ラファエロ

2014年03月29日

ラファエル前派展 テート美術館の至宝

きっかけはこんなポスター。

ポスター2


「それは懐古か反逆か」という刺激的なキャッチコピーとともに、ケバイのか知的なのかよくわからない、でも一目見たら忘れられそうにない女性。そして展覧会のタイトルは「ラファエル前派展」。

  ラファエル? なんじゃそれ?
  ラファエロならよく知ってるけど。
  それに前派なんて日本語は聞いたことがないぞ。

というわけで珍しく展覧会に行く前に多少の予習をして、展覧会を見てさらに興味を持ってあれこれ調べた展覧会となった。

まずラファエルとはルネサンスの巨匠ラファエロのことである。

   ラファエロ Raffaello イタリア語
   ラファエル Raphael  英語

と知って納得しかけたがラファエロは人の名前である。英語のレストランがイタリア語ではリストランテと普通名詞なら違う言葉になるのはわかるが、人名という固有名詞がなぜ変化するのだ。田中さんは英語でもイタリア語でもTanakaのはずである。

今のところの推論は、ラファエルはミカエルとガブリエルと並ぶキリスト教の三大天使の名前でもある。天使の名前ともなれば普通名詞みたいなものだから、言語によって変化しても不思議ではないかも。

それでとにかくラファエルというのはラファエロの英語読みである。なぜ英語かというと、このラファエル前派というグループがイギリスの画家達だから。ちなみに前派は「ぜんぱ」と読む。



1848年の9月にラファエル前派は結成された。日本でいうと明治維新が1868年だから江戸時代の最後期にあたる。創設メンバーはイギリスの国立美術大学の学生だった3名。

   ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ
   ジョン・エヴァレット・ミレー
   ウィリアム・ホルマン・ハント

名前が同姓でややこしいけれど「落ち穂拾い」のジャン=フランソワ・ミレーは同年代のフランス人画家で別人ね。


当時のイギリスは産業革命で蓄えた力で7つの海を支配した大英帝国時代。世界の陸地面積と人口の1/4を押さえていた。その頃の女王の名前を取ってヴィクトリア朝時代と呼ばれる。しかし政治や経済では最先端でも、その頃のイギリスの絵というのは300年以上前のルネサンスの模倣ばかりで、特にラファエロの絵がお手本とされていたらしい。

ロセッティ、ミレー、ハントの3人は、それが気にくわなかった模様。古典ばかり勉強させられてイヤになったのかな。彼らによればラファエロの絵は演出過剰でリアリティがないということらしい。ラファエロの絵にも色々あるが、そういわれてみればそうかもしれない。

キリストの変容  ラファエロ
キリストの変容


彼らはルーベンスやその他の巨匠クラスもこき下ろしている。その中で一番象徴的だったのがラファエロだったのだろう。それでラファエロより前の時代のもっとシンプルな絵に戻ろうということで、ラファエル前派というグループを結成したというのがいきさつ。

日本語ではラファエル前派と訳されているが英語ではPre-Raphaelite Brotherhoodという名前。ブラザーフッドは兄弟の間柄という意味以外に組合とか協会という組織的な意味もある。兄弟=血のつながりだからニュアンス的にはかなり強固な結びつきで、派というより同胞団という訳語のほうがふさわしいかもしれない。いってみれば美大の学生3人が立ち上げたサークルから始まったラファエル前派ではあるが、ブラザーフッドというネーミングからも、かなり気合いが入っていたことがわかる(気がする)。また、わざわざラファエロの名前を使ったのは、権威主義に陥って停滞していた当時のイギリス美術界への挑戦状のつもりだったはず。


おもしろいのはラファエロのような絵が気にくわないのなら、自分が描きたいように描けばいいと思うのだが、彼らはラファエロより前の絵に戻ろう、つまりそこからヒントを得ようと主張している。源氏物語は絵空事だから実直な万葉集を勉強しようみたいなことなのかな。ラファエル前派の結成から約30年後の1874年から始まった印象派の画家達は、自分自身で次の絵のスタイルを追求した。ラファエル前派の諸君はなぜ過去にヒントを得ようとしたのだろう。学生・若い画家なら誰もやっていない新しいことに走りそうなもの。そのあたりの状況はザッと調べた程度ではわからず。


