ジョン・エヴァレット・ミレー

2019年06月24日

ラファエル前派の軌跡 その4

「滝」 ジョン・エヴァレット・ミレー 1853年

ラファエル前派は細部まで描き込むのがひとつの特徴。それでミレーはその細密な風景に人物を溶け込ませるのがうまい。そして最高傑作のオフィーリアもそうだが、これだけの絵を仕上げるのにどれだけのーーーと考えると半端なく力作なのに、眺めていてまったく気負いを感じないし、とてもナチュラルに目に入ってくる。本当にうまい絵というのは、そういうものじゃないかと思う。
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ちなみにモデルはラスキンの奥さんのエフィ。後にラスキンと離婚してミレーと結婚している。ラファエル前派の入り乱れた男女関係については書かないつもりなのに、つい触れたくなってしまう(^^ゞ



「結婚通知ー捨てられて」 ジョン・エヴァレット・ミレー 1854年

先ほど書いたことの裏返しになるのかもしれないが、人物しか描かれていない肖像画だとミレーはちょっと物足りないかな。それにこの絵は婚約破棄された女性の悲しみや屈辱を描いているらしいが、特にそんな感情は伝わってこない。
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「誠実に励めば美しい顔になる」 ウィリアム・ホルマン・ハント 1866年

ロセッティ、ミレーと並んでラファエル前派を立ち上げたメンバーの1人であるハント。でもなんとなく影が薄い。過去のラファエル前派展覧会のブログでも取り上げていない。際だった個性がないからかな。

この作品はタイトルがナゾ。もし今の世の中で、こんなタイトルをつけて作品を発表したら炎上しそう(^^ゞ それはさておき見れば見るほど味わいのあるスルメのような絵。ただし、これが「ラファエロ以前に戻ろう」というコンセプトに合致しているかどうかはよくわからない。でもこれはこれでいいんじゃないか。
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「リュートのひび」 アーサー・ヒューズ 1861-62年

キャンバスの上側が丸くて、草むらを背景に女性が横たわっていて、ましてラファエル前派の展覧会なら、どうしてもオフィーリアを連想してしまう。あれほど凄味のある絵ではないにしても。
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アーサー・ヒューズは初めて聞く名前。調べてみるとラファエル前派のメンバーではない。しかしロセッティらメンバーとの親交はあり、影響を受けていることは他の作品からも明らか。次の「音楽会」もそうだが、どことなく思わせぶりな雰囲気が作風みたい。


「音楽会」 アーサー・ヒューズ 1861-64年
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ラファエロ前派のコーナーには、他にフォード・マドクス・ブラウン、ジョン・ブレット、アルフレッド・ウィリアム・ハント、ジョン・ウィリアム・インチボルトの作品が展示されていた。そして次はラファエロ前派周縁というコーナーになるのだがーーー。

ラファエロ前派とはロセッティらが目指した運動に賛同した画家たちの総称ではなく、固有名詞のグループ名で、そのグループのメンバーがラファエル前派の画家である。それはロセッティ、ミレー、ハントら3人の立ち上げメンバーと、後から加わった次の4名。

   ウィリアム・マイケル・ロセッティ(ダンテ・ゲイブリエルの弟、批評家)
   ジェームズ・コリンソン(画家)
   フレデリック・ジョージ・スティーヴンス(批評家)
   トーマス・ウールナー(彫刻家)

ラファエロ前派の英語名はPre-Raphaelite Brotherhood。Brother-hoodは「兄弟分のちぎり」的なニュアンスでかなり強固な結びつき。逆にいえばメンバーとそうでないものとの区別は明確である。アイドルがみんなAKBじゃないのと同じ。

もちろん彼らの運動は大きな影響を与えたから、ラファエロ前派的なことを目指した画家たちを、今日においてラファエル前派グループとして括ることは不自然じゃない。

しかしである。
わざわざ「ラファエロ前派」と「ラファエロ前派周縁」というコーナーに分けておいて、「ラファエロ前派」のコーナーにメンバーじゃない画家の作品を展示するのはおかしいだろう。

もっとも4名のうち作家は2名だし、4名ともウィキペディアに載っていないほどマイナーな存在。それで作品を集められず、だからといってロセッティ(兄)、ミレー、ハントの3名の作品だけじゃコーナーが持たなかったんだろう。ただでさえロセッティ(兄)の作品が多くてバランスを欠いているのに。

そんな事情はわからなくもないが、この展覧会はラスキンのコーナーでケチがついているので、ついでに吠えてみたしだい。



さてラファエロ前派周縁の作品はウィリアム・ヘンリー・ハントから。


「ヨーロッパカヤクグリ(イワヒバリ属)の巣」 1840年頃
「果実ースピノサスモモとプラム」 1843年

いわゆるスーパーリアリズムな作品。ラファエロ前派は細部の描写をおろそかにしないから、そういう意味では方向性は同じ。でもなんとなくラファエロ前派な感じはしない。スーパーリアリズムは好きなんだけれど
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それにしてもウィリアム・ヘンリー・ハントは、立ち上げメンバーのウィリアム・ホルマン・ハントと名前が似ていてややこしい。



「初めて彩色を試みる少年ティツィアーノ」 ウィリアム・ダイス 1856-57年

この絵を見てどこかデジャヴ(既視感)な気持ちになる。すっかり忘れていたが、ウィリアム・ダイスの作品は初めて見たラファエル前派の展覧会にあった。「ペグウェル・ベイ、ケント州 1858年10月5日の思い出」という作品。

両者の共通点は細密な描写で、とくに風景はスーパーリアリズムな。しかし人物(この作品の場合は彫像も)は同じ細密でも少し描き方が違う。つまり1枚の絵に2種類の細密さが同居していること。これがなんとも不思議な感覚で魅力的。
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「アラン島の風景」 ウィリアム・ダイス 1858-59年

同じ手法だが、特に母親と思われる女性はフィギュアのように思える。それと描いている内容なのか明るい日差しのせいなのか、とてもアッケラカンとした印象になるのが面白い。
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ーーー続く

wassho at 23:51|PermalinkComments(0)