巨匠。いわゆる王室専属の宮廷画家。全盛期には病気で聴力を失っていたベートーヴェンみたいな人。

結論からいうと､この展覧会にはあまり満足できなかった。スペインの至宝であるゴヤにこんなことをいえる身分じゃないけれど、全体的な雰囲気はいいのに微妙なところで趣味が合わなかった。まあ絵に評価の高い低い､値段の高い安いはあっても、基本的には好き嫌いの世界だからそんなこともある。

本展はゴヤも含めたいろんな作家の展示会ではなく、すべてゴヤの作品で構成されている。さぞかし見応えがありそうな感じだが実はそうでもない。資料を見ると全部で123点の展示となっているが絵画はそのうちの25点しかなく、残り98点、つまり展示のほとんどは素描や版画といったＡ４サイズくらいの小さな作品。もちろんこれらは白黒。小さいから近づかなければ見えない～近づくには列に並ばなければいけない～そんな暇はなかったから列の外側からチラ見しただけで済ませた。こういうのをじっくり鑑賞すれば、画家の力量や考え方を見る目も養われそうな気もするが、今のところそこまで絵画にのめり込んでいない。

「私は見た　＜戦争の惨禍＞44番のための準備素描」

素描（そびょう）というのは、こんな感じ。下絵とか練習のために鉛筆や木炭などで書くもの。デッサンともいう。デッサンは素描のフランス語。

「マハとマントで顔を覆う男たち」
もともとはタペストリー制作のための原画(カルトン)。ゴヤは画家としての地位を築くまではカルトン職人だったらしい。これは地位を確立してからも王室の依頼によって描いたカルトン。タペストリー（部屋に飾る織物）のカルトンは織物にしやすいようにもっと簡潔な構成するものだが、ゴヤはかまわず油絵としての完成度を優先したので、タペストリー職人にストライキを起こされたらしい(^^ゞ

それでこの絵、男たちは膝までのズボンでその下にタイツのようなものを履いているが、この膝から下の描き方が私には不満。まず身体のバランスから考えてふくらはぎが太すぎる。次に全体の描き方と較べて、ふくらはぎの部分だけがやたら平板。パソコンの小さな画面で質感がどれだけ再現されているかわからないが、とりあえず私には男たちのふくらはぎが木製のボーリングのピンのように見えてしかたなかった。

「洗濯女たち」
これもカルトン。のどかで牧歌的な絵にしか見えないが、当時の洗濯女は「ふしだらな」女性が多くいる職業だったとされている。

一番左側の女性が触っているヤギの角は男性器の象徴で、手前の女性はスカートの中に右手を入れてオナニーしているらしい　ｲﾔﾝ(/o＼)　それで、この絵をベースに作ったタペストリーは宮殿の寝室に飾られたらしいから、スペイン王室も「あんたも好きね～」である。　

しかし彼女たちの表情というか描き方から「ふしだら」を連想することは難しい。当時の人々は､この絵を見て「エロい」と感じたんだろうか？　ギモン

「赤い礼服のカルロス４世」
宮廷画家だから肖像画はお手の物。スポットライトを当てたような描き方で存在感を放っていた。ただ何点か肖像画が展示されていたが、ゴヤが描く男性の肖像画はどういうわけか頭が小さいものが多い。女性は普通のプロポーションで描かれている。

「スペイン王子フランシスコ・デ・パウラ・アントニオの肖像」
なんとも愛くるしい6歳の王子。なぜか全身をすべて描かずに半分くらいをオレンジの絵の具で塗りつぶしている。技法？ヘンナノ、手抜き？まさか。

「アブランテス公爵夫人」
美しいセレブ、ごくごくまっとうな絵。こういう絵の良さ・楽しさはパソコン画面じゃなかなか伝わらない。展覧会に行く楽しみのひとつである。コメのご飯がおいしかったようなうれしさがある。

「着衣のマハ」
この展覧会の目玉。「裸のマハ」とセットで有名。どちらも同じマドリードのプラド美術館に収蔵されている作品だが、さすがにセットでの貸し出しは無理なようで今回は「着衣のマハ」のみ。この両作品については検索すればいくらでも情報があるから省略。ちなみにマハというのは名前ではなく、小粋な女、オシャレな女というような意味のスペイン語。

教科書にも載っている有名な絵を見られたという満足感はあったが、思ったほどは感動しなかった。ちょっと顔の描き方がアッサリしているのも気になった。どうも私はゴヤの「描き込み」に少し物足りなさを感じているようだ。人間とは不思議なもので、この絵の顔が気に入らないと顔ばっかり見てしまう。

せっかく来たのに、それじゃもったいないと思って少し離れて眺めてみた。横長のサイズの絵の両端を視野にとらえられるくらいの距離。けっこう印象が変わる。なんか圧倒的な存在感、肉感が伝わってくる。かぶりつきで見たときは気づかなかった迫力に少し驚いた。なお絵の横幅が190センチで、マハはだいたい実物大くらいの大きさで描かれている。

話は変わるけれど、美術館では「これ以上作品に近づいてはダメ」という場所に線が引いてあったり柵があったりする。それで、その距離は小さな作品も大きな作品もほとんど同じ。作品の大きさによって距離は変えるべきだろう。「着衣のマハ」を少し離れてみた位置が適切な鑑賞距離だと思うが、柵はもっと手前にあるので､その位置からは当然かぶりつきで見ている人が邪魔になって絵の全体を見渡すことができなくなってしまう。

展覧会は上野にある国立西洋美術館で開催されている。
写真は上野公園の入り口付近。JR上野駅からだと信号を渡るだけだが、地下鉄の駅からだと､少し坂を登ってこなくてはいけない。
写真のちょうど真ん中あたりに「着衣のマハ」の看板があるのがわかるかな？