とにもかくにも3人で始めたサークルは成功し、メンバーも増えてラファエル前派は美術界に大きな影響を与えるようになる。また絵にはモデルがつきものだが、画家とモデルがつきあったり別れたり、他のメンバーと三角関係になったりと人間模様がやたらおもしろい。それをテーマに映画を作れば展覧会より受けるかも。既にイギリスでは新聞やゴシップ誌があった時代だから、そのあたりの記録も豊富みたいである。

肝心の絵は、今の時代から絵を眺めればビックリするようなことはない。それでも当時にしてみれば前衛的だったということは何となくわかる。そして前衛的ということは世間から反感を買うのは今も昔も同じ。そんな彼らを擁護してラファエル前派の躍進に貢献したのがジョン・ラスキンという当代屈指の美術評論家。3人の中心メンバーよりは10歳ほど年上。でも彼もミレーに奥さんをとられてラファエル前派ドロ沼物語に一役買っているのがおもしろい。

まだ絵を紹介していないが、展覧会を見ながら脳裏に浮かんだのは

     ビートルズみたい

ということ。
当たり前だけれど、絵そのものにビートルズを連想させるものはない。イギリスで、二十歳そこそこでデビューして、今までの常識にとらわれない音楽・絵で勝負したというあたりが共通点。社会でのポジションが似ていたかもしれないと想像する。ビートルズの音楽も今では20世紀の名曲ということになっているが、デビュー当時は反社会的と見なされ「ビートルズを聴いたら不良になる」と世のPTAをいきり立たせたらしい。(私は彼らが解散した頃にビートルズを知った世代) もっともビートルズのメンバーで男女間のドロ沼はなかったが、プロデューサーのジョージ・マーティンの存在はジョン・ラスキンと少し重なるかな。

ビートルズと同じようにラファエル前派も10年ほどでグループとしての活動を終える。画家達はその後もそれぞれソロ活動?を続けるが、創設メンバーの1人であるミレーは67歳でロイヤルアカデミーの会長になる。日本語的にいうなら芸術院の会長みたいなもので、かつて批判していた体制側のトップになったということ。そういえばポールもいまではサー・ポール・マッカートニーと爵位つきである。




展覧会を見に行ったのは3月25日。場所は六本木ヒルズの森アーツセンターギャラリー。近づきすぎてiPhoneじゃビルの一番上まで入りきらなかった。
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奥に見える煉瓦色のタワーはヒルズ族の住む六本木ヒルズ・レジデンス。
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テレビ朝日と東京タワーでおノボリさん気分(^^ゞ
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これがアーツセンターの入り口。六本木ヒルズは54階建てで53階に森美術館、52階に森アーツセンターギャラリーがある。展望台も52階。
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入り方が変わっていて六本木ヒルズの1階からは上がって行けない。写真の左側に写っている3階建ての小さな建物の3階にまず上がり、渡り廊下(展覧会のポスターが貼ってあるところ)を通って六本木ヒルズの3階に横から入る。そこにチケット売り場があり、そこから52階まで専用エレベーターで上がる仕組み。


ラファエル前派展の入り口。
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展覧会はかなり空いていた。やっぱり知名度のある画家達じゃないからかね。52階に上がるエレベーターは満員で「わっ、混んでる(/o\)」と思ったが、6割は展望台に行く人、3割は森美術館で開かれているアンディ・ウォーホル展に行く人だった。


ウォーホル展まで見るほど仕事をさぼれなかったーーー。
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でもロビーに有名なBMWアートカーが置いてあったのでミーハー的に喜んで写真を撮る。私がペンキを塗ったらエンジニアリングへの冒涜といわれるだろうなあ。
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ーーー続く。

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2013年06月04日

ラファエロ展

3ヶ月間も開催していたのに、例のごとく終了間際にあたふたと。
訪れたのは終了3日前の5月31日。場所は上野の国立西洋美術館。
この展覧会は「ラファエロ」と画家の名前だけで、いたってシンプルなのが珍しい。

写真は展覧会を見終えてからiPhoneで撮ったもの。私が着いた時はこの2〜3倍くらいの行列があった。回れ右して帰るべきか躊躇したが、せっかく上野まで仕事の合間を縫って来たんだしと。ここに写っているのはチケットを買う行列で、その後に美術館の中に入る行列、展示室の中に入る行列と続くが、人数が多い割にはトータル20分くらいで展示室に入れた。
IMG_0808



