ボエティウス・アダムスゾーン・ボルスウェルト

2013年04月22日

ルーベンス:栄光のアントワープ工房と原点のイタリア展2

会場には版画が多く展示されていた。解説によると昔は絵を描いたら、その版画も後から作ることが多かったそうである。当時の絵は王侯貴族の所有物で限られた人しか見られないから、版画はもっと多くの人に見てもらうために作られたようである。

版画といっても浮世絵のような木版画ではなくエッチング。つまり彫刻刀で彫るんじゃなくって鉄のペンで描く版画。だから極めて精細な版画となる。エッチングは中学の授業でやった記憶がある。薬剤の化学反応を利用するし、こんな昔からある手法だとは思わなかった。

浮世絵の場合は絵師、彫り師、刷り師の三分業体制。どんな浮世絵にするかを創作するのは絵師で、喜多川歌麿とか葛飾北斎とかは絵師の名前である。エッチングの場合は調べてもよくわからなかったが、オリジナルの絵を模写して下絵を作り、それを鉄ペンで銅版に刻む作業は同一人物のような気がする。モノクロだと刷る技術もいらないから、刷るところまでも担当したのかもしれない。ここに貼り付けたのはすべてオリジナルがルーベンスの絵で、記した名前は、作業分担は不明なもののそれを版画にした人のものである。



「聖家族のエジプトからの帰還」リュカス・フォルステルマン
1


「キリスト降架」リュカス・フォルステルマン
2


「聖母マリアの被昇天」パウルス・ポンティウス
3


「キリストの磔刑(槍の一突き)」
  ボエティウス・アダムスゾーン・ボルスウェルト
5


「ライオン狩り」
  スヘルテ・アダムスゾーン・ボルスウェルト
6


「ヘロデの饗宴」
  スヘルテ・アダムスゾーン・ボルスウェルト
7


「マリアの教育」
  スヘルテ・アダムスゾーン・ボルスウェルト
9


こういう版画をじっくり見たのは初めてだと思う。何がよかったのが自分でもよくわからないのだがかなり気に入った。それとその精細さに驚いた。なんてったって江戸時代初期なんだから。もっとも鉄ペンでガリガリやりながらこんな緻密な版画を作るのは大変な作業らしく、2作品を紹介した弟子のリュカス・フォルステルマンなどは、ルーベンスのリクエストがあまりに厳しかったので頭にきて彼の暗殺を企てたという話が残っている(>_<)


版画のうち、「聖母マリアの被昇天」は去年に原画(の下書き)をマウリッツハイス美術館展でみた。見較べてみると、そっくり模写しているわけでもないのね。絵なんて完成してからも、あれこれ手を入れたくなるもの。そう考えると、ひょっとしたら版画のほうが図柄としては完成度が高いのかもしれない。(でも版画のマリアは顔がちょっとコワイ)


ところでルーベンスといえばどうしてもフランダースの犬が切り離せないが、ネロが最後にアントワープ大聖堂で見ながら死んでいった絵の版画が上に貼り付けた「キリスト降架」である。版画だから縦60センチ横40センチくらいとサイズは大きくないが、やっぱり圧倒するような迫力がある。それによくこんなヤヤコシイ構図を考えたなと感心させられる。

その原画がこれ。(これは展示作品ではない)

「キリスト昇架」
7

「キリスト降架」
6

元々は別々に制作されたものらしくタッチが異なるが、磔(はりつけ)の刑の上げ下げセットになっている。どちらも素晴らしい。もちろん今でもアントワープ大聖堂にある。でも、この絵が日本に来ることはないだろうなあ。


おしまい

wassho at 23:36|PermalinkComments(0)