さてラファエロ。
誰でも名前くらいは知っているイタリアの代表的画家。ダ・ヴィンチとミケランジェロとあわせてルネサンスのルネサンスの三大巨匠と呼ばれている。1483年生まれ。日本では応仁の乱が終わったのが1477年だから、室町幕府が名前ばかりになり戦国時代が始まった頃の人である。ちなみに信長が生まれたのは1534年でもう50年ほど後。ラファエロは工房制作方式をとっていたこともあってたくさんの作品を残しているが、37歳で夭折している。時代や分野は違うものの、同じく35歳と若くして亡くなったモーツアルトと「甘美な美しさ」という点では芸風が似ているように私は感じる。

ところでラファエロの絵は何度も見ているような気がしていたが、まとまった数の作品が日本で展示されるのは初めてとのこと。今までたまにしか見ていなくても、それだけ印象が強かったということかもしれない。



「自画像」
20代後半の頃らしい。
この顔があんな絵を描いていたというのは何となく頷ける。首が長かったり肩の辺りの描き方が不自然だったり左側に寄った構図も含めて、私にはちょっとマニエリスムな印象を受ける。でも美術史的にはラファエロは正当ルネサンスでマニエリスムとは無関係ということになっている。マニエリスムの説明は難しいので興味があったら自分で調べて。私もチンプンカンプンにしか理解していないから。
自画像



「聖セバスティアヌス」
英語風に読むならセバスチャン。手に持っているのは羽根ペンではなく本物の弓矢。セバスチャンはキリスト教徒を迫害していた頃のローマ皇帝によって「たくさんの弓矢で射られる刑」に処せられた人。他の画家が描いたセバスチャンは身体中に弓矢が刺さっているものがほとんどだが、ラファエロの構成はひとひねり効いている。ついでになぜかは知らないが聖セバスチャンはゲイの象徴ということになっている。
セバスチャン



「無口な女」
この作品はラファエロの画風とは少し違う印象。この頃の彼はダ・ヴィンチを研究していたらしく、そういえば顔は違うがポーズなんかは何となくモナリザっぽくもない。モナリザと同じように、あまり魅力的とはいえない女性をモデルにするということまで真似なくていいのに。
無口

ところで、この展覧会では肖像画が多かった。というか後で紹介する大公の聖母以外はたいした作品がないので、肖像画を集めて体裁を繕った印象がなきにしもあらず。



「ベルナルド・ドヴィーツイ枢機卿の肖像」
これも身体のバランスがマニエリスム的にデフォルメされているように見えるーーー

それよりも私の気を引いたのは、いつものように絵とは関係ない事柄。まず赤いガウンの模様。これは織り柄それとも刺繍? いずれにしてもこんな生地は見たことがない。

それとこの人は肖像画を描いてもらうのになぜお札を握りしめているの? これは後で調べたらお札ではなく手紙だった。でもパッと見はお札に見えるよね? 手紙はこんな風に握らないと思うけれど。
枢機卿




「大公の聖母」
後にこの絵を購入したトスカーナー(イタリアの地名)大公フェルディナンド3世が、この絵をこよなく愛したことから大公の聖母という名前がついている。マリアと赤ちゃんのキリストの場合、聖母子と名付けられるのが普通だがなぜか聖母というタイトル。
大公の聖母

今回の展示会の中でも圧倒的な存在感、オーラを放っていた作品。ラファエロワールド全開である。もともとは背景が描かれていて後世に黒く塗りつぶされたということで、そういわれてみればラファエロの柔らかさや色彩感がが足りない気もするが、いわれなきゃこれはこれで二人が浮かび上がって神秘的。



がしかし、私は重大なこと?に気がついてしまった。

上に貼った画像には向かってガウンの左側の真ん中から下に伸びる白い線がある。マリアの向かって顔の右側から胸にかけても白い線がある。これは絵についた傷だと思う。それでネットでこの絵を探すと、このキズがあるものとないものの2種類が存在するのである。


展示会のホームページの写真にはキズはない。
国立西洋美術館


テレビ東京の美の巨人という番組で紹介された大公の聖母にはキズがある。これは現地の美術館で撮影したもの。だからキズがあるのが正しいような気がする。
美の巨人


ウィキペディアの写真にもキズはある。
(色が黄色いのは画像処理の過程での色ずれだから、とりあえず無視して)
ウィキ日本語版


しかし同じウィキペディアでも英語版にはキズがない。
ウィキ英語版


いったいどっちが正しい?
そこでこの作品が収蔵されているイタリア・フィレンツェのパラティーナ美術館のホームページを調べてみた。本家にはキズはある。
パラティーノ





      どういうこと?????


推論1
どちらかが贋作。あるいは展示や貸し出し用のレプリカ。しかし仮に贋作・レプリカだとしても、こんな目立つところを書き間違えるとは考えづらいが。

推論2
キズのところを最近修復して、修復前後の画像が出回っている。でもネットで調べたがキズを修復したという情報はなかった。

推論3
単に作品を写真に撮った時の微妙なライティングなどの違いで、キズが目立ったり目立たなくなっているだけ。ーーーかなり大きなキズなので、ちょっと説得力が弱い。

推論4
画像ファイルによってはレタッチでキズを修復してある。
ーーーあり得るけど、美術館がそんなことするかな?


う〜ん、ナゾ ところで実際にこの目で見た上野の国立西洋美術館の展示にキズはあったかどうかというとーーーそんなことを気にしていなかったから、よく覚えていない(/o\)

なんとなく写真で判断する限りレプリカ疑惑がぬぐえないが
まっ、きれいな作品だったから、どっちでもいいや。




ジローラモ・デッラ・ロッピア
「聖母子と幼い洗礼者ヨハネ」
こういう工作物を何と呼ぶのかわからないが、ラファエロの絵を陶器で再現したもの。ジローラモというのが作者の名前。珍しさもあってとても気に入った。公園にある小便小僧とはハッキリとレベルが違う。
美しき

焼き物だから、この類のものは型を取ってたくさん作れるはず。名画をモチーフにした立体置物なんてインテリアとか庭の置物におもしろいと思う。私もひとつ欲しいね。


これが陶器のモデルになったラファエロの「美しき女庭師」という作品。今の日本なら美しすぎる女庭師とでも呼ぶところ。この女性は聖母マリアその人なのに、なぜ庭師というマリアとも絵の情景とも関係ないタイトルがついている。なおこの絵は今回の展示作品には含まれていない。
美しき オリジナル




大公の聖母以外にもうひとつくらい目玉となる作品が欲しかった気もするが、まあこんなものかな。でも満足度はちょっと低め。肖像画は似たようなものも多かったし、ラファエロの後継者とされる彼以外の画家の作品はイマイチだった(ラファエロの作品の後に見たせいもある)。またラファエロの作品をモチーフにした陶器の皿がたくさんあったものの、私には土産物屋レベルにしか見えなかった。

無理に作品数を欲張らないで、これぞという作品10点くらいだけで、その代わり入場料300円くらいでやってくれればいいのにと思う。ちなみに今回の入場料は1500円。このチケットで通常420円する常設展も見られるから実質1080円という計算もできるが、常設展抜きの料金も設定して欲しい。見たいと思っても、いつも時間がないから。



ついでに美術館前庭にあるロダンの彫刻。
「カレーの市民」という作品。カレーとはフランスの地名。
IMG_0809


これは誰でも知っている「考える人」。
逆光で撮ったら虹みたいな光線になっちゃった。
IMG_0813


wassho at 23:49|PermalinkComments(0)

2012年11月01日

リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝展 その2

美術館というのは広い展示室に大きな壁があって絵が展示されている。掛けられている絵が違っても、どの展覧会どこの美術館も基本的なスタイルは同じ。でも、このリヒテンシュタイン展は違った。

天井にドーンと絵がある。
キンキラキンな鏡台や蝋燭台なども多数。
写真じゃわかりにくいが、壁際の床は石を敷き詰めたようになっている
B1

これはバロックサロンと名付けられた展示室。
バロックとは17〜18世紀頃の美術様式。一言で言えば絢爛豪華。受験勉強的に覚えるならばゴシック→ルネサンス→バロックと続く。

リヒテンシュタイン侯爵家のお屋敷に較べれば、張りぼてのセットでしかないとしても、こんな風な展示は見たことがないからテンションが上がる。まさか美術館で天井を眺めて絵を見るとは!

それとやっぱり絵というのは生活空間の中で眺めるものだなと改めて思う。いわゆる名画は現実的には美術館で見るしかない。しかし壁しかない空間で絵を見るというのは、ガランとした音響視聴室で聴く音楽みたいなもの。音質がよくても音楽として楽しくないのと同じで、どこかこの目で見ているのに実感がわかないときがある。あ〜それにしても、これくらいの玄関ホールのある家に住みたい。

正直に言うと、この展示室にあった絵は、あまりたいしたことなかった。天井画はまあまあだったが、不思議なもので天井にあると絵というより「装飾」に見えてくる。こんな空間に慣れていない庶民だからかな。


※サロンの写真はインターネットミュージアムから引用。


バロックサロンの後は通常の展示室に。
最初はルネサンス期の絵が展示されていた。

「男の肖像」
   ラファエロ
1-1

彼のごく初期の作品。モデルが誰かわからないので、後世に「男の肖像」と名付けられたらしい。人物はいい味を出しているのに、背景がチャッチイところが気に入らないと生意気をいってみる。



「古代ローマの廃墟のある風景」
  ヘルマン・ボステュムス
1-2

実際の風景ではなく、いろんなローマ遺跡を空想で組み合わせた風景とのこと。古代ローマ版「ツワモノどもが夢の後」なイメージで印象深い。ただ中央一番下に描かれている女性がアメリカンコミックの登場人物のように見えて(服や髪の配色のせいか?)、いったんそれに目がいくと強烈な違和感を感じてしまう。



「井戸端のキリストとサマリアの女」
  チーロ・フェッリ
1-3

のんびり世間話をしている男女だと思っていたら、男性はキリストだった。うまく表現できないが、丁寧に描き込んだ絵だと思う。



「ベツレヘムの人口調査」
  ピーテル・ブリューゲル
1-4

画家は何でも作品の素材に仕立て上げるものだなと感心。少し幼稚なイラストっぽいのだが、こんな絵がリビングにあれば楽しいと思う。

それと、たぶんこの絵の構図は写真では撮れない。かなり遠近感的にデフォルメされているはず。新しいデジカメを買って多少は考えて写真を撮るようになってから、風景画の中に込められたトリックというか技法というか、画家の意図するところが少し感じられるようになってきたように思う。たぶん勘違いなんだろうけど。




この展示会はバロックサロンあり、後で書くがいろいろな工芸品ありと見所の多い内容。でも一番の目玉はルーベンス。リヒテンシュタイン侯爵家はルーベンスを30点ほどコレクションしており、そのうちの10点が来日。ルーベンスだけの展示室が設けられている。


「キリスト哀悼」
  ルーベンス
2-2

圧巻だったのがこの作品。
キリストの顔は血の気がなくグレーで描かれている。まあ死んでいるのだからそれもあり。キリストの顔を触っているのはマリアで、なんと彼女の顔もグレーである。死ぬほど悲しいということなんだろうと解釈した。ブログの写真では見えないが、集まっている人の涙にはうっすら血が混じっている。キリストの鼻の穴は鼻血が固まったように描かれている。

たまたまだが、照明がその鼻血に反射して妙にリアルだった。血を流すキリスト像とか奇蹟のたぐいの話を聞いたことがあるが、何かそんなものを見た感じになった。



「占いの結果を問うデキウス・ムス」
   ルーベンス
2-3

ルーベンスといえば宗教画。だが、この展示会で宗教画は「キリスト哀悼」だけで、ほかは古代ローマ帝国をモチーフにしたものが多かった。宗教画以外を見る機会はそうないだろうから、考えようによっては貴重な経験。この絵は堂々たる構図。そしてサイズも堂々たる幅4メーター超。お腹いっぱいになった。


「果物籠を持つサテュロスと召使いの娘」
   ルーベンス
2-4

ギリシャかローマの神話がテーマだと思う。
巨匠ルーベンスも、たまにはこんなお茶目な絵を描くということで(^^ゞ




絵だけではなく、いろいろな工芸品も展示されている。先ほどのバロックサロンのほかに、クンストカンマーという展示室が設けられている。クンストカンマーとは王侯貴族の館でお宝を展示する部屋のことらしい。初めて聞いた言葉なので、調べてみるとドイツ語で「ビックリする部屋」というような意味。つまりゲストにお宝を見せつけて自慢しようということ。日本人はお宝を蔵にしまうけれど、西洋人は装飾に使ったり展示したりする。メンタリティの違いかな。

展示されていたのものは、こんな感じのあれこれ。
いかにも高価そうな匂いがプンプン。
3-1

3-2

3-3

3-4



クンストカンマーの後は、また絵の展示となる。


「マリア・デ・タシスの肖像」
   アンソニー・ヴァン・ダイク
4-1

何となく見入ってしまったのは絵が素晴らしいからか、モデルが魅力的だからか?
よく見るタイプの肖像画だが、とても生き生きした絵だと感じた。



「キューピッドとシャボン玉」
   レンブラント
4-2

レンブラントのイメージとは違うラブリーな絵。愛くるしい姿に目がいくが、よくみれば矢も弓もしっかりと書かれている。この有名な愛の神様はCupidでキュービッドなのだが、なぜかキューピットと「ド」ではなく「ト」が一般的。末尾の「ド」は日本語的に発音しづらいからだろうか。



「復習の誓い」
   フランチェスコ・アイエツ
4-3

タイトルを読まなくても、何か悪巧みを考えているのは一目瞭然。
こんな女性に恨まれたら逃げ切れない!



「夢に浸って」
   フリードリヒ・フォン・アメリング
4-4

この儚げな女性も、怒ると上の絵のような顔になるのかと想像してみたり(^^ゞ タイトルから考えて、小説でも読んで物思いにふけっていると思われるが、どんなストーリーだったら、彼女にこんな表情をさせるのだろう。



バロックサロンの天井画に驚かされ、ルーベンスの巨大な絵に囲まれ、その他の絵も趣味がよく大変気に入った展示会だった。超一級の作品はないから「あの〇〇〇を、この目で見てきた」というミーハー的なうれしさはないとしても、それで不満は全くない。確固としたテーマがある=同じような絵をたくさん見せられる展示会より、こういったバラエティに富んだ作品を見られる展示会のほうが私は好き。

東京は12月23日まで。その後は高知と京都でも開催される。
見て損は絶対しないとお薦めしておく。


おしまい

wassho at 07:07|PermalinkComments(0)

2012年06月09日

レオナルド・ダ・ヴィンチ 美の理想 展

そのうち行こう行こうとグズグズしているうちに、気がつけば会期終了1日前。混んでるだろうな〜入場するまでに並ぶんだろうなあ〜。しかも朝からずっと雨。クジケかけたが何とか見に行ってきた。実は特別に見たい絵があったわけではない。でも、これを逃せばたぶん一生見られない光景が、この展覧会にはあったから。


話は変わるが、昨年は心が滅んでいて?満開になるまで気がつかなかった駅に行く途中のアジサイ。今年は咲き始めから眺めている。ところで実家のアジサイのまわりでよくカタツムリを見かけたせいか、私の意識の中でアジサイとカタツムリはセットの存在である。皿に載ったエスカルゴを別にすれば、もう長い間見ていない。不審者に間違われない程度にアジサイのある植え込みの中を探してみたが、残念ながらカタツムリはいなかった。絶滅危惧種?
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展覧会は渋谷の東急文化村でおこなわれている。東急百貨店本店に隣接している施設で渋谷駅から行くには109の右側、つまり道玄坂を上がっていけばいい。でもわざと左側の道を進み途中で右折する。そのあたりは円山町。昔の花街で今はラブホテルやクラブ(音楽のほうね)が密集しているエリア。どこか裏渋谷的なイメージがあって何となく好き。


到着したのは2時頃。特に並ぶこともなく入ることができた。
でも会場内はかなり人が多かった。

ところでアジサイを見ればカタツムリが連想ゲームのように思う浮かぶのだが、私は昔からダ・ヴィンチとミケランジェロ、どっちがどっちだったかどうも混乱する。どちらもイタリアのルネサンス期(14〜16世紀)の巨匠で、ダ・ヴィンチが絵画寄り、ミケランジェロが彫刻や建築寄りである。しかし両者の名前の語感はまったく違っても、日本語の語感とはかけ離れているという点で一致しているからだろうか? でも数年前ダ・ヴィンチ・コードという映画があって、あれはダ・ヴィンチの「最後の晩餐」が大きく取り上げているから、それでようやくダ・ヴィンチ=ダ・ヴィンチ・コード=絵のほうの巨匠という区別がぱっと思い出せるようになった。


●「ほつれ髪の女」レオナルド・ダ・ヴィンチ

展示会のポスターにもなっている今回のメイン。30センチ四方くらいの小さな作品。よく描けていると思うが、別に「フ〜ン」というのが正直な感想。
ほつれ髪


ダ・ヴィンチは誰でも知っている有名画家だが、彼自身が描いて残っている作品は10数点と少ないらしい。だからこの展示会も、ダ・ヴィンチが下絵を描いて弟子が仕上げたとか、ダ・ヴィンチが構想して他の画家が描いたというようなものが多い。ルネサンス期はそういう工房システムで制作されていた時代でもある


●「衣紋の習作」レオナルド・ダ・ヴィンチ

これも数少ないダ・ヴィンチ自身が描いたものだが、こんなもの見せられてもーーー。美大の学生、いや美術部の高校生でも描けるかな。まあ美術品は作家のネームバリューによって価値というか、ありがたみが決まるようなところがあるから、私も「あのダ・ヴィンチが練習書きしたものをこの目で見た」と喜んでおくことにしよう。
習作3



●「岩窟の聖母」レオナルド・ダ・ヴィンチと弟子

宗教的な作品。左の赤ちゃんがイエス・キリストで、右の赤ちゃんがイエスに洗礼を与えるヨハネらしい。そのあたりあまりよくわからないが、彼の代表作モナリザもそうだけれど、ダ・ヴィンチは岩山みたいなものを描くのが好きなのかなあと、どうでもいいような想像をしてしまった。
岩窟の聖母

実はこの絵は3枚あって、フランスのルーブルロンドンのナショナルギャラリーにあるのがダ・ヴィンチ自身によるもの。展示されていたのは弟子との共作みたいなものか。評判がよくて注文が多かったのかな? ロンドン版は非キリスト教徒には同じ構図にしか見えないが、イエスとヨハネの位置が解釈的には逆になっているらしい。ちなみに今回展示されていた絵は個人の所蔵物。どんな金持ち、あるいは由緒正しい人間なのか気になるね。



●「レダと白鳥」レオナルド周辺の画家

レオナルド周辺の画家って誰よ?という気もするが、これはダ・ヴィンチが下絵を描いた作品らしい。ギリシャ神話がモチーフの絵画で、白鳥に変身したゼウスがレダという女性を誘惑しているというストーリー。ゼウスは一番偉い神様なのに、女たらしでも有名な憎めないヤツ。でも変身の術を使うなんてズルイ(^^ゞ
白鳥



●「カーネーションの聖母」ラファエロとその工房(帰属)

ダ・ヴィンチにもカーネーションの聖母という絵があるが、展示されていたのは同時代のラファエロの作品。ちなみにダ・ヴィンチとミケランジェロとラファエロの3人がルネサンスの三代巨匠ということになっている。

作者名の「ラファエロとその工房」というのはラファエロがプロデュースしている工房で制作された、ラファエロ自身が描き手に加わっていたかどうかはわからないが、全くの無関係ではなかったという意味。そして「帰属」とは学説上ラファエロ工房で制作されたということになっているという意味。というわけで、いったい誰が描いた絵なのかハッキリしないのだが(^^ゞ

しかしラファエロらしい優しい絵で、ダ・ヴィンチ展なのに今回一番気に入ったのがこの絵。ダ・ヴィンチの絵はゴツゴツしているからね。でもこの手の宗教画を見ていつも思うのは、赤ちゃんの顔が大人なこと。ただの赤ちゃんじゃなくて神様や天使だからだろうか?
カーネーション3

ちなみに母の日のカーネーションとの関係はよくわからないが、キリスト教でカーネーションは「イエスの受難」を表す植物らしい。イエスが十字架に貼り付けにされて息を引き取ったとき、聖母マリアの流した涙がカーネーションにかわったとか。


ついでにダ・ヴィンチのカーネーションの聖母も参考に。
あっ、やっぱり岩山を描いている!
6carnat



ーーー続く

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